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第1話 子猫を助けたら……

 9回。

 これが何の数字かわかる?


 答えは、あたしが18年目の人生のなかで、猫ちゃんを救おうとして、車にひかれかけた数字。

 今日、祝10回目の更新をするはず、だった。

 だった。

 わかる?

 『だった』の。


 ……もう、ヘッドライトが迫ってる。

 全身がライトで白く染まる。

 最後のインハイで、短距離3位をもぎ取ったあたしの足でも逃げられない。


 子猫だけでも助け出そうと、あたしは両手で道路に向かって放り投げた。


 だけど、子猫はあたしの手を離さなかった。


 しっかりと爪を立てられ、ムギュッと肉球で握られた瞬間、浮遊感と同時に空間が丸く白く、そして景色がほどけていった──




「──ねー、こんどは、ぼくがたすけてあげたんだよー? おきてよー」


 ざらざらの舌で頬を舐められている。さらに、おでこは冷たい小さいなにかで叩かれていて、どちらも地味に痛い。


「……んー……?」


 薄く目を開けてみると………

 なに、この下僕感!

 子猫が思いっきり見下してくれてるっ!!


 あまりの嬉しさに目を開きかけた瞬間、ふわふわの手が両目を唐突に塞いだ。

 なにこの肉球の暴力! かわいすぎる!!


「ねー、おきたー?」


 ……いや、見えないし。起きれないし。

 でも、この声は誰なんだろう?

 どうも子猫から聞こえた気がする。

 いや、まだ寝ぼけてる。きっと、そう。

 夢だ。夢が覚めてないんだ。猫がしゃべるわけないし。


『なー、ドラゴン、こいつ男じゃないよ。めっちゃ、弱そう』

『若いしな。ホントにこんなのと旅するのか?』

「サエじゃなきゃ、だめなの!」


 ふわふわの毛が頬に触れる。すりすりと頬に頭をこすりつけているのもわかる。冷たい鼻がときおりピトっと当たって、感激!

 つーか、猫に飼われている下僕たちは、毎日、こんな目に遭っているのか!

 うらやまけしからん!!

 頬がむふふと緩む一方で、疑問が募る。


 ホントに、誰が、誰と、しゃべってるんだ……?


 あたしは勇気を振り絞り、もう一度、目を開けてみた。

 頭上でリカちゃん人形に虫っぽい羽が生えた生物2体が浮かび、いつの間にか子猫はあたしの胸で猛抗議していたようだ。軽すぎてわからなかった。でも、毛がポヤポヤ逆だってる。かわいい。


「おきたー! サエ、おきたねー!」

『こいつ、絶対、妖精(うちら)の声、聞こえてないって』

『ドラゴン、人間は嘘つきの塊。こいつのこと、信用しちゃダメだよ』

「サエは、ぼくのかぞくだもん! だいじょうぶなの!」


 名前を呼ばれている気がするが、あたしはこの子猫を知らない。……と思う。


「サエー、どっかいたいー?」


 ぐるぐると喉を鳴らしながら、灰色の立髪を流す子猫は、手のひらより大きいくらい。ノルウェージャンフォレストキャット風だ。

 顔は黒くて、眉毛に縞が見える。ダブルコートなのか、背中は黒いツヤツヤの毛、お腹まわりはふわっふわの灰色の毛が広がっている。


 そっと子猫を抱えながら、体を起こしてみたが、全く景色が違う。

 起きるために地面につけた感触は、枯れ葉が積もり、ふんわりとしていて、お陰で寝そべっていたのに背中が痛くない。

 さらに辺りは木々が囲い、どうも、森の中にいるよう。

 そして、肌寒かった10月下旬のはずなのに、蒸し暑い。


 つーか、おいおい、おおい!!

 車に吹っ飛ばされて、市内からこの森まで来た!? はぁ!?


 ショートの前髪をかきあげ、自分の体を見回してみたが、目が合った子猫はきゅるきゅるの黄金色の目を向けてくる。

 ニヤニヤしながら、子猫の体をチェック! この子に怪我はないみたい。

 自分はというと、服の汚れは最低限。体もどこも痛みも怪我もない。なんだこれ。


「ねー、サエ、いたい?」

「え、あ、う、うん? ううん、大丈夫、ありがとう」


 間違いなく、子猫がしゃべってる。しかも、会話が出来てる。寝ぼけているわけじゃない。はっきり聞こえてる。マジかよ。やっぱ、ここ天国かも!!!!


『どんくさそうな顔だなぁ』

『人間なんて、みんなどんくさそうだし』


 さらに輪をかけて、虫っぽい羽が生えたリカちゃん2体、これはなんなんだ?

 さっきから嫌味というか、悪口しか言われていないぞ?


「……あー、死後の世界ってやつだ、絶対」


 つい、声になって疑問が出てくるが、子猫は言う。


「ここは、ヴァールドってせかいだよ。えっとー、けんと、まほうのせかい、っていえばわかるっていってたけど、わかるー?」


 けんとまほう。

 剣と魔法とするならば、これでも隠の者ゆえ、サブカルチャーには精通しているでござる!

 剣と魔法、それは『ファンタジー世界、また、異世界とも呼ぶ』と、ゲームやラノベで学んでいるでござるよっ!


「いやいや……。やっぱ死にかけて、夢見てる、みたいな……」

「サエは、いきてるよ」


 子猫があたしの心臓に耳をぺったりと当てた。


「とくとく、きこえるもん」


 寄り添ってくれる子猫な頭をゆっくり撫でて、あたしは深呼吸をする。


 本当に、ここは、異世界?

 嘘でしょ? 嘘……? うそ?

 ……でも、ヴァールドって聞き覚えがある。

 ゲーム? 漫画? アニメ? 小説? ……タイトルは…………


『髪も服も変だしさー』

『絶対、無理だって、こんな女じゃ』


 あーーー!!

 さっきからうるさい。めちゃくちゃ、うるさい!

 あたしはプカプカ飛びながらクスクス笑うリカちゃん人形を睨みつけた。

 ひゅんと宙返りをして距離を取るが、あたしへの陰口は止まらない。


 確かにここが異世界ならば、異世界ならば! 女子高校生の制服は珍しいと思う。

 とはいえ、一般的な制服だ。グレーのブレザーと、紺のチェックスカート。あとは、(いにしえ)のアイテム、ルーズソックスを愛用してる。伸ばすと太ももまでくるから、寒い日、めっちゃ便利だし!


 ぐるりと服を見回したあたしに、リカちゃん人形が、2体同時に舌を見せてくる。

 ……完全に、バカに、してる!

 あー、イライラする……!!


 思えばと、ポケットから、スマホを取り出してみた。

 じゃらりと揺れるのはファイヤースターターと、太陽光充電器だ。

 気づけばすでに薄暗い。時刻は17:04と表示されてる。電波は圏外だ。

 とにかく、ここがどこであれ、人里の近くに移動するのは困難──


 「──冷静に、生き抜くことだけ、考えろ」


 不意に、キャンプに連れて行ってくれた、おじちゃんの声が浮かんできた。

 もう、顔も思い出せないくらい、古い思い出。

 ……うん。ちゃんと、冷静に、生き抜くことだけ、考えなきゃ。


「ぼくねー、おなかすいたー」


 突然の要望に、あたしは苦笑いだ。

 たしかに、あたしも、お腹が空いてる。


「……よし! 今日は、ここを、キャンプ地とするっ!」


 あたしは、強く、宣言する。

 JK、なめんな!

 こーなったら、まだわかんないけど、異世界エンジョイ勢になってやる! もふもふバディもいるし!!

読んでいただき、ありがとうございます!

ふわふわもふもふとの異世界ファンタジーです。

気に入っていただけたり、応援いただけたら、とっても嬉しいです!

イイネや★、待ってます!


※21時ごろ、更新します

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