三人での食卓
「瑠璃華、出来たから手伝って」
出来上がったので、瑠璃華に声を掛ける。
「あ、私手伝いますよ」
希望さんが立ち上がろうとする。
が、すぐに
「私が手伝うので座っててください」
瑠璃華が、希望さんに素っ気ない言い方をする。
「何すればいいの」
俺にも素っ気なかった。
「テーブル拭いて、箸と冷蔵庫にあるサラダ並べておいて」
返事はしてくれなかったが、ちゃんと動いてくれる。
瑠璃華が並べてる間に、ハンバーグと付け合せを皿に盛っておく。
急いで作った割には、良い焼き加減だ。
瑠璃華にハンバーグも並べてもらってる間に、仕事部屋に椅子を取りに行く。
基本的に、客が来ることを考えてないので、ダイニングテーブルは椅子2脚の小さめなのだ。
何せ、希望さんと知り合うまでは、担当編集者しか来なかったから、それで充分足りたのだ。
「お待たせしました。
では食べましょうか」
みんな席につき、ようやく準備が整った。
なんだか予定より慌ただしくなってしまった。
『いただきます』
瑠璃華も、ちゃんと言ってくれた。
「ん! このハンバークすごく美味しいですね♪」
希望さんからお褒めの言葉をいただく。
「どうだ瑠璃華? 昔と比べて味落ちてないかな?」
「そうね。
相変わらず美味しいと思うよ」
素っ気ない言い方だが、美味しいみたいで何よりだ。
「なにか特別なレシピなんですか?」
希望さんが聞いてくる。
「あまり特別なことはしてないと思いますよ。
基本に忠実に、あとは個人的に玉ねぎは生で入れるのが好きなので、みじん切りにしたらそのまま入れていますね。
下味に関しては、マジックソルト使ってます」
「マジックソルトですか?」
「えぇ、色々ハーブなんかが入ってる調味料なんですけど」
俺はそう言って、キッチンにマジックソルトを取りに行く。
「これです。
ハンバーグに入れたのは、この緑のですね。
他にも、こっちはステーキ系の下味に便利ですし、こっちはペペロンチーノとかに使うと美味しいです」
「すごい。
色々使いこなして、料理上手なんですね。
私はあまり料理をしないので・・・。
この前のカレーも凄い久しぶりに作ったので緊張しましたよ」
ゲームならSSRかURなみの激レアのカレーライスありがとうございました。
「瑠璃華ちゃんは、普段お料理するの?」
「母親の手伝いするくらいです」
まだまだ希望さんに慣れないのか返事は素っ気ない。
まぁ会ったばかりだし仕方ないか。
そんな若干の緊張感のある食事も終わり、食器を下げ用意してたデザートと紅茶を二人に出す。
今回は2つとも同じケーキだ。
「兄貴は食べないの?」
二人分しか出してないのを不思議に思った瑠璃華が聞いてくる。
「あぁ、瑠璃華来るとは思ってなかったからな。
2つしか用意してなかったんだよ。
気にしなくて良いから、瑠璃華食べな。
好きだったろ? レアチーズケーキ」
今回のデザートは、前回買ったお店の人気ナンバー3のレアチーズケーキタルトだ。
レアチーズケーキの上にフルーツがいっぱい乗ってて見た目すごい綺麗だ。
「あ、じゃぁ、私の半分食べますか?
はい、あ~・・・ん」
希望さんが、一口大に切ったケーキをフォークに乗せ、俺に差し出してくる。
「いいです!
兄貴には私の半分あげますので!」
それを見た瑠璃華が、希望さんに言う。
「ほら、兄貴」
そして、やっぱり一口大に切ったケーキをフォークに乗せ、俺の口元に持ってくる。
「んじゃ、せっかくだから瑠璃華から貰おうかな」
どちらから貰おうか迷ったけど、希望さんはお客さんだ。
それに瑠璃華がくれるとは思ってもみなかった。
それほど嫌われてないのかもしれない。
「お、美味しいな。
俺はもう良いから、瑠璃華残り食べちゃいな。
希望さんも、俺のことは気にしないで食べてください」
その後は比較的穏やかな時間が過ぎていった。
希望さんは瑠璃華のことが気に入ったのか、色々質問しては素っ気ない返事を返されている。
よほど気に入ったのか、それでもめげずに話しかけてくれている。
話を聞くと、そのほとんどが“お姉ちゃん”と呼んでと言う内容だった。
俺と結婚すれば、義妹になりますよ。
と言いたかったが、さすがに言えなかった。
俺はいらないから、瑠璃華だけ欲しいと言われたら悲しくなるしね。
そんな時間も過ぎ、お開きの時間になった。
「今日はご馳走様でした。
望さん、瑠璃華ちゃんおやすみなさい。
瑠璃華ちゃん、またね
遊びに来た時は呼んでね」
そう言った希望さんの視線から逃げるように、俺の後ろに隠れる瑠璃華。
それを微笑ましく見る希望さん。
そして、モブと化してる気がする俺。
もしかしたら、今俺は百合に間に挟まる男になってるのかもしれない。
それは色々な意味でヤバい。
「おやすみなさい。
また是非ご飯食べに来てくださいね」
俺は消えないといけないかもしれないと思いつつ、挨拶を返し、希望さんを見送った。
俺が玄関ドアを閉めると同時くらいに、隣の部屋の玄関ドアが開く音がした。




