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眠りにつく前に  作者: メイズ
清廉なる乙女の章
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女神降臨作戦開始

 それからアステローペと私は、近くに訪れるであろう日に備えて準備を急いだ。


「メローペ。まずは、その箱の中身を出せ! 俺の入ってたタマゴの殻を持って来い!」



 扉の前に置いていた壁修理セットの箱の中身を出した。石の粉が入った袋とバケツとコテにハサミ、混ぜ棒、汚れた大きな布など。


「この敷布の上に空箱を置いて、俺の抜けた殻を入れるっと。よーし! 行くぞ?」


 アステローペがガリガリとタマゴの殻を齧って粉にした。私がそこに、袋に入っていた石の粉を投入。


「ケホッ‥‥粉が舞うわね。これで何するの?」


「ここに水と俺の糸を加えて混ぜる。そして大きな神の像を作るのさ。 タマゴ型の大きな空洞。メローペがしゃがんで入れるくらいの大きさで」



 やーん‥‥なんかじわじわとイヤな予感がするわ。何となくアステローペの演出は察し。だけど、やるしかない。私は私のままでいたいの。頑張らなきゃ。


 アステローペだって私のために頑張ってくれてる。一人で逃げる事だって出来るのに、外に出ても戻って来てくれる。アステローペがいてくれて本当に感謝よ。



 ‥‥‥あ。もしかして、アステローペは私の────



 エレクトラは私に言ったわ。


『けれども、メローペ様には守護の星がついております。この難局を乗り切れるかどうかは、あなた次第とも言えますわ』



 アステローペは、私のためにエレクトラが用意した守護の星なのだわ。


 そしてこの窮地を乗り越えられるかは私にかかってる。これがエレクトラの計画通りならば、私には、助かる道が必ず用意されてる。



『ええ、最悪でもこのお渡しした薬によって、メローペ様の自我は保たれるでしょう。そのお美しい月夜の雪原に舞う精霊のようなお姿は失われるとしても。わたくしは、そうならないことを願っておりますけれど』



 エレクトラは暗に、私が薬を使わずとも生還出来るとも言ってるわ。


 ムムム‥‥‥なんて用意周到な魔女なのかしら!! すっごく憎たらしいわ!



 ***



「う〜ん、我ながらなかなかいい感じに出来たな。冬の作業のクマの木彫りで培われた、俺の芸術のセンスが光ってんな!」



 アステローペが8本の脚で器用に転がして見事な曲線美の神の像を作った。


「ほら、メローペ。ここを三角に切り取れ。出入り口な。ハサミあったよな」



 推定時刻昼下がりには、薄い青色が美しい大きなたまご型が出来上がった。



「私がここに入るのね。それにしても、随分な肉体労働よね。あなた魔物でしょう? 魔法でぱぱっと作れないの?」


「‥‥バカ言えよ。生まれたての俺に何 期待してんのよ? 夢見過ぎんなよ! ま、今んとこ尻を光らすくらいは出来るけど」


 アステローペがお尻をピカピカ点滅させた。


「わ、綺麗ね。お尻が光るなんてホタルみたいで素敵ね。糸も出せるし、蜘蛛のお尻はとても有能なのね。で、私たち次は何をするの?」


「メローペは見た目を女神らしくすることだな。その身なりはどうにかしないと‥‥‥」



 う‥‥蜘蛛にダメ出しされた。そうよね。私は2日も着の身着のままで髪も梳かしていない。


 今の作業で着ていたドレスも汚れたし、このまま寝てるからシワだらけ。


 けど、ここでは水は貴重品よ。余計な水は余ってないの。


「ここには金物のバケツがあるじゃないか。工夫すればそこの壁から滲み出てる地下水をこれに貯められんだろ。待ってろ」


 アステローペが、太い糸を壁から渡し、水が伝ってバケツに貯まるようにようにしてくれた。


 サバイバル術が長けてるのね。さすが元狩人だわ。


「俺の蜘蛛の糸ってメッチャ役に立ってるよなー。自画自讃していい?」


「もちろんよ! これで私が身を清められる水が出来たわね。最初に用意して頂いた水は残り少ないし。ねえ、このドレスは汚れてしまったから、私が箱から見つけた聖歌隊の白いローブがあるんだけど、これなんかどう?」


 もう一つの木箱に黒い修道士のローブが数着入っていたから2枚は石棺のベッドの中でブランケットにしてた。聖歌隊の白いローブもあるの。



「これか? こんなローブじゃ女神様とは言えないなぁ‥‥。ほら、そこのハサミでデザイン変更だ! デコルテ部分を変更だ! ほら、メローペはここに切り込みを入れて‥‥‥ここ持ってて。俺の糸でここ繋げて───」




 ***




 アステローペの紡ぐ糸は魔法の糸なのね。何種類もの糸がお尻から出るの。白いローブが、オフショルダーの素敵なドレスに変わった。飾られた蜘蛛の糸のレースが、オーロラ色にキラキラ光ってる。こんなドレスは今まで見たことない。


「スゴイ! アステローペは天才ね! 試着してみるわ」



 今は何時かしら? もうきっと外は暗くなっているのでしょうね。一日がかりで準備した。試着もいい感じね。緩やかなデザインだからサイズも大丈夫。くるりとターンして一周してみせた。裾が七色の微細な光を放ちながらヒラリと広がった。うふふ、すごく綺麗!



「おお! ピッタリだな。俺の力作。フフン、俺には物知りのエレクトラから教えて貰った豆知識が残っているからな。実は少しだけど社交ダンスだって出来んだぜ? エレクと舞踏会ごっこして一晩過明かしたことある。♪ラララ~ララ〜ン‥‥あ、今は蜘蛛だから無理だけど」


「へぇ‥‥私もお兄様相手に練習中よ。うふふ‥‥アステローペとも踊れたら楽しそうね」


「‥‥‥‥かもね」



 あっ、私ったら‥‥。アステローペは本当は蜘蛛になりたいわけじゃなかったというのに。内心では人間に戻りたいのかも知れないの‥‥‥‥



「‥‥で、えっと‥‥後はお水が貯まるのを待って、私が綺麗に身なりを整えればいいのね。さて、これで用意は出来たのかしら? アステローペの女神降臨の演出の計画を教えてくださる?」


「先は不明だから臨機応変だな。俺が外で見張って様子を伝えながらメローペに司令を出すってのでどうよ?」


「アステローペの身は大丈夫なの?」


「ああ、俺の体は今んとこ魔力で大きくはなれなけど、小さくはなれるみたいなんだ。だから隠れるのはお手のものさ」


「そんなに小さくなったら鳥に食べられちゃうかも!」


「体を硬く出来るから、食われたとしてもそのまま出られるさ」


「心配だわ。気をつけてね‥‥‥」



 アステローペに何かあったら‥‥‥? そんなの絶対イヤ!! 



 ───本番は上手く行く?



 ううん、きっと上手く行くわ。私たちなら‥‥‥‥





 

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