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眠りにつく前に  作者: メイズ
清廉なる乙女の章
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妖精の森の管理人

 エレクトラのことを話すには、我がプリアード領の背景が必要なの。


「まずはちゃんとした自己紹介するわね。私はプリアード領領主のプリアード家の娘、メローペよ。領主のお父様、その妃のお母様、私をいつも護ってくれている2つ上のシリウスお兄様、2つ下の弟のカリストがいるの」


 私はアステローペに語り始めた。




 ***




 プリアード領は、自然とともに暮らしてる平和な土地柄で、領地の80%は森に覆われている森林の国。森の後ろ側には万年雪が覆う峻険な山脈がそびえ立っているの。それはそれは美しい景色なのよ。


 私の住んでいる城は丘の上にあって、城の後方部分の北の森は一般は立ち入り禁止よ。もちろん警備上の問題もあるけれど、一番の理由は、そこは妖精が住まう森だからなの。


 私たちプリアード家の人間だって、妖精の森にはむやみに立ち入ることは無いの。妖精たちの最後のサンクチュアリですもの。


 森に入ったとしても妖精は滅多に見られるものではないのよ。妖精は人が好きではないから隠れてしまう。夜空で流れ星を見つけるよりもずっと難度が高い。



 千年以上前には、妖精は国中の至る森にいたそうだけど、戦争や災害、人の森への侵攻と密猟などによってどんどん追いやられていなくなっていって、今ではプリアード領の一部の森に住まうのみになったと言われているわ。もちろん、他のどこかにも密かにいるのでしょうけど、はっきりと "いる" と断言出来るのは、この国ではもうプリアードの妖精の森だけなのよ。



 その妖精の森に連なる東と西の森の周囲手前には、果樹園や畑があって村がある。そして村々を結ぶ小さな町も出来上がっている。


 城から南に丘を下れば、商人も旅人も多く行き交う賑やかな街。



 プリアードの森の妖精に会いたいからって、東西の森を伝って妖精の住まう森に立ち入ることは出来ないわ。妖精にむやみに近づこうとしたらダメよ。そのエリアに近づいたら道を迷わされてしまうから。森から抜けられなくなって命を落としても知らないわよ。方向を失うのは森の管理者のエレクトラの魔法のせいだけれど、それはほんの一部の数人しか知らない。


 彼女が魔女ということは秘されていて、亡くなったお祖父様から聞かされたお父様とその妃のお母様しか知らないこと。お兄様と弟も未だ知らないはずよ。私だってつい最近まで知らなかった。


 私に人柱の白羽の矢が立って、転生の薬の件に絡み、お母様から聞かされるまでは。


 大体、まさか本物の魔女がいるだなんて普通は思わないでしょう? それまでは領主お抱えの妖精の森の管理人、及び占い師だと思っていた。お父様もお母様も、判断に迷う時には時折、相談してたみたいだったし。


 妖精とお話することが出来る強い霊感を持つ希少な女性が、森の管理者として置かれているとしか思っていなかった。



 今は全面的に違法だけれど、少し昔までは貴族やお金持ちの間で、妖精は大変な高値で取引されていた過去がある。妖精は人に恵みをもたらす森を護ってくれる精霊だというのに。



 現在プリアード領に棲息する妖精たちを護っている魔女エレクトラは、プリアード家が庇護しているけれど、それは今は亡きお祖父様の代からよ。半世紀ほど前からだと聞いてるわ。


 その経緯は、お父様も生まれる前のことで、細かいことまではわからないらしいのだけれど、既に引退した古き側近によれば、その頃、ますます減りゆく妖精の棲息地に危機感を抱き、保護に頭を悩ませていた当時若きお祖父様の前に、ふらっと現れたのがエレクトラだったそうよ。


 彼女は当時から神秘的なまでに美しい女性だったとか。それは今も変わらないの。


 漆黒のドレスを身に(まと)い、豊かに波打つ黒髪に金の光を宿した瞳。すべてを見透かすかのような視線。


 私が彼女に直接会ったのはたったの2回。


 最初は10才のお誕生日の次の日に。2度目は、転生の薬をお母様と受け取った時。



 私が、10才の誕生日を迎えた日のことだった。エレクトラから私に、妖精の森への招待状が届いた。


 次の日、私は早速森へ行くことにした。だって、妖精の森に入れる機会なんて滅多にないんだもの。


 妖精なんて滅多に見られるものじゃないわ。元々人の前に姿を現すことは無い生き物ですもの。私が野生の妖精を見たのはその時一度きり。キラキラした光の筋の残光を残しながら、蝶の羽で舞っていたのをちらっと見かけて、その儚げな美しさはどう表現していいのかわからないわ‥‥‥


 今からちょうど3年前の出来事ね。


 エレクトラが遣わしたカラスに導かれ、ドキドキしながら森の深部へ向かったのよ。しかも一人きりで外に出かけるなんて生まれて初めてだったの。


 道すがら、森の小鳥たちの会話も素敵。倒木には不思議なかたちのキノコ。チョロチョロと駆け抜ける野ねずみ。枝を横切る大きな尻尾のリス。


 枝葉の隙間から差し込む日差しはまるで小さなジェイコブス・ラダー。もしかして妖精たちはこれで天と行き来してたりして?


 心が浮き立つ。


 道は少し険しい所もあった。水は浅いとはいえ、丸太の橋や、岩だらけの川をぴょんぴょん飛びながら超える箇所もあったわ。キラキラ小魚も見えた。


 一面厚く積もった、踏むとザクザク言う落ち葉。踏むとガリっていうドングリ。大きな蜂さんを見かけて慌てて逃げる。


 そんなこともすごく楽しかった。



 やがて薄い霧の中にすごく高い石の塔が現れたの。


 不思議だったわ。高台のお城から森を見渡しても、こんな塔は見たことは無かったから。


 そこに住まう初めて会った魔女エレクトラは、黒いローブを纏い深くフードを被っていたから顔はよくわからなかった。


 お祖父様の代からプリアード家に仕えているのだから、もうおばあさんのはずなのに、口元も声も若く美しく、年齢を感じさせないのは不思議に感じたわ。


 私は招待のお礼を言って、頑張って刺繍したハンカチーフをお渡ししたら、それはそれは褒めて喜んで下さったの。私は刺繍は上手くもないのに頬が熱くなって緊張してしまったわ。


 私のために用意されていた特製のハーブティーと焼き菓子。いつもいだたいてるお菓子よりすごく美味しかった。私が感激してたら、エレクトラは、『ありがとう。きっとわたくしが育てたハーブのおかげだわ。あとでメローペ様にお土産にいくらか差し上げましょう』と微笑んだ。


 普段のことを聞かれてエレクトラとたわいないお喋りしたの。寝る前にホットミルクを飲むのかとか、夜見る夢のこととか。


 そう! 今、思い出した!


 あの時、エレクトラはとても古そうなアンティークなカードで、私の未来を占ってくれたのよ。


 私、その時、魔女エレクトラに何か予言をされたっけ?



 ‥‥‥‥何だったかしら? 思い出せないわ。





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