そして迎えた朝
「身体が痛い」
何時もの時間に携帯アラームが鳴り起こされた。
昨夜はあの後、洗い物をシンクで水に浸け、最低限の片付けをしソファーで寝たのだ。
いつもより遅い時間だったせいか、横になった後の記憶がない。
痛む身体にムチを打ち起き上がる。
テレビをつけ、ニュース番組をBGMに洗い物をする。
芸能人の不倫、無能な政治家、最近の流行りもの、長い放送時間の内10分程度しか報道しない、事件や事故、今日もおおむね平和らしい。
(事件・事故の関係者にしてみれば、地獄に叩き落されたみたいなものだろうけど)
昨夜のお父さんを事故で亡くしたという、希望さんの話を思い出す。
(話聞くと父子家庭っぽいし、それなのに父親亡くなるなんてショックも大きかっただろう。
何か力になれると良いけど。)
そんな事を考えながら、朝ごはんを作る。
今朝は玉子焼きと味噌汁、後は昨日スーパーで買ってきた惣菜を器に移したやつだ。
玉子焼きは好みがわからないので、甘いのとしょっぱいの2種類作った。
ちなみに俺は、塩コショウで味付けした、しょっぱい方が好きだ。
海苔も巻き込むとなお良い。
半熟でオムレツにするか、焼いて巻いて玉子焼きにするかの違いだと思ってる。
甘いのも嫌いではないけど、わさび醤油で食べるので結局しょっぱくなるのだ。
感覚としてはお寿司の玉子だ。
朝ごはんを用意し終わっても起きてくる気配がなかった。
まぁ、今日は休みだろうし、色々大変だったみたいだし、ゆっくりしてて欲しい。
先に食べようかとも思ったが、せっかくなので一緒に食べようと待つことにした。
仕事部屋からノートパソコンを持ってきて、ソファーに座り小説の続きを書き始める。
カタカタカタ…
ニュース番組をつけたまま、キーボードを叩く。
最近は静音で打キー音しないのもあるみたいだけど、俺はこの音が好きだった。
カタカタカタ…
カチャ
打キー音にドアが開く音が混ざる。
どうやら起きてきたみたいだ。
「おはようございます」
ノートパソコンを閉じ、リビングに入ってきた希望さんに声を掛ける。
希望さんは俺を見つけると、その場で膝をつき正座をし、さらに両手をつき、頭を深々と下げた。
「昨夜は酔っていたとは言え、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
土下座スタイルで謝られた。
(え? 謝られたのはわかるが。
え? 土下座?)
思考が一瞬止まる。
「いやいやいや、そんな土下座で謝らないでください。
なんか俺が悪いことしたみたいで、罪悪感半端ないですって」
思考の回復と共に、希望さんの近くに駆け寄り(そんな広い部屋でも無いので数歩程度だが)、触るわけにもいかないので、彼女の前にしゃがみながら手をパタパタさせた。
「顔上げてください。
別に俺は迷惑だなんて思ってないですから。
ね、取り敢えず朝ごはん用意したので食べましょ?
ね?」
俺が慌ててるのが伝わったのか、ゆっくりと顔をあげる。
俺の顔の近くに、希望さんの顔が来る。
顔近い。
可愛い。
きっと今、俺の顔は赤くなってるだろう。
仕方ない、童貞なんだから。
未だ正座状態で固まってる希望さんを、何とかダイニングテーブルまで連れていき、一緒に朝ごはんを食べ始める。
食べながら、今日の予定を確認する。
管理会社の営業時間は9時からなので、時間になったら電話する。
希望さんの格好では対応出来ないので、管理会社には隣の俺の部屋に居ることを伝え、来た時の対応は俺がする。
まぁ、予定と言っても鍵関係だけだ。
「重ね重ね申し訳ありません」
希望さんは、椅子に座ってなければ、また土下座するであろう勢いで頭を下げる。
内罰的な人なのか?。
「そんなに何回も謝らないでください。
俺は望月さんに謝って欲しくてやってるんじゃないんですから。
ね?」
「スミマセン」
また謝られた。
どうせなら『ありがとう』と言われたいが、それを伝えて良いものか。
感謝を強制してるみたいで悩む。
「ほら、困った時はお互い様ですよ。
今度、俺に何かあったときは助けてください」
「わかりました。
早川さんに何かあったら全力でお助けします」
両手を胸の前で握り締め、力強く言う。
まぁ、少しは元気?になったみたいで良かった・・・のかな?