17 未知との邂逅
あれから四日が経った。
俺たちは継続して溝掃除をしていた。
あの次の日には掃除をする人がまた増えて十二人になり、その次の日はその倍。最終的に昨日は五十人くらいになっていた。
俺たちが初めて受注したパーティーだったので、代表は俺になっていた。ハリソンさんたちはサブに回ってくれてサポートをしてくれていた。
人が増えてからは、掃除場所の争奪戦みたいなことが始まっていた。
争奪戦と言っても、争ったり、喧嘩にはなっていない。じゃんけんをしたり、腕相撲で決めたり…。
流石にこんな事で争うほど馬鹿な人はいない。
作業が終わった後は、みんな今日はいくら拾った―――とか自慢し合っていたな。でも、一日目の俺たちの額を上回る人は出なかったみたいだった。まあ先行者利益ってやつか?
それで昨日、町全体の溝掃除が終了したんだ。
特にトラブルもなく無事に終わって良かった。
担当者からは、「費用は掛かったけれど、早く終わって良かった。ありがとうございます」と、お礼を言われてしまった。俺たちだけじゃこんなに早く終わることは無かったし、みんなで頑張った結果だと伝えておいた。
そんなこんなで初仕事が終わったので、俺はギルドに報告に来ていた。
無事に終了したことを伝えると、受付の人もにこやかな顔で対応してくれた。
ついでに、昨日の時点で森に入れるようになっていたと聞いた。
冒険者のみんなが森の魔物を倒していたおかげで、安全になっていたようだった。
ロニーさんの調査も無事に終わったのだろう。
クエストボードは……白の紙が一枚だけ貼ってあるな。
…薬草採取だな。これを受けていくか。
再びカウンターへ行き、クエストを受ける。ちなみに、ミラには相談済みだ。
ミラには商工会で待ってもらっている。例の件があるからだな。
ミラも、そろそろクオルに帰らなければならないという事だったので、これがグノットで受ける最後のクエストだ。
商工会へ戻る道すがら、深呼吸をする。
変な臭いもしないし、町を流れる川を見ても澄んでいる。自然と顔も緩くなるな。
やり切ったという実感が湧き、気分が良くなる。
繁華街を通るときも、店の人たちに感謝されたり、「はい、これ昼飯にでも食ってくれよな!」と言って大めの包みを貰ったりした。
みんな喜んでくれているみたいで良かった。後でミラにも伝えよう。
◇
商工会へ着くと、ロビーでミラが待ってくれていた。
「おかえり!受けられるクエストはあった?」
「薬草採取だけだったな。受けてきたよ」
受注表を見せるとミラは大喜びだった。
「これがこの町で受けられる最後のクエストね。頑張りましょ!」
「ああ、そうだな!」
ミラはクエストに行く準備は出来ているみたいだ。
俺もすぐに準備してクエストに行くとするか!
◇
俺たち二人は薬草を採取するための森に着いていた。
そういや、ミラの鎧姿も久しぶりだな。出会ってからそんなに時間は経ってはいないが、ここ最近は掃除姿しか見てなかったからな。剣も盾も携えて昨日の印象とは全くの別物だ。こうして見ると、やはり騎士なんだなと改めて思う。
「なにー?そんなに見てきて」
俺の視線に気付き、ミラがそう言う。
そんなに見ていたかな?隠すこともないし、普通に伝えるか。
「その恰好、似合っていると思ってな」
「えへへ、ありがと。クレイグも似合ってるよ」
ミラからお褒めの言葉を貰う。想像していたよりずっと恥ずかしいなコレ。
「あ、ああ。ありがとな」
ミラはニヤニヤしている。
ぐっ……こういうのは彼女の方が上手だな。勝てる気がしない。
「ほら、早く探そうぜ」
「はーい♪」
上機嫌だな…いつかお返ししないと。
◇
しばらく探していたが、なかなか見つからないもんだな。
少しは採取出来たが、思ったよりも集まりが悪い。
「おーい。そっちはどうだー?」
「なかなか見つからないねー」
ミラの方も見つかってないのか。
もうちょっと奥まで行ってみるか…?
この森は立ち入り制限はないんだけど、奥まで行くのは危険だろうか。
こういう時は相談だな。
俺はミラの方に近づいていった。
「ここじゃそんなに見つからないみたいだし、もっと奥まで行ってみようと思うんだけど…どう思う?」
「そうね…。もう少し奥まで行ってみましょうか」
ミラも賛成か。今までみたいにバラけて探さないよう気を付けていれば問題ないだろう。
幸い今のところは魔物にも会っていない。他の冒険者の人たちが狩っていてくれたおかげだな。感謝感謝。
◇
俺たちは奥まで進んで歩いていた。
薬草が生えていないか、周囲を確認しながら進む。
「あ、あった!」
ミラが薬草を発見し、そちらに向かって進んでいく。
採取している間は、俺が周囲を確認する。
ウォールベアの時の二の舞になってはごめんだからな。
採取も無事終わり、また進んでいく。
この辺はさっきの場所と違って、薬草を見つけることが出来た。
「場所、移動して正解だったね」
「そうだな。こんなに簡単に見つけられるんなら、最初からこの辺まで来ればよかったな」
「結果論だけどねー」
◇
薬草を探しながらしばらく歩くと、小さい泉がある場所に出る。
日も高いし、ちょうど昼のようだ。
ここなら景色もいいし、昼飯にはうってつけだな。
「この辺で昼飯にしようか」
「そうね。私もお腹すいちゃった」
俺は朝貰った包みを開ける。
中には小さな箱と、大きな箱が二段になって入っていた。
小さい箱の方はサンドイッチや、干し肉、サラダが入っていた。
大きい箱の方には…野菜や果物がまるまる入っていた。葉物野菜や、根菜、リンゴなど。
小さいほうで足りなかったら自分たちで作って…って事かな?
俺も親父がまだ動けた時は、よく山の中で料理をしていたな。
懐かしいな…。山の中で料理をして食う飯は、普段の料理とは違っててそれはそれでいいものだ。
でも、今日は調理器具を持ってきていないんだよなぁ。これは持って帰る事にしよう。
「へー、野菜もくれたのね」
「そうみたいだな。今は鍋や調味料は持ってきていないから、これは今度食べようか」
「その時は私に任せて!これでも結構料理できる方なのよ」
「意外だな。騎士も料理はするのか」
「そうよ。森の中で料理することもあったし、みんなには美味しいって評判だったんだから!」
「それじゃ、その時は頼むよ」
「任せて!」
ミラは今から張り切っていた。その姿を見て俺はまた顔が緩んでいた。
◇
飯も食い終わり、片づけをしようとしていたところで視線を感じた。
視線を感じた方を見る。泉の対岸の森の中だ。何かいるな…。
「ミラ、泉の対岸の森の中に何かいる」
「分かった」
ミラは片づけをしていたが、すぐに臨戦態勢に入る。
俺も武器を取り出し、構える。
遠くてよく分からないが、何かが動いているのは分かる。
少しずつ近づいてきているな…。
俺たちはそのまま警戒を続ける。
そいつはそのまま近づいてきて、その姿を見せる。
―――――何だ…コイツは…?
出てきたそいつは、かなり大きい馬だった。
一目でわかる。こいつは普通の獣ではないと。
黒い体毛に、銀色の鬣。長い脚に大きな蹄。
対峙した時の威圧感が凄まじい。
タスクボア…なんか比にならない。ウォールベアよりも強さは上だろう。
「ミラ、あれが何か分かるか?」
「いえ、あんな馬見たことないわ」
ミラも分からないのか。どうするかな…。
―――――逃げるのも手だろう。流石にこいつは手に負えなさそうだ。
「ミラ、先に逃げてくれ。こいつは手に負えないかもしれない」
そいつから視線を外さずに言う。
「そんなこと出来ないわ。ここで逃げたら騎士の名折れよ」
「頼もしいな。でも、本当にまずくなったら逃げて、ギルドに報告してくれ。その時は俺がひきつける」
ミラにそう告げると、渋々「分かったわ」と了承してくれた。
こいつが町にまで行くと大きな被害が出るだろう。先に戻って報告しないと対策出来ないしな。
ミラも分かってくれたようで良かった。
そいつは、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
こちらも警戒を強める。
『おいおい、そんなに警戒すんなって』
突然聞きなれない声が聞こえる。
―――――誰だ!?
俺は周囲を見渡す。
ミラも周囲を見ていた。
『どこ見てんだよ。目の前にいるだろ』
目の前って…この馬か!?




