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眠りにつく前に  作者: メイズ
清廉なる乙女の章
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《挿話》 恋したら魔女だった 5

「これは、あたしにはまだ調合成功してない薬だけれど、この二粒は、あたしが大昔にある魔女から受け継いだ最後の二粒。第三の扉へ進む手助けをしてくれる」


「‥‥‥新たに作れないんだ? なら、この世にたった二粒しか残ってない貴重品ってこと? それを俺に‥‥‥」


「そうよ。世界のどこかにはあるかも知れないけどね。あたしの取り分だった薬はこれでお仕舞い。そんなことより、よく聞いて、イオ。死ぬことと眠ることとは違うけど、半分までは同じよ。半分以降の道が違うの。途中で分かれ道があるのよ。それが3つの扉。本来は自我を乗せた意識が扉の前にたどり着く頃は、深く無意識に近い状態になっているから、あちらの世界との完全なる境い目となる扉を見ることなど不可能なのよ。だけど、これを飲んでおくと、事前に意識をほんの少しだけ切り取って覚醒させておくことが出来るの」


「俺よくわかんない。イメージわかねぇな‥‥‥」


「‥‥‥例えば、人の見る夜の夢って意思とは関係無く勝手にストーリーが進んで行くのでしょう? それが自分でコントロール出来るようになるって感じだと思うわ。あたしは夜の夢は見ないから想像で言うけれど」


「あー、そうそう、悪夢とか見たくないのに見るしな。危機に陥って、結局自分の叫びで目が覚めるってヤツ!」


「‥‥いい? 分岐点にたどり着いた時、イオは通るべき扉を見極めるのよ。自然に導かれる流れに乗るのでは無く、自分で選択するの。自分で! イオにだって出来るはずよ」



 エレクがそう言うなら信じるしかないけれど‥‥‥


「俺に出来るかわかんないぜ? その扉がどうなってるのか全くわかんねぇし、見分けつくのかよ?」


「扉は見かけは同じだけれど判るはずよ。考えてみて。眠りへの扉とは違って死への2つの扉は新品なのよ。もしかして第2の扉なら半歩くらいは踏み入れたことがあるかもしれないけど、ほぼ新品よ。その2つの内の心引かれない方に行くの。何となく足が向かない方へ。本来なら自然に通るべき道から意識的に反れるのだから。ちなみに、もしかして助かるかもって眠りの扉に行っても無駄よ。奥では死の部屋に繋がっているから、(からだ)自体が生きられないほど損傷すれば、結局死の扉の先と同じ場所に自動的に送られるから。そこはあたしたちが目指す場所じゃないわ」


「ふうん。でもさ、何のために第三の扉があるんだ?」


「それは‥‥‥たぶん、あたしのような人の為に、神様と呼ばれるお方がチャンスを用意してくれているの。あたしはそう思ってる。人も人の造る世界も理不尽ですもの。神の罪滅ぼしの救済ではないかしら」



 エレクは前世でもひどい目に遭ったような言い方だな‥‥‥あん?‥‥‥あれ?


「‥‥その薬を大昔に受け継いだって? 最後の二粒‥‥‥って‥‥‥‥あ!! まさかエレク‥‥‥‥!!」


 俺は、ふ~っとヤバいことに気がついてしまった!!



「そうよ。あたしはその薬で前世の記憶を保ってる。あたしは何回も生まれ変わって、今17才だけど、中身は17才ではないの。‥‥‥あ‥‥あたしのことキライに‥‥‥なった?」



 色々一気に腑に落ちた。


 エレクがカルポ爺さんより物知りで、世間についても良くわかってた理由。俺とお喋りしながら役立つ知識を教えてくれていた。俺がエレクに惹かれた理由の1つだ。年の割に落ち着いてて、他のキャピった女の子たちとは比べられない賢明(スマート)さがあった。


「えっと‥‥びっくりしたけど‥‥でも、多分それも含めて今出来上がってるエレクが俺には魅力的だったんだよな‥‥‥うん」


「‥‥‥イオ、そんな風に言ってくれてありがとう。愛してる。だから死に向かう前にこの薬を使って。早すぎても遅すぎてもダメ。効き目は、服用した時間の次の日の同じ時間までよ」


「なあ、なら今ここで一緒に飲んだらいいじゃん」


「‥‥‥イオがそうしたいならお先にどうぞ。それにイオが今、これを一粒持ってあたしから去ったとしても恨むことはないわ。イオは充分あたしに良くしてくれたから、最後のプレゼントよ。あたしには最期にすることがあるから今は飲めない」


「‥‥‥最期に? 何を?」


「人間ってね、いつの時代も変わらないのよ。同じ過ちを繰り返してる。あたしはその歴史をずっと見て来たの。そして今回は流石に許すことは出来ないのよ。この国は魔女という名そのものを貶めたわ。"魔女は悪魔の手先" という間違った概念を魔女に着せたのよ。そして罪の無い人たちに魔女の名を着せて処刑するなんて絶対に許せない。世間の魔女狩りはこの先ますます烈しくなるはずよ」


 エレクの声は怒りで震えてた。


「必ずや、この報いは受けて貰う。どんなに時間がかかろうが。イオとあたしに与えられた不遇の運命を黙って受け入れる気はないわ。だから、あたしは民衆の目の前で焼かれる必要があるの」


「ちょ、待てよ。何考えてるんだよッ!?」



 涙が滲むエレクの顔。


「死ぬ時くらい好きにさせてよ。今はイオとこうして抱き合っていたい。‥‥イオの来世では見せてあげるわ。崩壊と再生の瞬間を────」


「‥‥‥エレク」



 俺は魔女エレクトラの苦しみなんてわかってたなかったのかも知んない。魔女というのは図らずも付随しただけで、女としてのエレクの方が俺にとってのエレクだったし。




 その3日後の夜、俺たちは捕まった。


 だけど、カルポ爺さんの教えは守って、人に矢を向けるような禁忌は犯してはいないぜ? 


 爺さんが悲しむからな。エヘン!







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