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眠りにつく前に  作者: メイズ
深淵を覗く魔女の章
39/66

宿命の先

 メローペ様は、妖精の森への招待を喜んで下さったようです。早速明日にも伺いたいと伝書鳩が届きました。


 森は城の後ろ一面に広がっているというのに、メローペ様が入る機会は数えるほどでお育ちになりましたから、待ちきれないのでしょう。妖精に会えるかも知れないチャンスですもの。


 父親のカルカブ様が意識的にメローペ様を、森から遠ざけていたのです。


 なんせ母親のマイア様が極度の妖精フリークでしたから、森を何よりも優先させていたマイア様に、息子のカルカブ様は少し辟易していたのです。娘のメローペ様が同様にのめり込むのを心配なさってなるべく避けていたのですわ。


 ですからメローペ様は、謎に満ちた妖精の森に好奇心がたまっていたのです。


 メローペ様の誕生日にふさわしきプレゼントになるように、1人で冒険気分に、されど安全に森を満喫出来るコースを用意致しました。わたくしのいる北の塔は遠いですから、アトラナートにお願いして空間を裂いて頂き、距離は少し長めのお散歩程度、危険箇所はショートカットしておきました。


 ですので、こっそりついていらした護衛の方は、メローペ様をすっかり見失いましたわ。メローペ様がお帰りになった頃に、北の塔にようやく到着することでしょう。



 護衛がいなくとも、わたくしの有能な使い魔のカラスがメローペ様の道案内と護衛をいたしますので、ご心配には及びませんわ。


 わたくしの使い魔の実力は、メローペ様の親であるご領主夫妻だけはご存知ですからこれもお許し頂けるのです。マイア様のお約束は引き継がれております。



 美しい森のソロハイキングは楽しかったと見え、 北の塔に到着したメローペ様の頬は上気し、瞳はキラキラしておりました。楽しんで頂けて嬉しいですわ。



 わたくしのことは、祖父の代から仕えている森の管理人としか、彼女にはまだ知らされてはいないそうですので、黒いローブを着て深くフードを被っての登場となります。


 メローペ様を見ると、マイア様の血がこうして引き継がれていることに、深く感慨を覚えますわ‥‥‥



「エレクトラ様、ごきげんよう。今日はご招待ありがとうございます。えっと、これはわたしからのお礼のプレゼントですっ!」


 メローペ様は招待したわたくしに、少し緊張した面持ちでワンポイントを刺繍をした自作のハンカチーフをプレゼントして下さいました。昨日の朝、届いたばかりの招待状ですのに。夕べ一晩で頑張って刺繍したのですわ。なんてお心遣いのあるいじらしいお嬢様でしょう。



「まあ、お誕生日のメローペ様からわたくしに? うふふ‥‥これでは反対ですわね。嬉しいですわ。まあ、可愛い! これは‥‥‥グラスホッパー‥‥バッタさんの刺繍かしら? 心のこもったプレゼントほど嬉しいものはありませんわ。お金では買えませんもの」


「バ、バッタ!? それは、よ‥‥はい、バッタです!」


 マイア様は妖精好きだったけれど、この子は虫がお好きなのかしら?


「特製のハーブティーと焼き菓子を用意してありますの。こちらへどうぞ‥‥‥」



 応接間にご案内し、お茶を召し上がりメローペ様が落ち着かれたところで、わたくしはさり気なく宿命へと繋がるヒントを探らねばなりませんの。


 さり気なく会話しながら探ってみますわ。


「わたくしは、普段は森で暮らす生き物全体に心を砕いておりますが、メローペ様は今、どんなことにお心を向けてらっしゃるの?」


「‥‥う〜ん。二日前に、庭に落ちていた小鳥の雛を育てているから、エサの虫集めかな‥‥? ここのとこ野鳥たちがなぜかソワソワしているから、きっとうっかりしたお母様鳥が落としたの」


「そうですの。ならば夜の灯りに集まる虫を捕らえる仕掛けを作ればいいわ。向こうから勝手に入ってくれますの。簡単ですから教えて差し上げましょう」


「わぁ! ありがとうございます! 前にも雛を拾ったことが2度あるの。私が雛を拾うと間もなく嵐が来るのよ。今日は素晴らしいお天気だけど」


 この子は観察眼があるのね。


 そう‥‥この下弦の月が朔を迎える頃、ネビュラに大きな嵐が訪れますわ。今は遠い海の上で、精を蓄えていますのよ? 私の300年後の復讐は最早カウントダウンと言えますの‥‥‥



 この子は宿命のこと、夜の夢などで予告は受けてはいないのかしら? 虫の知らせのような。


 人は夢を見た自覚はあれど、内容は覚えていないことがほとんどですから、期待は持てませんが話を振ってましょう。



「メローペ様。今日はたくさん歩くから、夜はぐっすり眠れそうですわね。なんなら今夜は森のメルヘンチックな楽しい夢を見られるかも? うふふ‥‥」


「エレクトラ様。‥‥私、夜夢を見たことが無いのです。本当に残念なのですが!」


「まあ! でしたら魔女の素質があるかも知れませんわね? ‥‥‥メローペ様は魔女はお嫌いですか?」


「魔女なんておとぎ話だって知ってるわ。私はもう立派な10才です!」


「あら? いないなんて決めつけてもいいのかしら?」


 この子は、濃い闇を持っている。良き師に師事し気を高めれば呪術を使うのは可能でしょう。



「もーう! 近頃の10才はそんなの物語の中だけなのって知ってるから! でもね、もし本当に魔法が使える人がいたらいいな。ほうきで空を飛べるんでしょ? けど、あれを乗りこなすのは難しそうよね。よりによってなぜ、あんな細い棒に跨ることになるんでしょう? へんなのっ。どうせなら、リュートとか、ヴァイオリンとか、ビウエラに乗る設定の方がマシじゃないかな?」


「うーん、確かにその方が安定しそうですわ。メローペ様は実用的でらっしゃるのね。降りたら演奏出来ますし、弓は魔法の杖になりますわね! そのようにいつの間にか与えられた概念に疑問を持つことは賢明なことですわ‥‥。わたくしは空を飛んだことはありませんけど、もし飛べるならほうきよりも絨毯よりも、是非とも伝説のペガサスに乗りたいですわ。フフフ‥‥‥」


「あ! 私も楽器よりペガサスにする! 飛んだら注目の的だからカッコいい方がいいもん! 見栄えは大事よねっ!」



 期待していたのですが、メローペ様を目の前にしても新たな未来予知のビジョンは浮かんで来ませんの。


 メローペ様が、どうして遠い地の大聖堂の地下になど? わかりませんわ‥‥‥‥


 何かヒントは得られませんの‥‥?



「カード占いでもいかが? わたくしの宝物に、アンティークな占いカードがありますの。10才の記念に、どんな未来か占ってみましょう」



 わたくしの持つ、いにしえのカードでメローペ様の未来を占ってみましたら、確かに数年後に大きな転機が訪れることは確かなようです。が、カードではやはり具体的なことはわかりかねますわ‥‥‥



 わたくしは再度、メローペ様を目の前にして気を集中し、彼女の宿命の続きを見ようと試みましたが同じ場面しか見えないのです。


 ‥‥と、いうことは、いまだ可能性のレンジが広く、この先は今は定まってはいないのでしょう。宿命はこれだけだということだわ。


 メローペ様のこれからの3年間の成長が、自身の運命を決めるのです。


 これからの彼女次第で、これから決定して行くのですわ‥‥‥


 わたくしは、宿命を受け入れなければならないマイア様の孫娘に、出来るだけの協力を致しましょう。



 彼女に望みある未来になるように───



 きっと宿命の根底には、じき始まるわたくしのネビュラ王国への復讐があるのでしょう。宿命を背負うメローペ様とイオを結ぶ糸は、わたくししかあり得ないのですから。


 どうか、無事に乗り切ってくださいませ。その先の運命はあなた次第ですわ。メローペ様‥‥‥



「カード占いの予言では、大きな転機が数年後に訪れると出ました。その転機がどう転ぶかはまだわかりませんの。仮にもメローペ様は領主様の娘。これからの3年間、大局観を持ち、聡明な心で高い場所から人々をよく観察し、学びなさい」



 あら? メローペ様はわたくし特製の焼き菓子を頬張って、今のアドバイスは馬耳東風‥‥ふふ‥‥まだ10になったばかりですものね。


 菓子に夢中の無邪気なメローペ様を見ていると、この先に起こる暗き宿命は想像もつきませんわ。



 わたくしがイオと知り合ったばかりの、幸せしか無かった頃のように────



 今は嵐の前の静けさなのです。




 ***



 そしてその13日後、朔の日がやって来ました。




 ─────300年後の魔女の復讐の幕開けですわ。





 

しばし休みます m(_ _)m

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