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眠りにつく前に  作者: メイズ
愛を継ぐ若者の章
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ガーディアン隊長 ベレニキスの所見2

切りどころが無くて、ちょっと長くなってしまいました m(_ _)m

 副隊長アルゲニブはロープで椅子に縛り付けてある。物置小屋出入り口は、部下2名に任せた。


 ひとまずこちらは置いて、北の塔に籠もったわがままお姫様と大蜘蛛はどうなってるのだろう? メローペ様はご無事なのだろうな? これ以上何も起こってくれるな‥‥‥


 そう祈りながら小屋から出た私は、()いて北の塔まで小走りで戻った。


 あん? こちらに残した隊員たちは、どこか緊張感が揺らいでるように感じられる。笑顔でお喋りとは? 


 数人で喋りに興じている隊員に声をかけた。


「おいッ、こちらの状況はどうなっているのだ?」


「あっ、ベレニキス隊長!」


 途端、キリリと敬礼する若きガーディアン5名。


「こちらはアルゲニブは拘束し、向こうの物置小屋に取り押さえているというのに。こちらは何やらそわついていないか? 緊張感が欠けているぞ! 北の塔チーム班長は何をしておる!」


「班長は幕営を立て、あちらのテントにてシリウス様たちと話し合いをしております。我々は待機状態です」


「隊長、申し訳ありません。ですが、ベレニキス隊長は副隊長を追っていて、奇蹟をご覧になってらっしゃらない、のですよね‥‥?」


 意味深に目線を交わし合う隊員たち。


「奇蹟? 何かあったのか!」


「はい! メローペ様が奇蹟を起こされたのです!」


「なに? メローペ様がキセキ‥‥?」


「私たちはそのことを語っていたのです! メローペ様が神に選ばれし乙女というのは事実だったのです! 森に隠れ住む妖精たちを呼び寄せ、バルコニーの窓から塔の中に招き入れたのです! 皆、妖精の群れなんて初めて見ましたよ。我々は感激しているのです!! それはそれは尊い光景でした。メローペ様はプリアードの誉れです!」


「‥‥‥何だって!? 嘘だろ? 妖精がわんさか出たって言うのか? 虫とか、小鳥の群れの見間違いじゃないのか‥‥‥?」


 30年近くフォレストガーディアンをしている私だって、そんな光景見たことはない。そうそう妖精に出くわすことすら無いのに。


 私が初めて見たのは入隊して8年目。それは目が覚めるような美しいブルーの羽と衣の妖精だったが、一瞬だった。あっという間に木立の中に行ってしまった。ここ十年は、数年に一度くらいは目撃しているが、いずれもはっきり見られたわけじゃない。


 誰もがそんなものだろう。妖精は人に見られるのを嫌い、避けるものだ。森に棲む小鳥だってそうだろう? 彼らは小鳥以上に用心深いのだ。


 ‥‥‥それを呼び寄せるだと? にわかには信じ難い。


「いえ、シリウス様もテュレイスからの客人の方も目撃されました。ですので班長と幕営で会議中なのです。残念ながらガーディアン隊員には、妖精が見えない者も幾らかおりましたが‥‥‥」


「なんと! なれば一体、塔の中で何が起こっているのだ???」


「我々には測り知れぬことです。手負いとはいえ、恐れること一切無く大蜘蛛を抱き抱えるなど、我々とて出来ることではありません。突然現れた魔蜘蛛の正体も、メローペ様は見通してらしたのではないか、そしてお持ちの聖なる力で制御することが出来るからなのでは、と皆で考察していたところなのです」


 いささか信じられない気持ちだが、目撃者が複数いるならば事実なのだろう。


 私は班長とシリウス様たちがいるという幕営に向かった。


「こっほん‥‥ベレニキスです。入って宜しいかな? 一報は届いておると思いますが、副隊長アルゲニブは拘束されました」


「ああ、待っていました。こちらの席へ、隊長ベレニキス。迅速に良くやって下さいました。感謝いたします」


 シリウス様が私をねぎらった。それは有り難いが、こんな16、7の若造にペコペコしなければならないとは、生まれながらの身分とは哀しいものだ。あ〜‥‥管理人(アドミニストレーター)への道は近くて遠い私‥‥‥いや、この一件で風前の灯‥‥‥


 私はこの場にて、アルゲニブの抗弁を詳しく報告した。


 アルゲニブが放ったのは毒矢だったと判明している。初めは大蜘蛛からメローペ様を守るためだと思ったが、そんなものをメローペ様すれすれに放つとは、上層部に多少の反骨心を持っているこの私とて、もはやアルゲニブには悪意しか感じられない。


 部下の管理不行届きで、私も処分対象だろう。しかし、変に事を過小に見せかけようと庇い立てするのは得策ではない。仲間だと疑われかねないし、既にシリウス様が当事者としてここにいるのだから、誤魔化しはきかない。


 出来る限りアルゲニブの真実を暴き、貢献しなければ私の立場はさらに危ういのだ。


「‥‥‥只今引き続き信頼出来る腹心ガーディアンたちに命じ、アルゲニブの持ち物を回収し、身元の洗い出し、最近の行動なども調べさせております。アルゲニブの親しき者らへの聞き込みも独自に指示しております」


「そうですか。同胞とて庇い立ては不要です。あの男は反逆罪に当たる可能性もありますね。明日の朝には城に連れ帰り、尋問せねばならないでしょう。初見から何かありそうな者だと思っていましたが‥‥まさか領主一族に向けて躊躇無く矢を放つとは‥‥‥」


 シリウス様が眉間にシワを寄せている。シリウス様はまだお若く、感情を隠すことはしない方だが、この場合は怒りを示して然りだろう。


「憲兵にも伝達を出しましたが、ここは森の奥のこと。今からでは暗くなり、本日の引き渡しは危険ですので明日引き渡す予定です。それまでに、我々が出来るだけの調べは致す所存!」


「あの‥‥我らにも一言言わせて下さい」


 シリウス様たちにくっついて来た、テュレイス側の使者2名だ。メローペ様をお迎えに上がってそのままもてなされているとか聞いている。きっとプリアード城内の諜報も兼ねているのだろう。



「我々テュレイスの使者の立場ながら、副隊長アルゲニブの態度には内心、呆れていたのです。メローペ様は巷では、『ネビュラの女神』と呼ばれておりますが、いえ、テュレイスに組み込まれた旧ネビュラ王国を含め、テュレイス国全体の北の星信者の女神ですよ?」


 中年の一見穏やかそうな顔をしていた使者の男だったが、耐えていた堰が切れたようだ。いまいましげに私に苦言を呈した。継いで、若い方の使者も出しゃばって来た。


「いやいや、テュレイスどころか世界中の信者に敬われる立場のお方だ! 私は、メローペ様が女神として誕生された瞬間を目撃した稀少な者の一人です。この度、お迎えに上がる使者に選ばれたのはこの上ない喜びなのですよ。‥‥‥アルゲニブ殿は、メローペ様の尊さをまるで分かっていらっしゃらないご様子でした。いえ、この城の者はまるで分かっていらっしゃらない。メローペ様はお姿そのままに、女神として生まれ変わっていらっしゃるというのに」


「はぁ‥‥‥」


 とは言われてもピンとこない。私ももちろん北の星信者だが、この熱弁には引いている。この二人はただのメローペ様の推し。単なるファンでは‥‥‥?


「この者の言う通りです。我々も厚かましいとは承知の上、メローペ様を心配し、足手まといとは知りつつもここまでついて来て次第です。そして、第2の奇蹟にも遭遇するとは‥‥‥‥! 誠に優美にて麗しい光景でした。メローペ様が窓を開け放ち間もなく、キラキラ光を纏う妖精たちが集って────────」


 テュレイスからの使者お二人は、感動を思い出したようだ。頬を紅潮させ語る光景は、すっかりメローペ様に心酔している。


 事実なのかもしれないが、私は見ていないので。


 だいたい、妖精が群れのように集まるなど‥‥? 妖精の実際を知る私だからこそ、信じ切れない。


 シリウス様たちは取り敢えずこのまま見守り、メローペ様が自ら出て来るのを待つことに決めたようだ。ならばその決定に私は従う。ここの指揮権は先程、北の塔チーム班長に預けたままだ。方針決定の責任は追わずに済む。


 塔に登るための足場作りは、木を幾らか切り出した段階で中断されていた。何者も近寄らないように命じたメローペ様と、集まった妖精たちを刺激してはならないので。


 ならば待機は長くなりそうだ。メローペ様の安否が確認できたことは、ただ一つ好ましいことだ。




 ***




 何の進展もないまま辺りは暮れなずみ始めた。皆、ダレ始めているが仕方がない。ずっと気を張っていられる訳もない。


「よし、篝火の用意だ! 闇に備えて塔の周りを照らし出せ。薪も十分用意しておけ!」



 2連続徹夜になるものは、せめて幕営にて休ませねばならない。


 だが、彼らはテントで休もうとしない。メローペ様と妖精のことが気になって。塔の中に入ったのなら次は出て来るはずだと。

 もう一度歴史に残る瞬間を目に焼き付けるのだとダラダラ待っているのだ。


 ちょと待て。お前ら、魔蜘蛛も中にいること忘れてんだろ? 



「あっ、メローペ様が窓辺に現れたぞ!」


 傾きつつあるオレンジ色の光に照らされた塔。


 声につられて真上を見上げる。近すぎてメローペ様は見えない、が────



「‥‥‥ん?」 


 バルコニーから飛び出して空に舞い上がって行くのは、まさか‥‥!


「隊長! 先ほど入った妖精たちが森に帰って行くようです! 一体、中で何が行われていたのでしょう? メローペ様が妖精を見送ってらっしゃいます」


 バルコニーから次々と飛び立って行く小さな妖精たち‥‥‥


 様々な美しい羽を震わせて────


 夕日に(きら)めく妖精たちの細かな光の粒の軌跡。揺れる曲線が(くう)に描かれ、刹那に消えて行く。


 この光景はここにいるものら全てを夢心地にさせている。魔蜘蛛の恐怖まで忘れさせるほどに。



 ────私は夢を見ているのでは? この森にこんなにたくさんの妖精がいたなんて、日々森で過ごしている私でさえ気づけなかった。


 そう言えば、エレクトラ様が言っていた。


『ガーディアン、ジャニターの皆さんの尽力により、この森の妖精たちは確実に増えております。皆さんがまだ実感されなくとも。妖精が増えるのは森が健全な証拠なのです。命溢れる豊かな森は、私たち人間にも大きな恩恵を与えてくれているのですわ。あなたは信じて下さるかしら? もし森が消えてしまったら、水は濁り、そしてわたくしたちは呼吸(いき)さえ出来なくなってしまうのですわ』


 話半分に聞いていたが、それはあながち間違っていなかったのかも知れない‥‥‥


 それにしても、メローペ様のお力には恐れ入った!


 まさか、本当に神に微笑まれたお方だったとは‥‥‥。テュレイスの使者たちが語ったことは事実だったのだ!



「シリウス様! ご覧になられましたか? メローペ様はまさしくネビュラの女神です! これから本格化されるテュレイスとネビュラとの融合に置いても、我々プリアード領にとって、良き条件を引き出して頂ける交渉が叶うことでしょう」


「‥‥我が妹なれど、妹に非ず。このような奇蹟を見せられるとは。なればメローペは、聖なる力で魔蜘蛛も従えることが可能だったのかもしれない。そうでなければあの唐突な行動はあり得ぬのではないでしょうか?」


 シリウス様も、余韻を残し夢心地のご様子だ。辺りは音も無く闇が舞い降り、パチパチとはぜる篝火の炎が存在を主張し始めている。


「‥‥その可能性は大いにあります。メローペ様はエレクトラ様の部屋で何をなさっているのかわかりませんが、それが終わり次第、我々の前に戻ってらっしゃるのではないでしょうか? それは間もなくでは?」



 全く、アルゲニブのヤツはなんて罰当たりなことを仕出かしたのだ!!



 一人が塔に向けて祈りを捧げると、それに倣い、次々と跪いて祈り始めた。


 三人、四人、五人‥‥‥‥波及して行く。



 フォレストガーディアンたちもジャニターたちも、この場にいる者、皆‥‥‥



 そしてこの私も。



 ────メローペ様はプリアード領の誇り。ネビュラの女神であらせられるのだ。




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