22 騎士団長
衝撃的な事が多すぎる。
目の前にいた男性が騎士団の団長で、ミラの父親。
しかも、ガーランド!?
ガーランドっていえばこの辺の領主の姓だぞ。
という事はミラは領主の親族って事だ。
この国では貴族しか姓を持ってないし、ミラは貴族だったって事か。
この男性の一言だけで、情報量が多すぎる。
口を開こうにもうまく言葉が出てこない。
俺がしどろもどろになっていると、男性は俺に問いかけてくる。
「君の名前を教えてくれるかな?」
言葉は優しいが、貴族…ましてや騎士団長って分かった後の言葉は、威厳というか、むしろ少し威圧感として聞こえるくらいだ。
俺は必死に声を絞り出して答える。
「は、はいっ!クレイグっていいます!」
自分の予想よりも大きな声が出てしまう。
俺の様子を見たミラは、口元を手で覆い小さく笑っている。
うおおぉぉぉ…滅茶苦茶恥ずかしいぞ。
男性も少し表情が柔らかくなり、言葉を続ける。
「元気が良くて何よりだ。それで…クレイグ君はミラのお客様ってことで良いのか?」
「ええ、そうよ。お父様に紹介しようと思っていたの」
「ふむ。それはそれとして…まずはこの馬について話してもらおうか」
ミラの親父さんはバリオスをまじまじと見つつそう言った。
そりゃそうだよなぁ…。ここまではミラが連れていたから特に問題にはなっていなかったが、普通に見れば魔物と大差ない風貌だ。さっきもまじまじとバリオスを見ていたし、説明は…必要だろうな。
俺はミラの方を見てみる。ミラもこちらを見ていた。
「お父様、少しいいかしら?クレイグと話がしたいの」
「ああ、構わないよ。出来るだけ手短にな」
ミラは、そう会話をしてからこちらへと歩みを進め、俺とバリオスを連れて親父さんから距離を取る。
少し離れた後に、俺たちは向き合った。
「えっと…貴族だった…んですか?」
俺は、目の前のミラに向かってそう言う。
今までは普通に喋ってはいたが…流石に貴族と分かったうえで普通に喋るのは気が引けてしまう。
「いきなり畏まらないで。敬語を止めようって言ったのは私だし…。それに、今はもう仲間なんだから。今まで通りで良いのよ?」
ミラの口からはそんな言葉が出てくる。と同時に少し申し訳なさそうな表情をしている。
正直、貴族と話すのは初めてだ。
どういう言葉選びをしていいかも分からない。
さっきの衝撃もあって、頭の中の整理が追い付いていない。
でも…ミラにとっては距離を置かれたと取られても仕方ない言葉だったな…。
もちろん俺にはそんな意図は無い。
むしろ、俺も仲間だと思っている。
これは素直に言った方が良いな。
「すまない。俺も仲間だと思ってる。少し…衝撃的だったせいで混乱してるみたいだ」
俺はそう言い、頭を下げる。
言い訳がましく聞こえただろうが、これが俺に出来る精一杯だった。
「こちらこそごめんね。本当は順を追って説明したかったのだけれど…」
「クオルに着いたら話すって言ってた事…か」
「そうね。それは後でちゃんと説明するわ」
「ああ、分かった。でも、まずはバリオスの事だな」
俺とミラはバリオスの方を見る。
「俺はちゃんと説明した方が良いと思うんだが…。ミラはどう思う?」
「そうね。お父様は鋭いし、下手に嘘をついても通用しないわ」
やっぱりそうだよな。騎士団のトップだし、言い訳や嘘は通用しないとは思っていた。
それはそれとして…
「説明したところで信じてもらえるか?」
「そこなのよね。バリオスに喋ってもらうのが早いのだけれど…」
俺たちが考えを巡らせていると、バリオスが話しかけてくる。
『まあ、なるようにしかならないだろ』
あまりいい考えが浮かばない俺たちにそう言う。
「そうなんだよな…。でも、下手したら一緒に旅出来なくなりそうでな…」
『俺の事は気にすんなよ。元々一緒にいること自体おかしい事な様だし。今まで一人だったし、どうなっても気にしないさ』
「とりあえず、正直に話してみましょう」
ミラがそう言うと、俺たち二人は頷き、元の場所に戻る。
ミラの父親さんのいる場所に戻ると、ミラから説明がされる。
グノットの近くの森で出会った事。
俺たちに協力的だった事。
町でも大人しかった事。
ミラは要点をまとめて簡潔に話していた。
親父さんもその言葉を静かに聞いていた。
そして最後に
「実はこの子…喋る事が出来るの」
ミラの言葉を聞いているだけだった親父さんも、その言葉には反応を示した。
「どういう事だ?馬が喋るとは…」
目を丸くしてミラとバリオスを交互に見ている。
「実際に喋ってもらった方が早そうね。バリオス、挨拶は出来るかしら?」
ミラはバリオスに促す。
『よう、俺はバリオスだ。これでいいか?』
親父さんはあまりの衝撃に言葉を失っていた。
俺たちと一緒の反応だ。こういう反応になるのが普通だろう。
「これで分かってくれたかしら?」
ミラはよく見せる得意げな顔になっていた。
親父さんは、さも信じられないといった感じで、再びバリオスを見ている。
『またか…お前たちと一緒の反応だな』
俺とミラを見てバリオスはそう言う。
俺も思っていたけど、やっぱりバリオスもそう思っていたか。
「まあ…これが普通の反応だと思うぞ」
俺たちが会話していると、親父さんも口を開く。
「本当に会話が出来るのだな…。童話か、神話の中の話だけだと思っていたが…。これは信じるしかなさそうだ」
「そうでしょ!凄いのよ!」
ミラは自分の事のようにはしゃいでいる。
その様子を見て、親父さんの雰囲気も柔らかいものになる。
「そうかそうか。それで…危険はないのだな?」
「ええ、大丈夫よ!私たちの仲間なんだから!」
そう言い、バリオスを撫でている。
バリオスも抵抗することなく撫でられていた。
「分かった。そういうことなら問題はなさそうだな」
良かった…。なんとか問題にならずに済んだか。
「受け入れてもらえて良かったです。ありがとうございます」
俺は感謝を伝える。
「娘がこんなに言っているしな。それに、最初に見た時から悪い気配は無かったのでね」
「見ただけで分かるんですか?」
「大体の場合はな。長く魔獣を見ていると、そういった眼も養われていくものだよ」
「凄いですね…」
ルークも見ただけで武器や防具の良し悪しを見抜いていたし、その道のエキスパートはとてつもないな。
俺も、あの能力があるから見えるってだけで、能力が無いとそういったものは分からない。俺もいつかはそういう事が出来るようになるだろうか…。
俺が感心していると、親父さんが再び口を開く。
「さて、バリオス君の話も片が付いたし、中に入って話でもしようか。ミラの報告も聞かなければならないし」
「ええ、そうね。それじゃあバリオスは…厩舎でいいかしら?」
ミラはバリオスと親父さんを見てそう告げる。
「そうだな。問題がなければそれでいいだろう。バリオス君はどうかな?」
『ああ、いいぜ。あれだろ?また大人しくしていればいいんだろ?』
「話が早くて助かるわ。ありがとね」
『今日は結構走ったからな。少しゆっくりさせてもらうぜ』
バリオスはその場で足踏みしてアピールしている。
「そうね。今日はゆっくり休んでちょうだい」
「私は応接間で待っているから、案内が終わったら応接間まで来なさい」
親父さんはそう言って俺たちと別れ、建物の中へと入っていく。
ミラはバリオスを連れて厩舎へと案内する。
俺も厩舎へ付いていくことにした。
◇
バリオスを厩舎に連れて行く。
大人しく厩舎に入ったバリオスは、そのまま藁の上で横になって大人しくしていた。
流石にあの距離を走ったんだし、疲れているだろう。
俺たちはバリオスに別れの挨拶をしてから厩舎を出た。
バリオスと別れて緊張から解放されたのか、体が凝り固まっているのが分かった。
俺は肩を回したり肩を揉んだりしていた。
その様子を見たミラに声を掛けられる。
「そんなに緊張したかしら?」
ミラは笑みを浮かべながら聞いてくる。
「そりゃあ緊張するさ。庭師だと思ってた人が騎士団長だなんて…。しかも、ミラまで貴族とかさ」
「そう言われるとそうね。お父様の恰好もあんなのだったし、驚くのも当然よね」
「本当だよ…。寿命が縮むかと思ったぞ」
「でも、いつものクレイグらしくないところも見ることが出来て面白かったよ!」
「忘れてくれよ…」
いつかした会話の逆パターンだな、これは…。
俺とミラは二人並んでさっきの建物へと向かった。




