希望の想いと瑠璃華
「では、希望さん、瑠璃華の事宜しくお願いします」
「はい、お願いされます」
望が部屋を出て、希望と瑠璃華の二人きりになる。
「じゃあ、早速拭くから上脱いじゃおうか」
「背中だけで良いですからね。
他は自分で拭けますので」
希望に背を向け、パジャマのボタンを外し上を脱ぐ。
「前拭く時に邪魔になるから、ブラジャー外しちゃうね」
「え?」
そう言うと同時に、希望は瑠璃華のブラジャーのホックを外す。
「いきなり何するんですか?!」
「まぁまぁ、女同士だし良いじゃないの」
瑠璃華が抗議するも、軽く受け流される。
「はい、背中拭くからね。
強かったら言ってね。」
タオルを濡らし軽く絞る。
髪の毛を軽くまとめて前の方に流し、首から優しく拭き始める。
「痛くない?」
「はい、大丈夫です」
「瑠璃華ちゃんって髪キレイだね。
スタイルも良いし羨ましいな」
首から肩、背中に移動しながら話しかける。
瑠璃華からの返事はない。
「瑠璃華ちゃんって、本当はお兄ちゃんの事好きなんでしょ?」
「っっ!」
希望の言葉に、瑠璃華の身体が反応する。
「やっぱりね。
良いよね。
望さんみたいなお兄ちゃんいたら、好きになっちゃう気持ちわかるな」
「い、妹が兄の事好きで何が悪いんですか」
「なにも悪くないよ。
私にも兄が居たんだけどね。
望さんとは違って、私のことを目の敵にしてたの。
ううん、ちょっと違うかな?
私の存在をないものとして扱ってたの方が正しいのかな?」
瑠璃華の背中を、優しく拭きながら話す。
「兄だけでなく、母親も同じで私の事に興味がなくてね。
お父さんだけが私の味方だったの」
希望の話を黙って聞く瑠璃華。
「だから、お父さんの事、大好きだったんだ。
でも少し前に事故で死んじゃったの」
瑠璃華の背中がピクッと反応する。
「で、唯一の居場所だったお父さんが亡くなったから、実家から逃げてきたんだ。
望さんには、天涯孤独になったからって言ったけど、実は母も兄も生きているんだ。
あ、望さんには内緒でお願いね」
ゆっくり背中を拭いていく希望。
「だから、羨ましくて。
お兄ちゃん大好きな妹と、妹を大切にしてくれるお兄ちゃん。」
希望の独白は続く。
「でも、ホント、望さんは良い人だよね。
普通、雨の日にずぶ濡れで玄関ドアの前で座り込んで、泣きながらビール呑んでる人みたら、関わりたく無いと思わない?
でも、そんな私に声をかけてくれて、優しくしてくれて。
望さんにはを見てると、お父さんを思い出したり、こんなお兄ちゃん欲しかったなって思うんだ」
「お兄ちゃんは、良い人すぎるんです。
それでいつも騙されたりヒドい目にあったり、でも鈍感だから気付いてなかったり。
騙されたのに気付いても、そっかホントは困ってなかったんだ良かったって笑ってるんです。
だから、お兄ちゃんは私が護らないといけないんです」
「私みたいな女から?」
背中を拭く手が止まってる。
「希望、さんは、お兄ちゃんを騙したり、ヒドい目に合わせたりするつもりですか?」
「そんなつもりは無いよ。
望さんにはホント〜に良くしてもらってるから。
どうお返ししようか迷うくらい」
「じゃあ、お兄ちゃんと付き合いたとか思ってますか?」
顔だけ希望の方に振り返り問う瑠璃華。
「今のところは、そんなつもりは無いかな。
今はまだお友達になりたい。
そんな感じかな?」
「友達・・・ではないんですか?」
希望のセリフに眉をしかめて問う瑠璃華。
「私は、仲良くさせてもらってるから、友達って思って良いのかな?
とは思ってるけど、望さんがどう思ってるかわからないから」
「お兄ちゃんは多分・・・」
途中まで言って言葉を止める。
「ん?
私ね、友達の作り方が良くわからないんだ。
さっき話したけど、母親と兄との関係が悪かったし、父の事は好きだったけど、単身赴任で家にあまり居なくて。
家での人間関係が上手くいって無いのに、外で上手く出来るはずもなく、小さい頃からいつも孤立してたんだ」
思い出したかのように背中を拭く。
「高校の時、こんな私でも色々話しかけてくれた子がいて、ある日ちょっとしたことがあった時に、友達なんだからって言ってくれて、凄く嬉しかったんだよね」
ぬるくなったお湯にタオルを浸し絞るり瑠璃華に渡す。
「あれ?
なんか話がズレちゃったかな?
まぁ、今は望さんとは友達になりたいって感じで、出来れば瑠璃華ちゃんとも友達になりたいなぁ〜って。
ダメかな?」
渡されたタオルで身体を拭きながら、
「ダメです。
私はまだ、貴女の事を良く知りません。
何を考えてるのかもわかりません。
だから今は友達にはなれないです」
「じゃあ、私の事を知ったらなってくれるかもしれないってことかな?」
「それはちょっと・・・」
「えぇ〜、普通今の流れだと、
“そうですね”
くらい言ってくれるんじゃないの?!」




