第6話 リカちゃんズの話を聞くに、これ無理案件なんですけど
部屋に来てもらい、話を聞くことにしたのだが、これは女子高生がやる案件じゃ、ない!
……というのも。
『実は、人間が妖精を捕まえて観賞用に売り捌く事件があったんだ』
重すぎ。マジ、重すぎ!!!!
どうも、今回あたしが届けようとしているのは、温泉の権利に関わるものらしい。
それは人間に届ける物になるので、届けてしまうと妖精鑑賞売買に繋がってしまう、というのが、リカちゃん妖精2体の話だ。
「マジかよ」
『マジなんだよ』
あたしは息をつく。
そんな責任重大なもの、運ぶのダルいし、ヤバい。
ダイニングにあった冷蔵庫らしきものを開けてみた。
飲み物が欲しかったのだ。
上の段には氷が詰まり、下の段には飲み物がある。
「これ、アイスロックー。こおりのいしー。さわると、ゆびがくっつく!」
「オケ。触らないどく」
瓶の飲み物は、オレンジ、炭酸、水の3種類だ。
「シラチャ、のむ?」
「ぼくねー、おれんじー」
「全部飲めそう?」
「のめる!」
そう言うので、栓をはずし、シラチャに渡す。
シラチャは飛びながら瓶を抱えて飲みだした。両目が瓶に寄ってる。マヌケかわいい。
リカちゃん2人にも、妖精サイズのコップがあったので、あたしが飲みたかった炭酸を分けて注いだ。
2体も一気に飲み干していく。
ふう、と息を吐き、遠くを見る。村の方向だ。
『……確かに、長の気持ちもわかるんだ。人間が来てくれるようになれば、国交も開けるかもしれないし、ドワーフの温泉観光も復活するかもしれない』
『そしたら、村の財政も良くなるしな。温泉宿も新しくできるし……でもな……』
あたしはゲップを押さえ込み、息を吐きながら、ふと気づく。
「なんで『届け物』がここにあんの?」
『又聞きだけど、妖精鑑賞売買が発覚した時に、人間側がいきなり返してきたって話。妖精を守れないからって』
『そもそも、人間側はソレがないと、ここまで来れないんだ』
120年前まで、お互いの種族を尊重し、それぞれの平和に生活していたそうだ。
だが人間は短命。
尊重し合っていた人間は滅び、支配を求める人間が生まれ、種族の仲が決裂。
……で、それは今も続いているって話みたい。
この仲を繋ぎ止めていたのが、120年前までいた、ドラゴンと竜騎士だった、というのだが……
『長が、あんたに期待するのはわかるけど、まだあんたも若いし、竜騎士なのかも、ちょっと信じられないし』
だそうだが、言ってることが、わけわかめだ。
「つか、竜騎士ってなに? 絶対、ちがうし」
『『だよねー!』』
なぜだろう。
ちょっと悔しい気持ちになったのは。
でも、竜騎士、はない。
だって、あたしは、女子高生だし!
『だいたい、今更人間と仲良くなんてできないよな。長は仲良かったの覚えてるかもだけど』
拗ねたように横回転した妖精に、あたしは親近感を覚える。
この子たちは、若い世代、って呼ばれるグループなんだと思う。
「昔は良かった、なんて言われてもねぇ」
『そういうこと。こっちは、人間の嫌な部分しか知らないし』
『人間は、もう、ここを守ろうとも思っていないよ。むしろ利用しようとするんじゃない? だったら稼げなくても、精霊や妖精が使う温泉宿で十分だよ。宿が朽ちても温泉に入れれば問題ないし』
くるくると回って話してくれるが、目が回ってきた。
とはいえ、ここを無料で使わせてくれているのは、間違いなく届け物をするからだ。
今のあたしは無一文!
すべてスマホのカード決済で生きてきたため、地球の日本円すら持ってない!!!!
「……でも、断るのって、難しくない?」
そういうと、2人はふわりと飛び上がり、
『『それなら、どっかに捨てればいい!』』
どういうことかと聞けば、
『きっと届け先は、都にいる、宅急便魔術師』
『だから、その前に捨ててくれれば、届けられないし!』
名案とばかりに2人はハイタッチ。
あたしとしては、めっちゃヤバい案だ。
めっちゃすごいものをどっかに捨てるなんて、かなりヤバい。
黙りうつむくあたしに、2人は念押しして、断るか捨ててと言って、出ていった。
「……はぁ……なんかややこしいことになってきたな。つーか、あの2人は、男の子なの、女の子なの、なんなの?」
「あのようせいさんは、まだどっちでもないよ」
「イミフなんですけど」
「なんかね、こいをすると、おとこのこと、おんなのこに、わかれるんだって」
「なにそのファンタジー」
ほぼ乾いているシラチャを抱っこしながら、あたしはベッドに寝転がった。
天井も古びている。シミも見え、大雨が降ると雨漏りがしそうだ。
ただ蜘蛛の巣などはなく、ていねいに扱われている。
でも、人間が建てたものを直せるのは、人間ぐらいの体の種族だけだと、ふと気づく。
「……あたしはさー、シラチャともふもふできたらいいんだ。シラチャは?」
「ぼくは、サエといっしょなら、なんでもいいー」
あたしとシラチャのゴールは一緒な気がする。
土下座して、ウードさんに、できないって断るのが正しい、のかな……
でもさ、なんでウードさんはそんな危険があるのに、届けて欲しいのかな?
村のお金だけの問題、なのかな?
ウードさんが年寄りすぎて、今の人間って種族を理解していない、とかなのかな……?
半乾きの髪をわしゃわしゃして、シラチャを持ち上げた。
ふわふわの毛が、もっとふわもこになってる。
「ねー、シラチャは、これからなにする?」
「ぼくはねるー」
「じゃあ、シラチャがマジで眠くなるまで、この世界のこと教えてよ」
シラチャは小さな羽をパタパタさせながら、うーんと腕組みをする。
ぷーーーーんと飛びながら、尻尾をブンブン振りつつ、
「せつめいがむずかしいんだけどー」
「うん」
「たくさんのひとが、たくさんのばしょに、いる!」
「……うん」
「ぼくとサエは、たくさんのひとに、あいにいくの!」
「……はぁ」
こりゃ、無理だ。
シラチャじゃなく、ウードさんに聞いた方がよさそうだ。
困ったなー
つぶやこうとしたけど、瞼が重い。
ヤバい。寝そう。
意外と疲れてたんだ、あたし。
人間と妖精、仲良くなったらいいなぁ……
シラチャがあたしの顔の前で丸まった。
ふわふわして、めっちゃこそばゆい……!!!!
「……シラチャ、ちゃんとお布団で寝よう。ライトも消して寝よう」
寝室のスイッチを消すと、部屋は暗くはなったが、カーテンの隙間から月明かりが漏れ入ってくる。
薄く部屋が照らされ、ああここはいつもの自室じゃないんだと、ふと思い知らされる。
大浴場もお休みの時間だ。
街灯もほとんど消えて、車の走る音や、救急車のサイレンも聞こえないのが、不思議に感じる。
ただ、胸元に丸まってくれたシラチャがあったかくて、かわいくて、あたしはにやけたまま、眠りにつけた。
だが、目覚めは、最悪だった。
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