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眠りにつく前に  作者: メイズ
清廉なる乙女の章
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ネビュラ王国崩壊の序章

「侵攻の噂はずっとあったんだが、テュレイス帝国は、我々に同情するふりをしながら侵略するタイミングを虎視眈々と狙ってたんだ! こんなに弱ってるネビュラ王国なんてあっという間に蹂躙されちまうに決まってる。遠い友好国からの援軍なんて、もう間に合わねぇ。テュレイスは、夜明けから侵攻を開始して、早ければ数日後には(みやこ)のここまで到達する可能性があるらしいです。わしも早く逃げんとならん。けど‥‥‥」


「けど?」


「この部屋のカギを持ってるのは司祭様だが、司祭様はテュレイスの情報をわしらよりも早く知ってたようで、昨日のうちにさっさと国外目指して逃げおったらしい! カギは行方不明になっちまって。わしゃどうしていいもんか。このままではメローペ様はどうなっちまうんだ! こんなとこに閉じ込められてたら、テュレイスの兵士に見つかっても見つからなくても地獄だ‥‥‥」


「ええッ‥‥‥カギは1つしか無いの?」


「申し訳ないです。司祭様がいないことには。カギ屋に頼んだけど、勝手に開けたら罪人にされるってビビって開けてくれないんでさ。わしがこんなに頼んでるのに。わしゃ、どうすりゃいいのか‥‥‥」


 カペラさん以外は、私のことを気にかけてくれる人はいない。


 どうしよう‥‥‥こんなことになるなんて!


 ‥‥‥怖い。ドキドキドキドキ‥‥心臓が早鐘を打つ。



(((( メローペ、落ち着けよ! 大丈夫だ。俺に考えがある。 カペラはさっさと避難させろ。俺、カペラは人が良すぎて、いっつも貧乏くじ引いてたの知ってる。わかるだろ? じいさんになっても未だこれだよ。このままじゃ、じいさんはメローペを哀れに思って、逃げるに逃げられない )))



 アステローペの声が頭に響く。


 わかったわ。私はアステローペを信じる!



「‥‥カペラさんのせいではないわ。危険なら早くお逃げなさい。私のことはいいから」


「しかしメローペ様が‥‥」


「では、私が命令します。すぐにお逃げなさい! 以上よ! もう行って!!」


「なんと‥‥なんと慈悲深いお方‥‥‥‥まさにネビュラの女神メローペ様。わしはあなた様のことは忘れませんです。わしは‥‥わしは‥‥‥わああああぁぁぁーーーー」


 カペラおじいさんは、叫びながら去って行った模様。


 そのお顔を一度も拝見出来なくて残念だったわ。きっと優しいお顔なのでしょうね。




「アステローペ、これでいいの?」


「ああ、上出来だな!」


「私、後はどうすればいいの?」


「ふふ‥‥これから忙しくなるぜ? 壁は石のブロックだし、第一、こんな地下までは炎も煙も来ないし、この扉も丈夫に出来てるから暴徒の侵入は難しい。あと数日経って俺の体がもっと硬くなれば壊せそうな気もするから万が一の時は脱出も出来るだろ、たぶん」


「たぶん、ね。だからってテュレイスの兵士に見つかったら?」


「うん。人ってさ、パフォーマンスに弱いからな」


「どういうこと‥‥‥?」


「ちょっとした演出さ。確かテュレイス帝国も、俺らと同じ北の星を神とする信徒が大部分を占めてるんだろう? ならば。‥‥‥権力者が使う手だろ。火炙りの時も、見物人(スペクテイター)たちは、まるで芝居でも見るように紅蓮の炎に包まれてく俺たちを見てハイになってたぜ?」


「‥‥何を考えているの?」


「奇蹟を見せてやればいい。メローペは本物のネビュラの女神になるのさ」


「私に女神のふりのパフォーマンスをしろってこと?」


「そういうこと。外は混乱してるみたいだからちょっと見て来る。用意に忙しくなりそうだから今のうちにたくさん食って来る。メローペにもうまいもん持って来てやるから。‥‥‥明け方には帰る。寝て待ってろ!」



 アステローペはそう言い残して煙突に入って行った。




 ***




「ただいまー! 帰ったぜ。つっかれたー‥‥‥。はい、お土産。開けてみろよ」


 アステローペは私に前回より大きめの繭を寄越した。開けたら、香ばしい香りがフワッと鼻をくすぐった。


「わぁ! ふわふわのパン!」


 パンと林檎とチーズ!


「美味しそう‥‥‥これもお供えなの?」


「あん? あれはもう無くなってた。外は混乱してるし、暴動も起きてる。必要な人が持ってったんじゃね? これはここの司教の部屋の棚の隅っこに残ってたやつ。鍵かかってっから排気口伝って入った。もうあいつはどっかに行っちまったんだろ? 放おっておいたらどうせカビになるし」


「そうね。無駄になるだけだもの。今度はアステローペも一緒に頂きましょう」


「ううん、俺は外で食って来たから腹一杯。当分食わなくてもいい感じがしてる。これはメローペに持って来たんだ」


「本当にいいの?」


「おう! 早く食っちまえよ。忙しくなるぞー! 噂ではネビュラ軍は3日も持たないらしいぜ? 最初から士気は低いらしい。なんでも、あちらさんはアトラク=ナチャ、別名アトラナートを連れて来るって噂になってる。本当なら首都陥落も早いかも知んない」


「アトラナートって?」


「伝説の魔物の大蜘蛛さ。覚醒の世界と幻夢の世界の間にある闇の深淵を繋ぐ糸を紡ぎ続けてると言われてる。噂によると、その隙間にある巣をデカくするのが趣味らしいから、実戦に駆り出されて巣の拡張作業がはかどらないとなると、イラついて八つ当たりでめちゃくちゃ暴れるらしい。んな怪物、どこからどうやって引っ張り出したんだろうな?」


「それってアステローペちゃんみたいな大きな虫?」 


「‥‥‥虫ゆうなよぉ。俺だって確かに人間にはうんざりしてたけど、本当に魔物に、しかも蜘蛛に生まれるなんてびっくりしてんだからなー」


「そうだったの? なりたくて蜘蛛になったのかと思っていたわ。選べないんだ‥‥‥」


「俺の場合は選んだような選ばなかったような‥‥人間にはなりたくないと思ったのは事実だけど、なりたくないけど、なるのが前提で思ってたんだよな。結局、魔物になったけど、けど、決して蜘蛛指定はしてない! それは置いといて、アトラナートは、俺と違って体が人と同じくらいデカいらしい。きっと魔力で巨大化させたらすごいと思う。俺よか強そうだよなぁ‥‥‥俺は魔物とはいえ、イオの心のままの陽気なペットサイズの可愛いお喋り蜘蛛だし‥‥‥」



 アステローペの自己評価についての私の感想はさて置き‥‥‥


 私が本当に魔女がいるって知ったのはつい最近、そしてつい昨日、アステローペに出会って本当に魔物がいるだなんてことを知った。妖精だって珍しくなった昨今(さっこん)、いきなりそんな怪物が人前に現れたら‥‥‥


「本当に? そんな魔物が地上に堂々と現れたの!? ネビュラ王国を壊滅させるために。うー‥‥‥さすがにそれを目の当たりにしたら、弓矢隊だって戦意を喪失して逃げるわよね。馬だってびっくりして制御不能になりそう。騎馬隊も振り落されるのは目に見えてる。接近戦で盾と剣で向って行くなんて死にに行くようなものだし‥‥‥」


 確かに、ネビュラ軍は3日と持たないかも。


「だよなー。1人逃げ出したら雪崩で逃げ出すのが目に浮かぶよなー‥‥‥」



 大蜘蛛アトラナートか。


 エレクトラは蜘蛛の魔族と関わりが‥‥‥? イオが大蜘蛛に生まれ変わったのも引っかかるわ‥‥‥


 エレクトラはどうやって呪いを実行しているの? 妖精の森にいながら。


 ‥‥‥もしかして。


 妖精の森に来る前にもう仕込みは終わってた、とか。あとは時期を見計らってGOさせただけ?



 ちょっと待って。



 これまでのことは、エレクトラの計算通りということ。



 エレクトラを妖精の森の管理者にしたお祖父様も、


 転生の薬のことをエレクトラに吹き込まれたのであろうお母様も、


 タマゴをここに運んだカペラさんも、


 狩人のイオから魔物の大蜘蛛に転生したアステローペも。



 みなエレクトラの筋書き通り? 手のひらで踊ってるの。



 エレクトラは、私に白羽の矢が当たったことも "逃れ難き宿命" だと言ったわ‥‥‥




 これはエレクトラに作られた、300年前からの宿命────







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