第7話 念願の、サ・ウ・ナ!
最悪な目覚めになった理由は、シラチャだ!
「おトイレー、おトイレいきたいー!」
部屋の時計を見ると、まだ4時だ。
朝食は8時。朝風呂、いや、朝サウナは6時からになるので、まだ早い。全然寝れる。
「ひとりでいってよぉ」
「ドア、あかないー! うんちー!」
「はいはい……」
玄関ドアのとなりがトイレのため、ぷーーーーんとうるさいシラチャに追い立てられながら、ドアを開けると、シラチャが飛び込んでいく。
また開けてと言われたら大変なので、リビングのソファで横になっていると、やっぱり声がする。
「サエー、おしりふいてー」
「はぁ?」
「うんち、しっぽについちゃうー」
「つーかーなーいー」
「うんちー!」
「あーもーっ!」
トイレのドアを開けると、しっぽを手でつかみ、うんちがつかないように浮いているシラチャのお尻が、あたしの顔めがけて飛んできた。
「サエー、ふいてー」
「ちょ! ばか!!」
……そんなわけで、開店同時に朝風呂ですよ。
特に汚れていたお尻ではありませんでしたし、顔にうんちがついたわけじゃないんですけど、気分的に入りたいですよね。
シラチャのおしりを念入りに洗い、あたしの顔も入念に洗ってから、大浴場にある壁掛け時計をびっと指さした。
「シラチャ、時計、わかる?」
「わかる! あの、すうじかいてあるの」
「アタリ! じゃあ、あの長い針は、今、どの数字のところにある?」
「3!」
「オケ。そしたら、3にある針が、数字の9までの間、あたし、サウナに入ってくる。それまでお互い、自由行動っ」
「わかった!」
「もち、いっしょにサウナに入ってもいいし」
「じゃあ、6のとこになったら、サウナのところにいく」
「オッケー」
シラチャは大浴場に飛び込むと、颯爽と泳ぎ始めた。まぁ、犬かきだけど。
あたしは、ウッキウキで念願のサウナへと向かうことにした。
大浴場の横に流れる石畳を歩いていくのだが、まるで草原の中を歩いていく感覚。
裸足で歩くのに苦はないが、色んな意味で爽快すぎる!
ちょっと、いい気分……!
小川が流れ、背丈がさまざまな色とりどりの花が散りばめられた場所に、サウナ小屋があった。
「ちょー本格的じゃん!」
だらりと寝そべられる椅子が並び、水風呂もちゃんと完備されている。温度は低めの15℃くらい。手を浸ければ、わかる。
嘘です。水温計が15をさしてる。
備品に、サウナマットもある!
「よし! 行きますかっ!」
あたしはマットを手に、サウナの中へ。
むわりとした蒸気が肌に吸い付いてくる。
間違いない。
「……ウェットサウナだ!」
ウェットサウナは、熱した石に水をかけて、ジュワーっと蒸気が上がるタイプ。ちなみに、そんなウェットサウナ室でタオルをバンバン扇ぐ人を熱波師と呼びます。
そんなあたしは、ウェットサウナ大好き。
特にセルフロウリュウが好き!
アロマ水を自分のタイミングで注げるっていう、なんか、こう、特別感ない!?
ここは間違いなく、セルフロウリュウ。柄杓と水が置いてある。
これは、あたし好みのいいタイミングで、蒸気モワモワにできる!!
「マジ、アガるわぁ〜」
いつもは上段だが、初めてのサウナなので、下段に体を置く。
誰もいないので、三角触りで体を慣らしていく。
入り口近くの棚に、6と書かれた砂時計を見つけた。
6分時計と見込んで、自分のとなりでひっくり返しておく。
ちょっと日本とルールが似ている気がする。とても、入りやすい!
大浴場から素っ裸で歩いてきたせいか、冷えていたようだ。
肌から、じんわりと熱が染み込んでいく。
熱が入ったことで、汗がじわじわと押し出されてくる。
全身が、ゆっくりと熱の空気に包まれていくこの感覚、たまんない!
でも、もう少し、熱が欲しい。
柄杓で石に水をかけると、爽やかな香りと共に、むわりと蒸気で部屋が満ちた。
ミントとレモンが混ざった香りとでもいおうか。
表現し難いが、めちゃくっちゃ好きな香り!
「……うわぁ……癒されるぅ……」
じわじわと汗腺が開き、吹き出してくる。
いつもより汗のかき方が早い気がする。
6分落ち切る前に、出ることにした。
素早く外に出て、水風呂へ。
足にかけて、肩や背中、全身を流してから、あたしはじゃばんと飛び込んだ。
「……はぁ〜……」
水風呂が深い。
あたしの身長で肩が出るくらいだ。なんだこれ。
でも、ぷかぷかしながら、ゆるやかに冷やされていくのがわかる。
小さなハシゴで水風呂から上がると、外の椅子に腰をかけた。
じんわりと体が熱っているのがわかる。熱が巡ってる。
汗が滲みながらも、血流の動きを感じる。
呼吸をするたびに脈が聞こえ、体の毛穴から、汗と一緒に悪いものが出ていくイメージ……!
「あ〜……芯まで熱入ってる〜……マジととのうわぁ〜……」
数分目をつむってから、改めてぼーーーと空を眺めてみる。
同じ青い空だけど、雲の形や空の色の濃さがなんとなく違う気がする。
「ほんとに異世界なんだなぁ……」
落ち着いたのを機に、もう1回入ろうと、ドアノブに手をかけたとき、ぷーーーんという音が。
シラチャだ。
「サエー、ぼくもはいってみるー」
「いいよー。つか、シラチャ、びちゃびちゃでも飛べるんだね」
「ぼく、まりょくあるもん! とべるよ!」
じゃあ、その小さな羽はなんなんだ?
という疑問は今は無視しておこう。
「……えっと、シラチャ、サウナは初めてだもんね? このなか、めっちゃ熱いから、長くはいないようにしようね」
シラチャは素直にこくりと頷いた。
だが、これはあたし宛の言葉でもある。
気持ちいいわ〜なんて入ってたら、ここのサウナ、簡単にサウナゾンビになる。笑えない。
ささっとドアをくぐると、熱気にシラチャが煽られたらしく、あたしの胸に飛び込んできた。
「あっつーい」
めっちゃ顔をしわくちゃにしている。かわいい。
思えば、猫って、肉球からしか汗でないんじゃない……?
記憶のとおり、シラチャの両手、両足の肉球がすぐびちゃびちゃしだした。すぐに口呼吸がはじまる。
「……あづい」
「おー、出よう出ようっ」
中にいたのは1分も経っていないと思う。
水風呂でシラチャの手足を流したあと、体に水をゆっくりかけてやる。
そのままちゃぽんと水風呂に入れると、全身がぶるるるるると震える。
大丈夫か!? と見ていると……
「つめたーい! ……きもちいいいいいいい」
とはいえ、入りすぎはいけないので、すぐ引き上げて人間用の椅子に座らせた。
シラチャはすぐにぽわ〜とした顔をしだす。
「……なんかー……ほかほかするー」
「それ、整ってるんだよ」
「ととのってる! ふぁ〜……きもちいー」
「シラチャ、そこにいてね。あたし、もう1回だけ入ってくるから」
頷いたのを見て、あたしはもう一度チャレンジ。
すぐに砂時計を返し、すこーしだけ、アロマ水をかけた。
一気に室内の温度が上昇。いい香りが肌に染み込んでか気がする。
だけど、さっきよりも勢いよく汗が吹きでてくる。
あーーー! この瞬間が堪らなく好き!
鼻や顎からぽたっと落ちる汗、首元から胸元にかけて流れる汗、背中を伝って落ちる汗……
これらすべてが体の排泄物だと思うと、体の中がキレイなものしか残っていない気になり、気分がアガる!
だが、やっぱり6分は無理だった。
残り1分ほど砂がある。
この火照りは、アロマ水にも秘密がありそう。
正規の手順をふみながら水風呂に浸かっていると、シラチャが再び水風呂に飛び込んできた。
「きもちいいー。なんかまだアチアチするー」
「あたしも。でも、めっちゃいいね、このサウナ!」
もう一度、髪や体をささっと洗い直し、大浴場の温泉エキスを全身にまとわせてから上がると、時間はもう7時をすぎている。
朝食と共にウードさんが来る時間に迫る。
届け物の話もあるんだ。
ちょっと、胃が痛いかも。
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