14 至れり尽くせり
小鳥のさえずりで目を覚ます。どれだけ疲れていても…って、これは昨日もやったな。
さっさと起きよ。
ベッドから降り、カーテンを開けて外を見る。まだ薄暗いな。
雨は降ってないし、日課でもするか。腹の調子も問題ないし。
着替えて宿の外に出る。
昨日の夜はこの辺もまだ賑わってはいたが、今は閑散としている。早い時間だし当たり前か。
俺は町の外に向かって歩いていった。
◇
昨日と同じようにストレッチをしてからトレーニングを始める。
ふぅ…こんなもんでいいか。体も十分温まったしな。
日を見ても、そろそろ皆が起き始める頃だろう。周りを見ると、何人か冒険者っぽい人も来ていて、俺と同じようにトレーニングをしていた。
帰ってシャワーでも浴びるか。昨日は待たせてしまってミラが変な奴に絡まれていたし、今日は早めにロビーで待機していよう。
◇
俺は宿に戻り、用意を済ませてロビーにいた。
他にはまだ宿泊客は来ていない。ちょっと早すぎたか?
……時計があるな。今は七時くらいか。
時計は高級品だ。今まで持ったことも無いから見る癖は付いていない。持ち運べる物もあるみたいだが、値段が高過ぎて持てないんだよなー。稼ぎが良くなれば持ってみたいな。便利だし。
時計を眺めながらぼーっとしていると、声を掛けられる。
「おはよー」
声のした方を見るとミラだった。
今日は朝に起きれたみたいだな。……口には出さないけど。
荷物もまとめていて、準備はバッチリなようだ。
「おはよう。今日からよろしくな」
「こちらこそよろしくね」
朝の挨拶をして、二人でカウンターへ向かいチェックアウトを済ませる。
「ちゃんとクエスト、あればいいね」
「ああ、そうだな」
ロニーさんの話だと、初級のクエストはあるか分からないって話だったからな。…ある事を祈ろう。
◇
ギルドに着くと、中はもう賑わっていた。
みんな早いな…。
人が多いのは中級者のボードの前だった。入る隙間もないくらい人であふれかえっている。
上級の前には人はいないな。紙も貼ってはいない。
初級は……良かった。一枚だけ白色の紙が貼ってある。青は一枚もないな。
「よかったね!一枚だけあるみたいだよ」
「そうだな。よかったよ」
二人で顔を見合わせ、顔をほころばせる。
これが俺たちの初クエストになるのか。
俺たち二人は初級ボードの前に行き、その白色の紙を見てみる。
ん-……溝掃除か……。昨日、繁華街で変な臭いもしてたし、それの事だろう。
俺は問題ない。村でもたまにやっていたからな。しかし…ミラはどうだろう?汚れたり、臭かったり…。正直な話、誰もやりたくはないクエストだろう。
俺はミラの方を見たが、俺の思いとは裏腹に、目をキラキラ輝かせていた。
え?こういうのってやりたがらないもんじゃないのか?
「ミラは大丈夫なのか?」
俺は一応聞いてみる。
「ええ!町の人の役に立てるなんて、いいクエストだね!」
いい笑顔でそう答える。
抵抗はないみたいだし、杞憂だったか。
「騎士団でも溝掃除とかするのか?」
「そうね。クオルでは年に一回はするわ。街のみんなが喜んでくれるから私は好きよ」
そういうこともするのか。それなら抵抗ないのも納得だな。
一応、他の項目も見てみる。
報酬は……一日千ルア!? え?高くない?こんなに貰っていいのか?
「報酬高くないか?」
「そうね…。クオルでは無償でやってたし、一日千ルアは高いような気がする」
やっぱりそうだよな。何かあるのかな?
まあ貼りだされてるってことは立派なクエストだし、聞けば分かるか。
「それじゃ、受けてくるよ」
「ええ、よろしく!」
俺はカウンターへ向かい、クエストを受注した。
ギルドの人の話では、詳しい話はグノット商工会で聞けるらしい。まずは商工会へ行こう。場所も教えてもらったし。
「お待たせ、受けてきたよ。まずは商工会へいって話を聞いてくれって言われたな」
「ありがと。それじゃあ行こっか!」
ギルドから出たところで、ロニーさんと偶然出会った。
向こうも俺たちに気付いたようだ。
「「おはようございます、ロニーさん」」
声が被ってしまった。俺たち二人は顔を見合わせる。
「ははは!おはよう二人とも。本当に仲がいいみたいだね」
ロニーさんはそう言い、笑顔になっている。
そんなことを言われると気恥ずかしくなってしまうな。ミラも同じような反応をしているし。
「クエストは受けられたかい?」
「ええ、一件だけあったのでそれを受けてきました」
俺は掻い摘んで説明した。
「へぇー、溝掃除か。この町ちょっと臭っていたから助かるよ」
「ロニーさんも思っていたんですか。それじゃみんなの為にも頑張らないと」
「ああ、頑張ってね」
ロニーさんに別れの挨拶をして、再び商工会へ向かう。
◇
商工会はここか。ギルドで教えてもらった場所に着いた。
冒険者ギルド程ではないが、それなりに大きい建物だった。
「ここみたいだ」
「それじゃ、話を聞きに行きましょ!」
俺たち二人は商工会の中へと入る。
中へ入ると、受付の人に話しかけられた。
ギルドからの依頼で来たと伝えると、少し待ってくれと言われた。
少し待っていると、担当らしき人男性が現れた。
「あなた達が依頼を受けてくれた方達ですか!ささ、奥の方へどうぞ」
俺たちは言われるがままに、付いていく。
案内されたのは、それなりに豪華な部屋だった。応接室かな?
キョロキョロしていると、座ってくださいと促され、俺たちは言葉通りにソファーへと座る。
話を聞くと、ここ数年溝掃除をしていなかったらしく、最近臭いが気になるようになったらしい。
町の皆でやろうって話になったみたいだが、最近冒険者が増えたことで色々と忙しくなり、そんなに時間がとれないと言われてしまったそうだ。
農家の人も、今からが忙しい時期らしく、仕方なく依頼を出したみたいだが全然受けてもらえなくて困っていたみたいだ。それで今日から報酬を上げたらしい。
祭りも近いし、本当に困っていたそうだ。
ちょうどいい時に依頼を受けたようだな…。
「本当に助かります。宿の代わりに、商工会の宿舎も使っていいですよ」
え!?宿まで貸してくれるのか!?
こんなにいい仕事は無いぞ!報酬もいいし、至れり尽くせりだな!
「そこまでしてもらっては、こちらも期待に応えなくてはなりませんね」
ミラはやる気十分なようだ。
もちろん俺もな。
「掃除用の服もこちらにありますので、それに着替えてお願いします」
マジで至れり尽くせりだ。
◇
俺たちは荷物を置くための部屋へと案内された。
簡素な造りだが、各部屋に風呂もあった。来客があった時にも使う部屋らしい。
こんなにいい部屋をタダで使わせてくれるなんて…。
流石に昨日泊まった部屋よりはランクは落ちるが、それでも寝泊りするには十分すぎる。
ミラも風呂がある事に歓喜していた。
俺たちは荷物を置き、着替えのためにまた案内される。
用意してくれていたのは、掃除用の簡素な服と胴長だった。胴長の方は防水の加工もしてあるらしく、こういう掃除にはぴったりだった。
着替え終わってロビーでミラを待っている。
少しするとミラも着替え終わって合流した。
「お待たせ―。クレイグ、似合ってるよ!」
「ミラは仕事が出来る人ってイメージだな」
俺は…まあ普通の清掃員に見えるだろう。
ミラは顔が整っているから、こんな格好をしているとちょっと浮いている雰囲気だな。
簡単に会話を済ませると、担当者の方も合流する。
「まずは繁華街の方からお願いします。あそこは夕方になると人が増えるので…」
「わかりました。何か問題が起きたらその時は報告します。その時はここに来ればいいですか?」
「そうですね。ここに来れば誰かしらはいますので。…ああそれと、浚ったものやゴミは所定の位置に持って行ってください」
そう言われ、場所を教えてくれる。荷台も借してくれるようだ。
「それではよろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
担当者に見送られ、俺たちは外に出る。
荷台はもう用意してあった。
「さあ、初仕事よ!頑張りましょうね!」
「そうだな。よろしく!」
依頼内容は簡単だが、これが俺たちの初仕事だ!
気合を入れないとな!
俺たちは繁華街へと向かって行った。




