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20 約束

 今日もいつも通りに目が覚める。


「んーーーーーーーーーっ」


 大きく背伸びをすると、段々と意識がはっきりとしてくる。

 あー良く寝た。

 体調もいいし、今日も軽く鍛錬するか。


 いつも通りに準備を済ませ、町の外に出る。

 この町に来てからは朝の鍛錬は欠かしていない。天気も良かったし、朝に動いていないと一日の動きが鈍くなってしまう気がする。


 今日の天気も快晴だ。少し肌寒いが出発するころにはもう少し暖かくなっているだろう。出発するにはうってつけの天気だ。


 ミラの話では、クオルまでは馬車で二日の距離らしい。

 そういや昔、親父と一緒にクオルからグノットに来た時も二日くらいだったな。…十年も前の事だから記憶は定かではないけど。

 途中で野宿することになるだろうし、用品も買ってから出発しないとな。



 鍛錬を終え、もろもろの準備を済ませてから、いつものようにロビーでミラを待つ。

 ギルドで見かけた日から、あの変な奴には会っていない。

 あんなことがあったから、あれ以来早めにロビーに降りるようにしている。

 昨日もバリオスの手綱を買ってきてもらった時も会わなかったみたいだし、もうこの町にはいないのかもしれないな。


 しばらくするとミラがやってきた。


「おはよう」


「おはよう。いつも早いわね」


「早く起きるのが体に染みついているからな」


「私も早い方なんだけどなー」


 そんな風にやり取りをして、宿から出る。

 さっきよりも暖かくなっていて過ごしやすくなっているな。

 ミラも大きく伸びをしている。


「さ、早くバリオスを迎えに行きましょ!」


「そうだな」


 ミラと共にバリオスのいる厩舎へと歩みを進めた。



 厩舎へと向かっている途中で見知った人物が前から歩いてきているのが分かった。

 向こうも気付いたのか手を振っている。


「ロニーさん、おはようございます」


「おはようございます。ロニーさん!」


 ミラも挨拶していた。


「おはよう二人とも。今日も仲良くクエストかい?」


「いえ、俺たちはクオルに向かうんです」


「そうなのか。もう少しで祭りなのに見ていかないのかい?」


 この町の祭りは、子供の頃に親父に連れられて何回か来たことがある。

 町の賑わいも凄いし、屋台もかなり多く出る。夜には花火も上がるんだ。村にいても音が聞こえるし、町の方を見下ろせる場所だと花火自体も見える。

 ここ最近は親父の体の都合もあって見に来ることは無かったんだよな…。


 祭りは少し見たかったが、今はミラの報告の方を優先するべきだろう。期日ももう迫っているらしいし。


 ロニーさんの問いにはミラが答えてた。


「本当は見ていきたかったんですけど、私の都合でクオルに行かなきゃならないんです…。


「祭りよりも優先する事があるなら仕方ないね」


「はい…。ロニーさんは見て行かれるんですか?」


「ああ、そのつもりだよ。調査も終わったし、少しくらい楽しんでも何も言われないしね」


 ロニーさんの調査…原因はバリオスだったっていうのは分かってるのかな?

 今はバリオスも町にいるし、終わったってことは俺たちが連れて行っても問題はないよな…?

 あまり触れないでおこう…。


 俺たちはロニーさんに挨拶をして別れた。



「あーあ。クオルに帰らなきゃならないんて…。私もお祭り見たかったなー」


 ミラはそう言っていじけている。

 

「祭りは今年だけじゃないんだし、また来年来ればいいじゃないか」


「じゃあ、来年は絶対一緒に来ようね!」


 そんな提案をされる。

 嬉しい反面、来年まで一緒に旅をしているのか?という疑問が頭の中に浮かんでくる。

 正直、今のこの関係は心地良い。いつか…それぞれ別の道を歩む時が来るまでは、俺もこの関係は続けたいと思っている。

 …断る理由もないな。


「ああ、わかったよ」


「約束ね!絶対だよ!」


 俺はミラと指切りをする。


 来年も一緒に来られるように頑張ろう。



 厩舎に着き、バリオスに会いに行く。

 馬房に入る前からバリオスは顔を出していた。


『おーい。待ちくたびれたぞ』


 俺は手を振り挨拶をする。

 流石に、離れているのに声をかけると変な人に思われかねない。横には職員さんもいるし。

 俺たちは近づいてから声をかける。


「お待たせ」


 これくらいの挨拶なら怪しまれたりはしないだろう。


「おはよう。ちゃんといい子にしてた?」


 ミラもそう言い、バリオスを撫でていた。

 バリオスも気持ちよさそうに目を細めながら撫でられている。…この二人絵になるな。

 

『少し狭かったが、思ったよりも快適で良かったぜ』


 職員さんのこの様子だと、暴れたりもしなかったみたいだし、旅でも上手く馴染んでいけそうだな。


 ミラは手綱を付けて、バリオスを引いている。

 バリオスも変に暴れたりしないし、問題なさそうだ。



 バリオスと共に厩舎を出る。


 後この町でやっておく事は…旅の用品の購入だな。

 食料や、携帯できる料理道具、後はテントなんかも必要だ。

 バリオスにもニンジンがあった方が良いだろうし。


 俺たちは繁華街の方へと歩みを進める。

 すると、バリオスが話しかけてきた。


『おい、どこに行くんだ?町の出口はあっちだろ?』

 

 バリオスは町の外に顔を向けている。


「食料や、必要な用品なんかを買いに行くんだ」


『そうなのか。人間は不便だな』


 こっちからすれば、霊獣が便利すぎるだけな気がするんだけどな!


「次の町までは二、三日かかる予定だから、それなりに用意しないといけないのさ」


『ふーん。じゃあ俺に乗っていくか?』


 え?乗せていってくれるのか?


「乗せていってくれるの?」


 ミラも不思議に思ったのか、バリオスに聞いていた。


『ああ、いいぜ!昨日言ってた鞍?がなくても何とかなるだろ。行先は教えてくれよな』


「行先はあっちの方ね」


 ミラはクオルのある方向を指している。


『あっちの方か。俺が来た方向と一緒だな』


「そうなのか?てっきりこの辺の山にいたのかと思ってたよ」


『熊を追いかけてたらこっちの方に来てな。そうだな…向こうの町まで行きたいなら…今日中には着くと思うぞ』


 マジかよ。一日で着けるとは思わなかったぞ。


「本当!?それじゃあお願いしてもいいかしら?」


『ああ、任せておけ!』


 バリオスは快く引き受けてくれた。


 歩いて行くのも悪くはないが、早く着けるに越したことは無い。

 ミラも、早くクオルへ行きたいだろうしな。

 何より初めての乗馬だ。乗馬はしてみたかったから俺だって楽しみだ!


 そうなったら、この町で買うものは昼飯くらいでいいかな。

 ミラにも伝え、俺たちは昼飯だけ買うことにした。

 勿論バリオスのニンジンも買うぞ!



 俺たちの昼飯だけを買い、町の外に出る。


 俺は乗馬は初めてだから、ミラに手綱を任せる。荷物は全部俺が持つことにした。

 荷物の量は多いが、村からグノットに来るときにミラの荷物は持っていた。これくらいの重さなら平気だ。


『さあ、乗ってくれ』


 バリオスはそう言ってはいるが、背が高いんだよな。鐙もないし、ミラはジャンプしても届かないだろう。


「ほら」


 俺は手のひらをクロスさせて足場を作る。


「え?重くないかしら?」


「これくらい平気だ」


「それじゃあ失礼して…」


 ミラは俺の手のひらに左足をかける。同時にバリオスの背に手をかけ待機する。


「いくぞ」


「ええ、よろしく」


「せーの…よっと」


 ミラをそのまま上に持ち上げる。


 ずっしりとした重みが手に伝わってくる。…鎧ってのは結構重いんだな。

 ミラの体重は知らないが、鎧が重いのは間違いない。いつもこんなのを着ているのは凄いな。それだけで鍛錬になるだろう。


 ミラは無事にバリオスの背に乗れた。


「重くなかった?」


「平気だって言ったろ?大丈夫だよ」


「ありがとね」


 ミラは笑顔でお礼を言う。


「いえいえ、これくらい」


 俺もそう返した。


 さあ、今度は俺の番だ。

 荷物を一旦バリオスの背に置き、ミラに支えていてもらう。

 バリオスの背に手をかけて、そのままジャンプする。


「よっと」


 予想よりも高かったが、これくらいなら問題にならないな。

 俺も、荷物を落とすこともなく無事にミラの後ろに跨がれた。


「重くないか?」


『これくらいなんともないぞ。何も乗ってないのと同じだ』


 流石に霊獣と呼ばれていただけあって頼もしいな。


「流石ね!」


『もっと褒めてくれたっていいぞ!』


 バリオスは気分を良くしたのか、そんなことを言っている。


「頼りになるよ」


 俺も褒めてみた。


『そうだろう、そうだろう!俺に任せとけ!』


 バリオスの反応を見て、俺とミラは笑っていた。


『それじゃ、出発するぜ』


「クレイグは乗馬に慣れていないから最初はゆっくりお願いね」


『おう、任せとけ』


 俺たちはグノットを後にした。



 クオルまでの旅は順調だ。

 途中に昼飯をはさんで、ひたすらにクオルまでの道を進んでいる。


 初めての乗馬だったが、ミラのおかげもあってすぐに慣れることが出来た。

 バリオスもこちらに合わせてペースを調整しているようだった。

 最初はゆっくり進んでいたが、俺も慣れてきた頃から少しずつ速く走るようになっていた。


 ミラが言うには、もう道のりの半分以上は進んでいるらしい。

 俺も昔通った道ではあったが、全然覚えていない。

 連れられているのと、自分で進んでいるのでは見える景色も全然違うんだな。


「そろそろ見えてくるはずよ」


「もう着くのか?」


『当たり前だろ?誰に乗ってると思ってんだ』

 

「予想以上に早かったわ。ありがとね、バリオス」


『いいってことよ』


 これは流石と言わざるを得ないな。まさか二日かかる道のりを半日かからずに走るとは…。


「見えてきたわよ!」


 ミラの元気のいい声がそう告げる。



 俺たちはクオルに着いたのだった。

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