泣いてるお隣さん
エレベーターを降り部屋へと向かう。
角部屋なので少し遠い。
近づくにつれ、廊下に誰かが座って居るのが見える。
声も聞こえる。
泣いてるような声にならない声だ。
良く見える距離まで近づくと、そこには玄関ドア前でうずくまってるお隣さんがいた。
傍らにはビール缶が落ちている。
さらに片手にはビール缶。
さらにさらに周りには、バッグとその中身と思われるものが散乱してた。
(何でこんなところで、びしょ濡れになりながら呑んでるんだ?
しかも泣いている。
どう言う状況?)
頭の中にはハテナしかなかったが、何か非常事態だと思い、思い切って声をかけてみた。
この状況なら話しかけても不審者だとは思われないだろう。
きっと大丈夫だ。
「こんばんは。
こんなところで、雨に濡れたままだと風邪を引きますよ?」
出来る限り笑顔で話す。
声をかけられると思ってなかったのか、ビクッとなったあと顔を上げてこちらを見る。
やっぱり泣いてたらしい。
可能な限り平静を装いながら、お隣さんの前にしゃがみ、目線を合わせ出来るだけ優しく話す。
「大丈夫ですか?
隣に住んでる者なんですけど、何か俺に出来ることありますか?」
すぐに目を伏せ、
「部屋の鍵をなくして入れなくなったんです。」
返事があった。
消え入りそうな声。
なるほど、こんな雨の日、しかもびしょ濡れで、鍵なくして入れなくなったら俺でも泣きたくなる。
「今日はもう管理会社に電話しても終わってるでしょうから、良かったら俺の部屋で風呂入って温まってください。
そのままだと風邪引いてしまいますので」
目を見開き不思議なものを見るような目で見られる。
ほぼ初対面の男に部屋に誘われてるから、それも当たり前か。
「あっ、別にやましい事とか考えてないんでっ
ただ、純粋に心配でしてっ」
言ってることは本音だが、ついつい早口になってしまう。
お隣さんは少し下をむいたあと、小さな声で
「お願いします」
と答えた。
下心もやましいこともないが、心の中で小さくガッツポーズをした。
いや、お隣さんとお近づきになれるかも? と言う下心は間違いなくあったか。