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23 報告

 バリオスと別れて、元居た建物へと戻り、ミラの案内で建物の中へと入っていた。


 建物の中は外観の綺麗さと同じく、綺麗な造りになっていた。

 白を基調とした壁に、綺麗な石造りの床。所々にある絵画や、鎧などの美術品の数々。

 うっかり触って壊したりしたら、とんでもない額を弁償しなきゃいけないだろうな…。

 最早、宮殿と言っても遜色ないだろう。


 そんな風に見回していると、ミラに声を掛けられる。


「そんなに珍しいかしら?」


「そうだな。こんなに豪華な造りの建物の中に入ったのは初めてだ。凄いところで働いていたんだな」


「確かにここの造りは豪華ね。でも、お客様を案内する所くらいよ。兵舎や食堂は普通の造りになっているわ。興味があるなら案内しようか?」


「良いのか?」 


「もちろん!」


 これは思ってもない提案だ。騎士団の施設を見て回れるなんて…こんな事そうそうあるものじゃない。


「それじゃあ、お願いするよ」


「ふふふ。任せて」


 話が終わった後が楽しみだ。



 少し歩いた後に、ある部屋の前でミラが立ち止まる。


「ここで少し待っててもらえる?」


「ああ。ここが応接間なのか?」


「いいえ。ちょっと持って行きたいものがあるから」


 そう言い、部屋の中に入り、しばらくもしないうちに戻ってくる。

 部屋から出てきたミラが大事そうに持っていたのは、討伐証明のタスクボアの牙二本だった。


「なるほどな、すっかり忘れていたよ。それがないと話が進まないもんな」


「そういう事!」


 大事そうに抱えていたソレは、結構な大きさがある。ミラも抱えにくそうにしているし、重さもそれなりにある。


「俺が持って行くよ。持つの大変だろ?」


 そう言うと、ミラは目を丸くしていた。


「え?いいの?」


「今更だろ?ここに来るまでにも持っていたし」


「それもそっか…それじゃあ、お願いね」


 ミラからタスクボアの牙を受け取る。

 受け取った牙を肩に担ぎ、落ちないように手で押さえる。


「よし、じゃあ行こうか」


「ありがと!」


 ミラは笑顔でそう言い、歩き出す。俺もその後に付いていった。



 また少し歩くと、今度は豪華な造りの両開きの扉の前で止まる。


「ここが応接間よ」


 その言葉を聞き、さっきあった事が思い出される。

 やべえ、緊張してきた!


「ふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。気を楽にしてていいからね」


 俺の緊張が伝わったのか、ミラはそんな言葉をかけてくれる。

 その言葉を聞き、少しは緊張がほぐれる。


「分かった。ありがとな」


 ミラは笑顔で応え、ドアノブに手をかける。


「失礼します」


 そう言い、部屋の中に入っていく。


「失礼します」


 俺もミラに倣い、部屋の中に入る。



 部屋に入ると、そこは廊下よりも更に豪華な造りになっていた。

 掛けてある絵画も、豪華な額縁で、天井から下がっているシャンデリアも大きさこそ小さいが、それだけでかなりの価値がありそうな美術品に見える。

 部屋の中央には高そうなソファーが対面に置かれていて、その真ん中にはこれまた高そうなテーブルが置かれている。

 今まで俺が見てきた世界とは全く別次元の空間だ。


 部屋の中央に置かれているソファーには来客用に着替えた姿のミラの親父さんが座っている。

 さっきの庭師姿の格好とは違って、威厳のある風格だ。

 気を楽に――とは言われたけど、こんなの緊張するなってほうが無理だって!


「待っていたぞ。さ、そこに座りなさい」


 親父さんはそう言い、俺たちを、親父さんの対面に座るように促す。


 ミラはスタスタと歩いて行く。俺も後に付いていく。

 ソファーの前に着いたところで、ミラが声をかけてくる。


「牙はテーブルに置いてもらえるかしら」


 俺は極力テーブルに傷を付けないようにそっと降した。


「背負っている荷物も横に置きなさい」


「は、はい…」


 俺は言われるがままに背負っていた荷物をソファーの横に降ろした。

 ミラがソファーに座り、俺もミラの横に座る。


「さてと、それでは話を聞こうか」


 親父さんはミラに声をかける。

 ミラはペルナ村でタスクボアを討伐したことを報告していた。

 親父さんはタスクボアの牙を手に取り、確認している。


「確かにこれはタクスボアのもので間違いないようだ。二人で討伐したのか?」


「いいえ。私一人で討伐したわ。クレイグは道案内をしてくれていたの」


 ミラはありのままを報告する。

 俺も同意の意味を込めて頷く。


「そうか、ちゃんと言いつけ通りにしていたのだな。クレイグ君も案内してくれてありがとう」


 いきなり感謝をされて驚いてしまう。


「はい、恐縮です…。ですが、頼まれたことをしただけですので…」


「そんなことないわ。クレイグがいなかったら危なかったもの」


 ミラが少し大きな声で俺の言葉を遮る。

 それを聞いた親父さんが反応する。


「他にも何かあったのか?」


 親父さんはミラに問いかける。

 ミラはウォールベアに襲われた事を話す。

 ウォールベアに襲われたときに助けてもらった事、二人で討伐したことを伝えていた。


「そんなことがあったのか!娘の恩人だったとは…。クレイグ君、重ね重ねありがとう」


 親父さんは立ち上がり、俺に向かって深々と頭を下げる。

 ミラもそれに続いて立ち上がり頭を下げる。

 ちょっと待ってくれ!俺も困惑してしまうって!


「いえ、そんな…」


 俺も立ち上がったはいいものの、どうしていいか分からなくなり、あたふたしてしまう。


 二人は頭を上げた後、顔を見合わせる。


「お礼がしたいのだが、話はどうなっている?」


「一応、タスクボアとウォールベア。それに十万ルアになっているわ」


「そうか。それでは足りないな。クレイグ君は他に必要な物はあるのか?」


 話がどんどん進んでいく。

 他に必要な物って…。もう話がついているんですけど!


「いえ、大丈夫です。もう折り合いはついていますので!」


「駄目だ!クレイグ君は何日ここに滞在するんだい?」


「え、あー…ミラが出発出来るようになったらですかね?」


 俺がそう答えると、不思議そうな顔をしてミラを見ている。


「どういう事だ?」


 親父さんはミラに声をかける。


「実は私…冒険者になっちゃった!」


 ミラは鎧の中にしまっていたネックレス型のタグを親父さんに見せている。


 そのタグを見て、親父さんは頭を抱えながらソファーに座りこんでしまった。



 話が散らかり過ぎて収拾がつかなくなりそうだったので、俺とミラで一から順番に話をまとめていた。


 ミラが村に来た事。

 二人でタスクボアを狩りに行った事。

 ウォールベアも討伐した事。

 俺と一緒に冒険者になった事。

 そして、そのままパーティーを組んだ事。

 バリオスのせいで、ペルナ村にウォールベアが出たり、クオルで異変が起きていた事。

 バリオスも仲間に加わった事。


 一通り話し終わった後、親父さんはまた頭を抱えていた。


「はぁ…。ペルナ村とクオルには一応騎士を向かわせることにする。その後に異変が起きないとも限らないからな。バリオス君は…さっきの様子を見ていると大丈夫だろう」


 親父さんは順序だてて問題に対応している。


「それにしても、ミラが冒険者になって帰ってくるとは…」


「いいじゃない。最初からそのつもりで試験を出していてくれてたんだし」


「それはそうなんだが…。報告するまで待てなかったのか?」


「だって、いい人がいたら直ぐに声を掛けろって言ったのはお父様じゃない。だからクレイグと一緒に冒険者になったの」


「うっ…。そうか…」


 親父さんはミラに押されて小さくなってしまっていた。が、気を取り直して話を続ける。


「冒険者になったのは認めるしかないな…。クレイグ君なら人となりも良さそうだ」


「は、はい。ありがとうございます…」


 その言葉を聞いたミラもこっちを向いてニコニコしている。


「ただ…」


 親父さんは言葉を続ける。

 なんだろうか…?


「話を聞く限り、剣の腕は申し分無さそうなんだが…ウォールベアを吹き飛ばせる人間なんてそうそう居るもんじゃないしな。しかし、実際に見てみない事には分からないことも多い。そこでどうだろうか。私と手合わせしてみないかね?」


 親父さんからはそんな言葉が放たれる。


 ええええええ!!!??

 いや、自分の娘を預ける人間って考えたら、実際に見てみたいってのは分かるんだが…。

 目の前にいる人は騎士団長だぞ!?俺なんかが手合わせしていいのか?


 俺が返答に困っていると、ミラが話しかけてくる。


「いいじゃない!クレイグの凄さ見せつけちゃってよ!」


 サラっとそんな事を言いなさる。

 でも、ここまで言われたら引き下がるわけにはいかないよなぁ…。


「わかりました。よろしくお願いします」


 俺が返事をすると、親父さんは立ち上がり、続けて言う。


「さあ、そうと決まれば早速準備に取り掛かるとしよう。場所は…第四訓練場が良いだろう。他の訓練場は今他の団員が使っているだろうし。ミラはクレイグ君を案内してあげなさい」


「分かったわ。それじゃ行きましょ」


 ミラも立ち上がり、俺もそれに続いて立ち上がる。


「クレイグの荷物はここに置いて行ってもいいかしら?」


「ああ。今日は来客もないし、良いだろう」



 三人揃って部屋から出る。


「私は少し寄る所があるから先に行っていなさい」


 親父さんはそう言うと、一人で去って行った。



「何だか凄いとこになったな…」


「そう?」


 そう言いながらミラは俺の顔を覗き込んでくる。


「クオルに着いた初日にミラの親父さんと手合わせ…ってな。しかも騎士団の団長なんだろ?あまりにも実感がなくてな」


「ふふふ、そうね。でも現実よ?」


 まあ、そうなんだよな。

 こうなったらもう割り切るしかないか。


「さあ、行きましょ!」


 俺はミラと一緒に訓練場へと向かった。

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