家を出ていくお兄ちゃん Side瑠璃華
今年、私は中学を卒業し高校生となる。
兄は、高校時代に小説の新人賞だかに応募して、小説家デビューした。
そして漫画化からのアニメ化されたらしく、収入が増えたとかで、独り暮らしすることになった。
お兄ちゃんが家を出ていく。
彼女の影も形もない見えないから、同棲のためとかでは無いと思う。
胸が張り裂けそうなほど苦しい。
もう毎日会うことも出来ない。
寂しい。
苦しい。
私が強く当たってるから嫌になって家を出るのかな?
私があの時、お兄ちゃんの手を払いのけて、あんな事を言わなければ。
もしくは、すぐに謝っていれば。
もしかしたら、お兄ちゃんは家を出なかったかもしれない。
昔みたいに優しく頭を撫でてくれたかもしれない。
ギュッとしても笑いながら、背中をポンポンしてくれたかもしれない。
そう思うと余計に胸が苦しくなる。
すべては自分のまいた種だ。
悪いのは自分自身だ。
そして引っ越しの日、私はお兄ちゃんを見送れなかった。
部屋に引きこもってた。
出る前に、お兄ちゃんは部屋に来てくれた。
でも私は布団をかぶって寝たふりをしていた。
お兄ちゃんの顔を見たら、泣いてしまいそうだったから。
『じゃあ、行ってくるね』
そう言ってお兄ちゃんは、部屋を、そして家を出ていった。
いつまでそうしてただろう。
布団から、部屋から出ようとしてドアの前に手紙があるのに気付く。
開けてみると、お兄ちゃんからの手紙だ。
内容はいたってシンプル。
なにも悪いことはしていない、お兄ちゃんからの謝罪の言葉。
引っ越し先の住所。
そして、いつでも遊びにおいで、と言う優しい言葉。
私はバカだ。
悪いのは私なのに。
お兄ちゃんに気を使わせて、悪くもないのに謝らせて。
でも、もう昔みたいには戻れない。
戻り方を忘れてしまった。
お兄ちゃんが居なくなった冬が終わり、春が来て高校生になった。
あれから1度も帰ってこない。
逢えない時間が増えれば、お兄ちゃんへの気持ちも落ち着くと思った。
でも、実際は逢いたくて仕方なかった。
逢いたい。
話をしたい。
入学式の時には、おめでとうのメッセージと共に、電子マネーが贈られてきた。
それに対して私は、
『どうも』
と言う素っ気ない返事をした。
さすがにやり過ぎと思い、入学式で撮ってもらった制服姿の写真も送る。
すぐに、
『制服姿可愛いね。
良く似合ってるよ』
と返ってきた。
嬉しかった。
ホントは写真なんかでなく、直接見てもらいたかった。
でも、私はバカだから、
『キモッ』
とだけ返した。
ホントにバカだ。
何で、ありがとうくらい言えなかったんだろう。
天邪鬼な自分が嫌になる。
逢いたい。
私の通う高校から、お兄ちゃんが借りてる部屋までは、電車と歩きで30分ほどの距離だ。
うちから高校までは、自転車、電車、歩きで50分ほどかかる。
家とは反対方向とは言え、お兄ちゃんの部屋の方が近いのだ。
学校帰りに、突然逢いに行ったらビックリするだろうな。
突然行って歓迎してくれるだろうか。
手紙には、いつでも遊びに行っていいとは書いてあったけど、気を使って書いただけで、ホントに行ったら拒絶されないだろうか。
何か行く用事でもあれば、堂々と行けるのにな・・・。




