我が家の風呂に入るお隣さん
「ちょっと待っててくださいね」
俺は先に靴と濡れた靴下を脱ぎ脱衣所に駆け込んだ。
風呂の給湯ボタンを押し、タオルを取り玄関へと戻る。
「取り敢えずタオルをどうぞ。
今給湯してますので、貯まるまでシャワー浴びてください。
入って少ししたら、着替え用に大きめのシャツ持っていきますので。
ただ、さすがに女性用下着持ってないので、入ってる間に洗濯してもらっていいですか?
乾燥機能ついてますので、ゆっくりお風呂入ってもらえれば出る頃には乾くと思いますので。」
早くしないと風邪引いてしまうので、渡したタオルで髪と顔を拭いてるお隣さんに早口で説明する。
「ありがとうございます・・・」
小さい声。
引っ越しの挨拶しに来てくれた時とは違うけど、それだけ大変だったのだろう。
(あんなずぶ濡れになって、鍵までなくしたら仕方無いよね)
脱衣所に入っていくお隣さんを見送り、すぐに着替えを持っていくわけにもいかないので、1度外に出て散乱してたバッグと中身を回収する。
(取り敢えず、除湿機の上にでも干しておくかな
この呑みかけのビールは・・・捨てていいよね
でも・・・)
頭の中に間接キスと言う言葉が、ほんの少しよぎる。
いや、実際は拾ってから捨てるまでの間よぎっていた。
ほんの少しとはいったい。
童貞が童貞たる所以。
我ながらキモい。
それから服とバスタオルを用意し、声をかけてから脱衣所に入る。
洗濯機は回ってるので大丈夫だろう。
バスタオルに大きめのシャツと、無段階で止められるベルトを置いておく。
(惣菜買ってあったみたいだから、晩御飯はまだみたいだな。
何か簡単なものでも作るかな。
ビール呑んでたし、オツマミにもなるのにするか)
料理は好きだ。
何も考えずに手を動かしてると、たまに良いアイデアが浮かぶ。
1度、料理中にアイデアが浮かび、メモを取ってたら焦がして、フライパンを駄目にしたことがあるのは秘密だ。
ホントのことを言うと、何かして頭を空っぽにしないと妄想が膨らんでしまう。
それはそうだろう。
一目惚れした相手が、隣に住んでると言うだけで接点の欠片も無かった相手が、うちの風呂に入ってる。
着替えを持っていった時、扉1枚を隔てた所に裸でシャワーを浴びるお隣さんが・・・。
そんな状況でイケナイ妄想をしないほど、俺は不健全な男ではない。
「あ、やべ」
全然頭の中が空っぽにならず、ちょっと焦がしてしまった。
焦がした所は証拠隠滅に食べてしまおう。