ワインとピアス
「事件で検索すると、この画像が出てきたのね。
撮影場所は動物霊園事務所に間違いないのね?」
夜になり、出現したマユに被害者と悠斗の画像を見せた。
「そうだよ」
「セイ、女の人に見覚えは?」
「……無い、と思う」
「桜木さんの知り合いで、尋ねてきたのかしら?」
「ホスト時代の客の可能性はあるかも。
何が何だかわからないんだよ。
あっちの状況が読めないだろ。軽はずみにラインもできない」
「シロは帰ってないわよね」
「……そうなんだ」
「カオルさんからも、連絡は無いのね」
「うん。桜木さんの画像を見たとラインした。既読なんだけどね。何も返してこないよ」
「セイ、今からでも(霊園事務所に)行ってみれば?……シロが帰って来ないのも変でしょ」
マユに促され
聖は山田動物庭園に向かった。
懐中電灯片手に、(シロがいない)1人の山道は遠く感じた。
行っても事務所は真っ暗で誰も居ないかも知れない。
だけどもシロとアリスは、そこいらに居るはず。
悠斗が警察に連れ去られたので、
2匹で番をしているのでは?
聖の予想は外れた。
事務所には明かりが付き、
ガハハ、と笑う結月薫の声が、外まで聞こえていた。
なんと、悠斗と薫は、串カツを肴に酒盛りをしていた。
そして犬2匹も、同じ物を咥えている。
「セイ、来たか。俺のテレパシーが届いた?
ラインせんでも心で呼べばやってくるンちゃうかと、念を送ってたんやで」
「何、言ってるの?……酔っ払ってる?……桜木さん、良かった。ネットで被害者と一緒に、」
心配していたと、悠斗に告げる。
「ええ、びっくりしましたよ。まさかあの人とはね。
でも大丈夫です。事情聴取は受けましたが、終わりました」
「あ、そうなんだ」
「自分はG駅まで送っていったんです。あの人を駅前で降ろしていたら、酒屋のお婆さんが、そこに」
楠酒店の老店主は、G駅よりタクシーで帰るつもりであったが
悠斗を見つけ、連れて帰って貰おうと、思った。
「送っていったんだ。酒屋は通り道だしね」
「はい。車に乗せました。そうしたらですね、どうしてもピザが食べたくなった。奢るから一緒に、と言われて」
「行ったんだ。駅前のイタリアンに」
「はい。自分も夕食前でしたしね。……そこからが長かったんです。ゆっくり色々注文して、ワインも飲んで……結局2時間くらい居ましたね」
「あ、そうか。酒屋の婆さんが桜木さんのアリバイの証人になったって訳か」
被害者が最後に送った写真に一緒に映っている。
直後の行動を追求されない筈はない。
「例の写真、撮影時刻は2月14日17時30分や。
被害者がSNSに投稿したのが、同日19時。
携帯電話からの最後の発信や。
届いたラインの既読も、この先は無い。
18時30分頃、駅で被害者の姿を酒屋の婆さんも見た。
そして楠本酒店前で婆さんを降ろしたのが22時15分。
つまり何らかの事情で被害者が携帯を操作できなくかった時刻、
ユウトは婆さんと一緒やった」
動物霊園の客とスタッフ以上の接点も接触も無い。
それでも突発的な犯行は疑われる。
生前最後に一緒に居たとしたら、疑われる。
「婆さんのおかげで、聴取はあっさり済んだ、いうコトやで」
「桜木さんが、またややこしい事件に巻き込まれるんじゃ無いかと、ぞっとしてた。
終わったのなら良かった。……あの人、霊園の、お客さんだったんだ」
画像ではプライベートな関係にも見える。
「そうですよ。1月30日にトイプードールを埋葬に来られた。
ご主人と息子さんと3人で」
「……それが、なんで2月14日に?」
1人で来て、
ワイン、飲んでたの?
どうして?
「昼に電話があったんです。ピアスを落としたかも知れない、と」
被害者(苅田知子)は2月14日13時頃、山田霊園事務所に電話を架けてきた。
悠斗は、その時点でピアスは見ていない。が、事務所内と墓地を探してみると答えた。
「自分で行って探すと。それで来たんです。夕方1人で」
「そっからが、少々妙や、ねんで」
薫が(既に聞いている)続きを話し出す。
「被害者は、『自分の勘違いでピアスは車に落としていた。申し訳ないことをした。お詫びに、チョコレートとワインを持って来た』とな」
「お詫びに、わざわざ来たの?……電話一本で済む用件だよね」
「しやろ(そうだろう)。俺が勘ぐるにピアス落としたは、嘘ちゃうか?」
「なんで、そんな嘘つくの?」
「此処(霊園事務所)に来る口実や。被害者は嘘ついてでも此処に来たかったんちゃうか」
「なんで?……あ、桜木さんに会いたかったとか」
「俺も、そう思たんや。こんだけのイケメン、そうおらんからな」
「それは違いますよ、全然、そんな雰囲気ではなかったです。ただ写真撮りに来たみたいな感じでしたよ」
悠斗がやんわりと否定。
被害者は持参したワインを開け、一緒に飲もうと言い出す
悠斗は勤務時間中だと断り、客のグラスだけを用意した。
「しやからな、目的は写真や。イケメンとのツーショットやんか。ほれ、この画像」
薫は携帯に取り込んだ例の画像を出す。
「本革張りの高級ソファにチタンのテーブル。クリスタルのワイングラス。
背後の窓に森。壁にフクロウの剥製や。
此処を知らん人が見たら、どっかの金持ちの別荘やと思うで」
「そうかも……じゃあ、見栄えの良い画像をSNSに投稿したかった、それだけの為に嘘ついて来たと?」
「今時の奥様にとっては、SNSは最重要案件やん」
「ちょっと、理解出来ないけど」
「とにかく、この画像の存在で犯人の範囲が拡大された」
「犯人は被害者の近辺に居るって、カオルは言ってたよね」
「初めの見立てはそうや。頭部の始末に困り、人里離れた山に捨てたと。
しかし犯人が画像を見たならば、犯行場所偽装や。
最後に訪れたこの山で殺された風に偽装工作や。
早々に発見されるようにアルミホイルで包んだんかもな」
「旦那は怪しくないの? 身元判明もいやに早かったじゃない」
「それはな、ピアスですぐに分かった。ブタの顔をかたどった銀のピアスや」
被害者が作った一点物で変わったデザイン。
捜索願写真でも装着している。
「生首の煮物にも、耳に付いてたらしいで。グロいから耳まで見んかったな。
この写真も拡大したらブタの顔が拝めるねんで」
最後の画像でも、耳にブタが光っていた。
「歯形照合他で本人と確定している」
「犯人と遭遇したのは桜木さんと別れた後、数時間以内?」
「そうなる。ユウトの話では被害者は真っ直ぐ家に帰るといっていたらしい」
「そうなの?」
「あ、はい。最初に……来られたときに、まず、ですね」
悠斗は正確に話そうと言葉を選ぶ。
(今日は車が無いから電車で来たんですよ。バス本数少ないですね。2時間かかりました。帰りもそれくらいですよね。9時過ぎに息子が塾から帰ってくるから、ソレまでに)
と、独り言のように言っていた。
帰りも、ネットで電車時間を調べ困った顔をしていたので
駅まで車で送ると申し出た。
「駅に着いたとき、こう、言ってました『15分前に駅に着く、良かった』って」
「セイ、どう思う? 被害者は真っ直ぐ家に帰ろうとしていたんやで。一体どこで犯人に連れ去られた?」
「それは……到着駅から家までの間じゃ無いの?……電車の中や駅で拉致は無理でしょ」
「うん。俺もそう思う。被害者自宅から一番近いH駅近辺の防犯カメラ調べたらしい。ところがや、該当時刻に被害者の姿はないんや」
「H駅に、たどり着いて無かったの?」
「そうやで。被害者の消息はG駅からH駅まで移動中に途絶えたと、そういうコトになるやろ。不可解な事件やで」
不可解な、けったいな事件だと、繰り返し呟きながら
結月薫は上機嫌、だった。
謎解きを楽しんでる様子に見えた。