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眠りにつく前に  作者: メイズ
清廉なる乙女の章
9/66

魔女の呪い

 

 ***



 町の人が初めてその薬売りを街角で見かけた当時、彼女はまだ幼い女の子でした。黒髪に緑色の瞳を持った可愛らしいその少女の名はエレクトラです。


 その薬売りは森の奥で暮らしているらしいのですが、詳しい家の場所も、誰といつ頃からあの森に住み始めたのかも、誰も知りませんでした。



 出始めの頃は、街角に立つ小さな薬売りの少女を哀れに思った通りすがりの婦人などが、彼女から薬草や薬を買っていたのですが、やがて彼女の売る薬草は上質だと知れて、町の薬屋が買い取るようになりました。けれども彼女は、高価な薬屋の薬には手を出せない人たちの為に、自分で作った薬を街角でほそぼそと売っておりました。


 謎の多いエレクトラでしたが、良からぬことをするわけでも無く、薬草で人々の助けとなっていた彼女は、地域の一人として自然と受け入れられて行きました。


 彼女は15、6になる頃にはそれは人目を引く美少女になりました。町の若い男たちはエレクトラに内心焦がれましたが、ミステリアスな彼女にまかれてしまって相手にはされませんでした。


 そんなエレクトラにも愛する(ひと)が出来ました。その男は森の狩人の若者、イオでした。


 数年は幸せな日々が続きましたが、二人が年ごろになり、ついに結婚の約束をした矢先に悲劇が起こりました。


 流行り病が発端となり、国中で魔女狩りが始まったのです。


 魔女狩りは、魔女ではなくても、あの人は魔女だと指差されたら殆どは魔女ということにされて処刑されてしまうという、恐ろしい不文律となっておりました。"魔女狩り師" というインチキな職業まで出来たほどです。


 森に隠れるように住んでいた薬草師のエレクトラは魔女の疑いをかけられ、ある日恋人のイオと共に役人に捕らえられてしまいました。


 イオはエレクトラを捕らえに来た役人二人に逆らってケガを負わせていました。魔女と指名されたエレクトラと、役人に反感を買ったイオの二人は、見せしめのために街の大きな広場で公開の火炙りに処せられることになったのです。


 イオは陽気な人好きのする青年でした。彼の拘束を知った故郷の者等は、イオはエレクトラに(たぶら)かされていたただけで、決して魔女や悪魔の手先ではないと嘆願したのですが、無駄に終わりました。


 

 十字に組んだ木に並んで張り付けられ、足元からメラメラ広がる聖なる炎の中でイオは叫びました。


「エレクを苦しめたお前らを俺は許さない! 本当はみんなわかってんだろ! 目を覚ませよ! こんなの間違ってるッ! こんなのが聖だというのなら、俺は喜んで悪魔になることを選ぶぜッ!」


 エレクトラも続いて叫びました。



 ───嗤いながら、冷やかしながら、あるいは泣きながら、怯えながら見物している数千の人たちの頭の中へ(じか)に。



(((( 罪無き魔女の名を貶め、無垢なる愛しいイオを殺すこの国に必ずや滅亡を贈る。この恨み忘れまじ‥‥ )))



 皆、何が起きたのかわからず、会場は騒然となりました。


 世間に憚って誰も口には出来なかったのですが、極一部の狂信的な人以外は、魔女狩りで狩られ処刑される魔女たちが、本当の魔女だとは誰も微塵も思っていませんでしたから。


 エレクトラが燃やされる直前まで誰も知らないことでしたが、実はエレクトラは本物の魔女だったのです。



 国王も、聖者も、下々もそれからしばらくは怯えておりましたが、国を揺るがすような大きな災厄が起きることはありませんでしたので、やがて時と共に呪いの言葉は忘れられて行きました。しかし、全ての人が忘れてしまったわけではありません。


 実際に魔女の呪いの言葉を聞いた人たちが大勢いるのですから。


 いつかこの国に何かが起こるのではと心配している人たちもいるのです。このお話が語り継がれている間は─────




 ***



「いかがでしたかな? メローペ様。これは初めて聞いたのでは?」


「‥‥‥ええ、カペラさん」



 聞いたような聞かなかったような‥‥‥。ついさっき。


 私は混乱気味。



「はぁ。ちょっと恐ろしいお話でもあったですかね? ‥‥‥うん? そう言えば、エレクトラの呪いだとは思わんが、今ちょうどこの国は災厄に見舞われ半壊してる最中ですな‥‥‥」


 なんだろう? 私にじわじわ焦燥感‥‥‥


「‥‥‥‥カペラさん、最期に1つだけいいかしら?‥‥‥‥‥そのお話ではその後、エレクトラはどうなったの?」


「さあなぁ‥‥? 聖なる火に()かれたのだから、魔女は消滅したのではないですかね?」





 カペラおじいさんが戻った後、考え込んでしまった。



 これはまさしく私の大蜘蛛アステローペちゃんことイオの物語でもあるわ‥‥‥


 このお話の魔女エレクトラと、妖精の森のエレクトラは同じ魔女よね? イオは私のピアスに偽装した薬からエレクトラの匂いがしたって‥‥‥ことは!!




 もしかして────



 この現在のネビュラ王国の災厄はまさか‥‥



〈 罪無き魔女の名を貶め、無垢なる愛しいイオを殺すこの国に必ずや滅亡を贈る。この恨み忘れまじ‥‥ 〉



 魔女エレクトラを妖精の森で密かに庇護している、我がプリアード家のプリアード領だけは、ほとんど無事だった‥‥‥


 

 ───ああ、なんてことなの!!



 去年からの立て続けのネビュラ王国の災厄は、魔女エレクトラの復讐だった可能性が? この国を滅ぼすために。


 その準備におよそ300年かかって遂に──────ってこと!?


 

 嘘でしょう‥‥‥‥



 アステローペは何か知ってるの?



「アステローペ? 出て来て!」




 ‥‥‥あら?! アステローペはどこ? この部屋の中を探検しているのよね? 壁にも天井にもいないみたいだけど‥‥‥











数日休みます m(_ _)m

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