デザートは別腹・・・ではない
「スミマセン。
お腹いっぱいで、デザートまで食べられそうにないです。
良かったら2個とも食べてください」
一緒に食べたかったが仕方ない。
「でしたら、少し食休みして、食べられそうになったら一緒に食べませんか?
先に洗い物とかしてしまうので、その間休んでてください」
そう言って、食器を持って行き洗い物を始めた。
カチャカチャ。
食器同士が当たる音を聞きながら、彼女の横顔を見つめる。
至福の時間。
あれ? 俺、希望さんと結婚したんだっけ?
いや? 同棲だったかな?
いやもう、幸せだから何でもいいや。
ガチャ〜ン!!
突然の大きな音で現実に引き戻される。
音に慌てて音源を見ると、希望さんがシンクの中に手を入れようとしている。
「ストップ! 動かないで!!」
俺はとっさに大声で呼びかける。
彼女は、その声にビクッとなり手を引っ込める。
今の音は、多分食器が割れた音だろう。
素手で拾って怪我でもしたら大変だ。
「スミマセン。
いきなり大声出してしまって。
食器が割れたみたいな音がしたので。
怪我とかは大丈夫ですか?」
未だに、驚いた顔で固まってる彼女に、今度は出来るだけ優しく声をかけながら近づく。
「え? あぁ、怪我は無いと思います。
ただ、ちょっとビックリしました」
手のひらをくるくる回しながら、怪我がない事を確認する。
「ホントごめんなさい。
望月さんが怪我するかも!? って思ったら、つい大声になってしまいました」
シンクを覗くと、グラスとカレー皿が割れていた。
そんなに粉々にはなってないみたいだ。
「取り敢えずこれに座って、そのまま動かないで待っててくださいね
すぐに戻ってきますから」
俺は椅子を持ってくると、そこに彼女を座らせ動かないように念を押すと、急いで自分の部屋に戻った。
「えぇ〜と、コロコロ2種類と、袋と・・・。
新聞紙はないから、コピー用紙でいいか。
あとは軍手と台拭きだな」
これだけあれば大丈夫だろう。
再び急いで隣の部屋に駆け込む。
「お待たせしました」
「お帰りなさい」
台所に戻ると、希望さんは、ちゃんと椅子に座って待っていた。
ちょこんと座って、軽く足をパタつかせてる。
可愛い。
俺を見ると微笑んでくれた。
ホント可愛い。
しかし、
『お帰りなさい』
か。
あれ? やっぱ結婚か同棲してた?
妄想の世界に戻ろうとしてしまった。
今はそんな場合じゃない。
「スリッパ失礼しますね」
俺は希望さんのスリッパを脱がし、左右表裏ともにコロコロをかける。
粘着テープ確認してみるが、破片はついてなさそうだ。
使用したテープを剥がし持ってきた袋に入れ、希望さんに渡す。
「これで服の表面コロコロかけてください。
もしかしたら破片がついてるかもしれないので」
「わかりました」
希望さんがコロコロをかけてる間に、もう一つのフローリング用で、辺りの床にコロコロをかける。
こちらも破片はないみたいだ。
良かった。
その後軍手をし、シンクの中の破片を拾って袋に捨てる。
水をシンクの隅から隅まで流し、持ってきた台拭きで拭き取る。
これだけやれば大丈夫だろう。
「お待たせしました。
これでもう大丈夫だと思います」
軍手と台拭きを袋に捨てながら話しかける。
「ありがとうございます。
やっぱり男の人は頼りになりますね」
笑顔で椅子から立ち上がって、椅子を元通りに片付ける。
「これ部屋に置いてきますね」
俺は壊れた食器が入ってる袋を軽く持ち上げる。
「あ、それくらい捨てますので」
希望さんは慌てた感じで言ってくるが、
「捨てる時も危ないので、うちで処分しますよ」
危なくないように、紙で包んではあるが万が一ケガをしたら大変だ。
「ホント、何から何までスミマセン」
「いえいえお役に立てたなら光栄ですよ。
ちょっと部屋に戻りますね。
それと、お腹落ち着いてきたので、良かったらそろそろ」
「はい、飲み物用意して待ってますね♪
紅茶とコーヒーどちらが良いですか?」
「でしたら紅茶お願いします」
笑顔の希望さんに後髪を引かれながら、急いで帰って来ようと決意し部屋へと戻る。
でも、あんまり早いと飲み物の用意終わらないよね。
困った。




