第4話 温泉宿に到着!
じっとりと染み込んだ汗で重い制服も、陸上部の脚力でなければバテていたかもしれない軽い登山も、それらをすべて吹っ飛ばすものが目の前に広がっていた。
「温泉だ……!」
丸太の壁を抜けて見えたのは、たくさんの木造の壁と、湯気!
湯気に紛れて佇んでいるのは、間違いない、宿泊施設だ。
大きな門を抜け現れた温泉宿だが、とても面白い造りになっている。
通路を隔てて、右側が温泉群、左側が宿群となっているのだ。
スコーザルバ族の村はこの温泉宿と隣接してて、温泉宿のさらに奥に、住居スペースがあるとウードさんは言う。
もっと簡易的な温泉と寝床だと思っていたので、いい意味で期待を裏切られたあたしは、かなり興奮気味。
落ち着きたくても、どのお風呂も素敵な雰囲気があり、キョロキョロと忙しなく辺りを見渡すあたしに、ウードさんは胸を張る。
『大浴場は5つあります。泉質は同じですが、薬草風呂や、湯船の形を変えておりますので、全てお楽しみいただけるかと。サウナですが、大浴場ごとに完備してます。宿泊施設は大部屋の施設が2棟、4人用の小部屋が10棟あり、70名の宿泊ができる温泉宿です。なかなかでしょう?』
だが、ウードさんはすぐに肩を落とした。
『ちょっと前までは、人間の方も来られていたのですが、今では獣人の方々や、ドワーフの方々もあまり来なくなりまして……』
「うわぁ、勿体ない。なにかあったの?」
『温泉の、権利問題です』
「めんどくさそうなんで、その話、パス」
真顔のウードさんは、あたしたちを部屋に案内してくれた。
漆喰と木造の建物だ。ドイツの建物に似た雰囲気がある。
だけど、とても年季が入っている。ところどころひび割れが見えるが、丁寧に扱われ、修繕に修繕を重ねているのがわかる。
『こちらの部屋は、ほぼ中央。どの大浴場にも行きやすいので』
玄関を入り、ウードさんがスイッチを押すと、部屋に灯りが点いた。
見ると、石が光っている。流れているのは電気、ではない気がするが、スイッチひとつで明かりが灯るのはありがたい。
土足で進んだリビングには、暖炉とソファ。さらに奥の部屋にベッドが並ぶ。
もう一つ、廊下の先に部屋があるので、それも寝室だろう。
暖炉の反対側にはミニキッチンとダイニングが。
どこも綺麗にされているが、古さが見える。
ウードさんが続ける。
『今日はゆっくりおやすみください。あ、お洋服は、そこのクローゼットに入れておけば、翌朝にはクリーニングされますので。宿泊用の寝巻きはベッドの上にありますから、お使いください。冷蔵庫には、冷えた飲み物もあります。あと、朝食は8時に運びます。そのときに、届け物のお話もさせてください』
ぺっこり頭を下げたウードさんを見送り、あたしはリビングのソファにどかっと腰を下ろした。
ドスンと揺れたせいか、シラチャがもぞりと目を覚ました。
「ふぁ〜……。ここどこー?」
「シラチャ、温泉宿だよ? 温泉、入ったことある?」
「なーい」
「じゃ、入っちゃおー!」
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