第2話 続・子猫を助けたら……
1話がかなり長かったので、分けてみました
あたしは子猫をかかげ、目線を合わせた。
「ねぇ、食べれるのと、食べれないの、匂いで区別ついたりしない? 鼻よさそうだし」
「わかんない」
「してみて! あたし、火、つけとくから」
近くのキノコ、木の実、葉っぱなどなど嗅がせること、数分──
「これ、たべれる! ……これ、きらい。これ、まずい。……これ、たべれるっ」
ほぼ噛んで判断してるけど、大丈夫だろうか。
ただ食べ物はリカちゃんたちが運んでくれている。
口が悪い割には、人が食べているものを基準にしてるみたい。
だからか、毒はないものを選んでくれていると思う。ちょっと安心。
『あいつら、こればっか採るよな』
『そうそう! びちゃびちゃのキノコなのにな』
選んでくれている間に、あたしは焚き火の準備。
まさかここでお守りのファイヤースターターが役に立つとは思わなかった。
枯れた木を組み、中に枯れ葉と木の皮を詰め、10数回火花を散らすと、炎が上がる。
「おー……腕、落ちてるわ」
子どもの頃なら、2回でつけれた記憶がある。
逆に、もう10年以上、これで火をつけていなかったのか……
ぷーーーーんと、虫が寄ってきた。
見ずに手で払うと、感触が異様にふわふわしていて、巨大な蛾でも振り払ったのかと、のけぞりながら地面を見れば、落ちていたのは、あの子猫だ。
「いー! たー! いー!」
「ごめんって。虫かと思ったんだよ」
「いだいーっ!」
「ごめんごめん」
わんわん泣き出したので抱き上げたが、脇腹のあたりに小さなふわふわの羽がある。
これで飛んでたの?
体との比率、おかしくね?
え? これがドラゴン要素ってこと??
わしゃわしゃしてみたが、なかなか泣き止まないので、頭を撫でて、抱っこして、高い高いをしつつ、拾ってきた木をくべ、丸太に腰を下ろす。
陽が完全に落ちたせいで、蒸し暑かったのに、少し肌寒くなってきた。
あたしは子猫をあやしながら、キノコを手に取り、
「これ、焼いてみよ。ね?」
こくりと頷いたのを見て、あたしは枝にキノコを刺して焼いてみる。
エリンギに似ているが、色は焦げ茶。焼くと余計に香ばしい色に変化しているが、どうだろう。
「焼けたかなー……?」
ひと口頬張ると、椎茸に似た旨味が広がった。
ジューシーなキノコのスープが口いっぱいに流れ出てくる!
びちゃびちゃなキノコ、その通りかも。
しかし、塩が、欲しい……!
あたしのお腹に背をつけて、人間の子どものように座っていた子猫は、いつの間にか泣くのをやめ、目をふわふわの手でこすりながら、焼けたキノコに向けてもう片方の手を伸ばしてくる。
「ぼくもたべるー」
「熱いから、冷ましてからだね」
ふーふーと冷まして手渡すと、両手でつかんで、ぱくりと噛みつく。
手を使って食べる猫ちゃんだ。かわいすぎるんですけど!
だが、リカちゃんズが、マジでウザい。
『そんなもの、ドラゴンに食わすなよ』
『草食じゃねーぞ、ドラゴン。肉だよ、肉』
もう無理。
そう思ったときには既に遅し。
あたしは思いっきり怒鳴りつけていた。
「じゃあ、お肉持ってきてよ! お肉!」
そう、あたしも食べたい、お肉!!
だが、言い返したことに驚いたようで、UFOじみた機敏な動きを見せる。
『え、言葉通じるの?』
『いやいや、人間が、うちらの声、聞こえるわけないだろ?』
「あんたたちの声、ずぅーと、聞こえてるってば! なんなの、さっきから!」
言い返すと、驚いた顔のままどこかへぴゅーんと飛んでいってしまった。
最初からこうしとけばよかった。ようやく静かになったー!!
「サエ、これ、おいしー!」
胸毛がびちゃびちゃになってるが、お構いなしにキノコを食べている。あたしも服が汚れることを諦め、いっしょにキノコを頬張っていく。
水分がたっぷりあり、体も芯からあったまる。さらには食物繊維、ちゃんと食べ応えもあって、いい食材だ。
残りのキノコを確認し、明日の朝用に取っておくことに決め、大きな葉っぱに包んでおいておく。
そして、包みながら、反省した。
明日でも、リカちゃんたちに会えたら、謝ろう。
リカちゃんたちのおかげでキノコ食べれてるし。けっこう、美味しいかったし。たくさん採ってくれてたし。かなり、感謝しなきゃいけない。
「サエ、あのきのみもたべよー?」
肉球がさした先には、大きな葉っぱの上に盛られた木の実がある。
見ると、ブルーベーリーに似ている。嗅ぐと、香りも甘酸っぱい。
「ようせいさんが、あつめてくれたんだよー」
子猫の言葉に胸が詰まる。
マジ感謝なんですけど、あの口悪リカちゃんズ。
子猫は器用に爪でさして、それを頬張った。だが酸っぱかったのか、目をぎゅっとつむる。皺くちゃの顔もかわいい!
「すっぱーい」
「どれどれ」
あたしも1つ頬張ってみる。
たしかに酸味が強い。梅干し大好きなあたしには楽勝だったけど、まだこの子の舌に合わないかも。
子猫は、より濃い色に染まったものを選んで、口に入れた。
大きな目がもっと大きく見開いていく。
「あまーい! このいろ、あまーい! ……はい、サエもー」
数が少ない粒を、あたしの口へとさしだしてきた。
「あたし、酸っぱいの平気だから、食べなよ」
「だめ! あまいのたべて!」
むっ! と寄ったヒゲから、興奮してるのが見てとれる。
お言葉に甘えて口を開けると、ひょいと放り込まれた。一口噛んで、あたしも目が開く。
「……めっちゃ、あま!」
「おいしーね!」
これは、ご褒美スイーツといってもいい!
ブルーベリーに蜂蜜をたっぷりかけたような、濃厚な甘味だ。これは味に癒される!
「ありがと。めっちゃおいしい!」
「おいしいの、たのしいねー!」
ふたりでおいしいね、すっぱいね、あまーい、すっぱーい! と言っているうちに、これも瞬く間に完食してしまった。
あたしはふくれたお腹をさすりながら、ようやく頭が回り出したことを実感する。
お陰で、より冷静に景色が見えてくる。
焚き火の奥で揺れる花も木も、日本のとは少し違う。
ときどき飛んでくる虫は甲虫ばかりだ。色は蛍光色。オレンジ、ピンク、ブルーと、オタ芸をしているかのように、機敏な円やラインが描かれている。
「ヴァールドか……」
「うん! ぼくのせかいは、ひろくておっきー。サエも、きにいるとおもう!」
お腹に座った子猫は毛繕いをしながら、こたえてくれた。
あたしが気にいる世界か……
でも、それには、お風呂とサウナが必要なんですけどね!!!!
あたしの友だちに、『サエの趣味はなに?』って聞けば、『風呂とサウナ』って答えるくらい、あたしはお風呂とサウナが大好き!
月に二度はスーパー銭湯に通い、週に一度はサ活している。徒歩圏内にホームサウナがあるあたしは、ホントに幸せ者!
だからこそ、毎日入浴できないなら、死ぬ! って、友だちみんなに公言してたけど、さすがに死ぬことはないね。でも、ツラい。めっちゃツラい。
「サエ、どうかしたー?」
「いや、あたしも毛繕いできたらなって。そしたらお風呂入らなくてすむじゃん。……あ、ね、なんであたしの名前、知ってんの?」
「むかし、たすけてくれたでしょ? ぼくになまえもつけてくれたよ? ぼくはサエのかぞくなんだよー!」
「……? な、なんて名前だったっけ……?」
「シラチャ。えー! わすれちゃったのー? ひどいなー」
ちょうど胸毛を毛繕い中だったため、お腹があらわに。パンツを履いたみたいにクリーム色がある。きっとこれを見て、白茶って名前をつけたのかも。
昔のあたし、ネーミングセンス、なさすぎ!
だけど、今、家族って言った……? 言ってたよね??
「でも、サエといっしょならいいやー。ずっといっしょー」
毛繕いが終わったのか、太ももに何気なく乗せていた手の上に、シラチャは頭を乗せてきた。
そこでくるりと丸まり、あたしの顔を見上げてくる。だけど、その視線はさらに上だ。
つられてあたしも上を見る。
木々の隙間には、月が2つ浮き、天の川が3本も流れている。
「……シラチャ、お空、きれいだね」
「キラキラだねー!」
長い尻尾をぶんぶん振りながら、肉球を舐めているが、指をしゃぶる子どもみたい。チパチパ聞こえる。
ふと、音が止んだ。
見ると、目をつむって、頭がことんと落ちている。
あたしはブレザーの中にシラチャを包み、目をつけておいた木に登りだす。
今日は木の上で夜を過ごすことは決めてあった。
地面で寝て、サソリやムカデみたいなものに刺されるのは厄介だし、夜に徘徊する肉食の動物にも会いたくない。
「……おやすみ、シラチャ」
あたしも幹に背を預け、目を閉じた。
閉じてみたけど、顔がにやけてしかたがない。
こんなところに家族がいたなんて、こんなもふもふの子が、わたしの家族だなんて!
確かに、養ってくれている人はいたけれど、
『私たちは、あなたの親ではないから。間違えないで!』
こんな感じのこと、繰り返し言われてきたんだよね。
だから正直、家族ってわからない。
それでも、この子とは『家族』なんだ……!
嬉しくて顔がにやけてしまう!!
出会った記憶が消えてしまっているのは悲しいけれど、これから楽しい思い出作っていけば大丈夫。
精一杯この子を愛して愛して愛しまくって、仲良く過ごしていこう。……ここが、異世界でも!
お腹のなかで、すーすーと揺れる感触を確かめながら、あたしも寝ようと目をつむりなおす。
木の上で眠れるか心配だったが、意外といけそう。
でも、やっぱ、お風呂に入りたい。肌がベタベタする。意外と湿気がすごい。
さすが、森だね!!!!
あー、お布団も恋しいなぁ……
シラチャとお布団でいっしょに寝てみたかったなー……
瞼の裏で閃光が走る。
『……人間殿、声は、聞こえますでしょうか……? わたし、妖精のスコーザルバ族の長、ウードと申します。もし人間殿、わたしの声が聞こえるのならば、届けて欲しいものがございまして……』
もう、低音のイケボ!
マジで美声!!!!
わー、どんな妖精サマなの?
こんなにイケボなら、ロマンスグレーなイケおじ妖精なんじゃね……?
薄目でそっと見てみると、でっぷりお腹のおっさん版リカちゃんが、目の前で、浮いてる!
驚きで木から落ちたのは、仕方がないと思う。
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これからもっともふもふ仲良くしていきますので、お楽しみに




