イオ、300年の終着地点
「私は今、伝えなければなりません。‥‥‥エレクトラ様はある事情により引退されました」
メローペがいきなり言うから、俺のほうがびっくりしてしまった。
「‥‥何があったのです? このような時にも現れず、不審に思っていたのです」
お疲れだろうに、ベレニキス隊長の眉間から力が抜けることは当分なさそう。
「事情は申せません。私はエレクトラ様の部屋に入ってから、理由あって姿を消すと書き置きを見つけたのです。そしてこの者に後を託すと。彼はエレクトラ様のただ一人の息子、イオです。北の塔のエレクトラ様のお部屋で、密やかに育てられておいでだったのです。さあ、皆様に自己紹介を‥‥‥」
促されて立ち上がる。まさか、いきなりこの展開とはね。メローペは剛腕だなぁ‥‥‥
アトラナートは、エレクに報いる生き方をするべきだと俺に言った。あんたに言われなくとも、俺はそうする。
「待って下さい! メローペ様! 高齢のエレクトラ様にこのような子どもが? この者は随分とお若きようにお見受けしますが‥‥‥」
だよね~。俺はエレクに似ても似つかない。しかも、エレクはメローペの亡くなった祖母と同年代設定だったとか。孫ならともかく。きっと信じてはいないんだろうな。半分は本当だけど。
不審を感じても、身分が上の者がそう言う以上、下の者はその通り飲み込んでおくしか無いだろう。
「まさかエレクトラ様の管理人を継がせるおつもりですか!? 我々ガーディアンのトップの役目をいきなり果たせるとでもいうのですか? イオ殿は、この森を知っているのでしょうか?」
ベレニキス隊長がお怒りだ。若造がいきなり現れて、妖精の森の総責任者だって言われても受け入れられないよな‥‥‥
けど、俺はこの森を隅々までわりと知ってる。魔蜘蛛だったし、夜な夜な森を歩き回ってフィールドワークもばっちり。妖精たちとも話せる間柄。狩りの腕も自信ある。空と木の生え方を見れば方角だって読めるし、森で迷うことなんてない。ここで言えないのは悔しい‥‥‥
「管理人はイオです。他にはあり得ません。これはエレクトラ様が抱える極秘事項を引き継いでいるからなのです」
「しかし、イオ殿は妖精の森のフィールドを知っているのですか? 危険な動物や、武器を持った密猟者に出くわすこともある我々のことを知らないまま、トップの管理人とは無謀では──────」
何だろ? 扉の向こうが騒がしい。
「緊急に申し上げます!」
見張り番の男が駆け込んで来た。
「お話中、申し訳ありません! 物置小屋護衛より、ベレニキス隊長に緊急の伝令があるそうです。拘束中のアルゲニブ副隊長についてだそうです。通してよろしいですか?」
「緊急だと? よし、通せ」
青ざめて狼狽した若きガーディアンが進み出た。手が震えてる。俺らを見てさらに恐縮してキョドってる。一体何があったんだろう?
「何だ? 言え!」
ただでさえイラついていたベレニキス隊長が、不機嫌な声を出す。
「お、恐れながら申し上げます! 副隊長アルゲニブが脱走しましたッ! 申し訳ありません!!」
男は言い放った途端、床に崩れ落ちた。
「なっ、なにッッ!!」
ベレニキス隊長がガッと立ち上がる。
「ふぅ‥‥なるほど。逃げるなど、益々怪しいですね‥‥‥」
シリウスはスッと長い脚を組み換え、ため息交じりに眉間を押さえる。
メローペの兄貴は緊急時にも優雅だな。さすが、未来の領主。
もう俺、喋ってもいいよな。
俺に毒矢をぶっ刺した奴だし、その点でも是非とも協力させて欲しい! ヤバい死ぬとこだったわけで。
「ベレニキス隊長。緊急だし、人手ないんだろ? それに残ってるガーディアンたちは皆疲れもピークで動きも鈍そう。アルゲニブの追跡に俺を隊長補佐として連れてってくれ‥‥ださい。お役に立てると思う、います。それで俺を判断してくれ‥‥あ、して下さい」
言葉遣いムズい。けど、頑張る。
メローペの権力で俺をゴリ押ししなくてもいいよ。俺にだってプライドがある。
それに周りから実力を認められてなきゃ、誰も協力してくれないと思うんだ。
「それに俺はしばらくガーディアンに入って現場を知る必要がある。暫くベレニキス隊長の下で修行することをお許し下さい。メローペ。あ、様」
人前で今まで通りじゃまずいよな。さすがに呼び捨てじゃ。
「イオにその必要があるとお考えならば私は許可しますが、後はベレニキス隊長次第でしょう」
ならば、俺はベレニキス隊長の目をちゃんと見て訴える。
「俺は妖精の森を護る使命をエレ‥‥母から授かっている。それが俺の生きる道。それしかない。あなたはこの俺が不満なら、俺を存分鍛えて下さい。隊長の下に暫く俺を受入れて下さい。お願いしますッ!」
「‥‥‥本気なのか?」
「もちろんですよ! それが俺の300年の運命の終着地点だし!」
「300年?‥‥‥よくわからんが、ヨシッ! ついてこい! 遅れるなよ! 邪魔になったら森の奥だろうが置いて行く。エレクトラ様の息子設定だからって甘くはしないからなッ!」
「はいッ! 宜しくお願いします!」
ちっとも信じてないじゃん! 息子設定はあながち嘘って訳じゃないんだけど。
駆け出しながら、俺について来いと腕を回して合図する大きな背中の後ろ姿。
懐かしい気持ちが蘇る。
カルポ爺さんに弟子入りした昔を思い出す。くすぐったい気持ちだ。
新たな俺の居場所が出来ていく。
俺の魔法使いとしての能力は未知数。
それは俺を受入れてくれた森のために使うことになるだろう。
────俺はイオ。人間としての再スタートが今、始まる!
次回、最終話です。そのあと、余話を2つ付けて終わる予定 φ(゜∀゜ )




