5年後の君へ
吐く息が白く濁る。ぎゅっぎゅっと白く染まった大地を踏みしめ、ある場所へ向かっていった。
何故わざわざこの一本杉の下に来たのかは分からない。
ただ何となく今日この日、ここに来ないといけない気がしたから。
スコップで雪を掘り、さらにその地面を掘るとようやく出てきた一つの箱。その中には手紙が入っていた。
『2023年12月2日 昼1時25分 今日この日この時間、この手紙を掘り出す事は知っていた』
――気味が悪い。
時計を見ると確かに昼の1時25分。日時が合っている。
思わず生唾を飲み込み、続きを読み進めてみた。
『この7年間のあなたの出来事を紹介しよう。5年前、高校生になったあなたは1人の同級生と友人になった』
名前は書いていない。誰だろう。
『テスト勉強や学園祭の時も一緒だったね。互いに彼氏ができた時は報告し合ってダブルデートをしたけど、結局互いに別れてしまった』
心当たりがある。冷たい汗が額から落ちる。
『6年前、同じ人を好きなった。そして付き合う事になったのは私。そこからあなたは変わった。最初は些細な嫌がらせからだった。消しゴムやノートを隠すことやないことの悪口を周りに吹聴。その程度ならまだ耐えられたんだ。でもお前は――』
待って、この先は読みたくない
『彼を奪い、同級生や先生達を味方に付けると私を悪者に仕立て上げた。たった独りになった唯一の友達の三毛猫を傷つけた時、私はお前に初めて怒りが湧いた。怒りを向けるとお前は私を突き飛したね。誰もいない路地で電信柱に頭をぶつけた私は打ちどころが悪かった。どうして私が死ななければいけない?』
確信した。この手紙の主は響子だ。
『だから私はお前に呪いをかけた。私の事を忘れて5年間は幸せに暮らせるように、そして今日この時この時間、必ずここへやってきて――』
ぎゅっぎゅっと白い大地を踏みしめる音が聞こえる。近い。
振り向くと私はその姿に青ざめ、腰を抜かすと言葉にならない悲鳴を上げた。
「お前を消し去ってやるという呪いを」
頭から真っ赤な血を流した響子が見下すようにそう吐き捨て、その瞬間、私は――
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「さ、山を下りようか。5年後の君へ送った呪い、満足してくれた? 私を殺した田中亜由美さん」
白い息が空中に浮き、私は白い絨毯を踏みしめて下山した。