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【第3話~第6話】

~第三話 『魔族の奴隷』~


「ここが〖ファイトリアス〗か…」

その町はたくさんの人で賑わい、祭りでもあるかのようだった。

「これだけ人がいれば誰かといるときにはぐれそうだな…」

 龍斗はため息をつくと、門の前に居た人から渡されたパンフレットを確認する。

「へぇ、ここはコロシアムが有名なのか。」

 コロシアムとは、人が戦いあうために設けた施設である。どっちが勝つか賭けをするなんてこともある。

「ここがそのコロシアムか。」

地図を頼りに向かうと、目の前にある大きな建物からたくさんの声が聞こえてくる。

「さぁやってまいりました!第六十三回目のトーナメント戦!対戦者は…」

「賑わっているな…」

「あの、見学の人ですか?」

 声が聞こえた方をむくとバニーガールの恰好をした女性がいた。

「見学なら、あそこの階段を上がるとすぐです。見るだけならただですから…」

「分かりました。ありがとうございます。」

 龍斗は礼を言うと階段を上がっていく。

「にしても、変身の解き方わかってよかったよ。竜の姿じゃ町に入れないもんね。」

町に着く前に、空を飛びながら龍斗はリンドヴルムに”人間への戻り方”を聞いていた。

「まさか解除呪文が【リコール】というありふれた名前だったとは…」

他にも、解除呪文を唱えるだけでなく、体力や魔力が尽きた場合でも強制的に竜化は解除されるのだそうだ。

 独り言をぼやきながら階段を上がりきると、目の前に大きな扉があった。

「ここか。」

 扉を開けてくぐると自分は観客席にいて、目の前では丁度試合をしていたところだった。そして…

「おらぁ!」

「うわぁ!」

マスクを被った大男の強力なアッパーが炸裂して決着がついた。

「ウィナー!勝者は、覇王デストロイヤーだぁ!」

「ありふれたネーミングセンスだな…」

「優勝賞品は金で作られた鎧だぁ!おめでとう!!」

そして大会は終わった。ここからは何の情報も得られなさそうなので立ち去ろうとしたが、この後龍斗は絶対参加しないといけなくなる。

「続いて、次回の優勝賞品は?これだぁ!」

画面に映し出されたものを見て龍斗は怒りを覚える。

「魔族の奴隷だぁ!これは大物だぁ!」

「お母さん!!」

ミレンとサレンはこの状況を塔のモニターで確認しているようで二人の声が龍斗の頭に響く。

「ちぃ、クズ過ぎるだろ!」

龍斗は舌打ちしながら受付に向かう。

「おい、俺も大会に参戦する。受け付けさせてくれ。」

受け付けのお姉さんは「了解しました。六十四回目の大会参加希望ですね?」と言い、参加用紙を差し出す。

「こちらにファイトネームを記入してください。」

「分かった…」

彼は筆を執ると”龍斗”と書き記す。

「龍斗様ですね?大会開始は来週からになります。それまで宿を提供しますのでごゆっくりしてください。」

「ああ。」

龍斗は手にした地図を見ながら宿を目指す。

「お母さん…」

ミレンとサレンは寂しそうな声を出す…

「大丈夫…絶対優勝して助け出す!」

「ありがとう…龍斗さん。」

龍斗は「うん、必ず勝つからね。」と言う。そして優勝する決意を決めているうちに宿に着く。

「大会は一週間後か…あ、そうだリンドヴルム。人間状態でも”具現化”できるの?」

「勿論可能だ。無論、竜化によるパラメータ上昇が無くなるだけではあるが…なぜそれを聞くのだ?」

「流石に竜化して人と戦うのは色々理由があって無理だし。でも具現化なら工夫すれば戦えるからね…よし!練習するか。」

こうして、一週間具現化の練習を続けて当日を迎える。

「さぁ!今回もやってまいりました!第六十四回目の殺し合い!!そして、今回の商品は前回紹介した通り…」

始めてみた時と同様に、モニターに魔族の女性が映し出される。

「絶対に勝たないと…」

「そして、対戦カードは…これだ!」

「俺の対戦相手は…ジャスティス…」

 龍斗は「ありふれてるなぁ。」と感想をもらす。そして一回戦最初の試合が始まる。

「さぁ、今大会最初のバトルはこちら!龍斗選手VSジャスティス選手!!」

「ふう、緊張するな…」

「ふ、貴様が龍…なんとかだな!」

「いや、普通そこまでいったら間違えないだろ。」

「俺の対戦相手とは、ついてないねぇ…。なぜなら、俺が貴様を十秒で倒すからだ!」

(こういうやつって案外弱いモブだったりするよな…)

龍斗はそう思いながらも、具現化させた剣を抜き放って構える。

「よーい…はじめ!」

「くらえ!先手必勝…電光石火!!」

ジャスティスが技を放つが、その技はリンドヴルムの攻撃よりも遅く、電光石火とは程遠い技だった。

「全然電光石火じゃないな…」

龍斗は簡単に攻撃を躱して…

「せい。」

みねうちを決めると相手は気絶して倒れた。

「ウィナー!勝者は初参加、龍斗選手!!」

「今回は楽勝だったな。でも、竜化しなくてもいい戦いをしないと……」

一回戦はこれにて終わり、二日後に二回戦が始まるのであった。そして二日間具現化の練習を続け…

「二回戦…はじめ!」

「せい。」

なんとかみねうちで準決勝まで勝ち続けた龍斗。そして宿では、リンドヴルムが具現化したモニターを通して三人と一体は話す。

「はぁ、なんか楽勝だな……」

「すごいです!龍斗さん。」

「この調子で頑張ってください!」

ミレンとサレンは楽しそうに話すが、それと同時に部屋の外も騒がしかった。

「後、部屋の外が騒がしいんだけど……」

部屋の外ではマスコミが押し寄せていたのだった。

「龍斗さん、あっという間に人気者ですね。」

「初挑戦で準決勝まで迎えたわけだからな……珍しいんだろうね。でも、うるさくてゆっくりできないな……申し訳ないけども、帰ってもらうか。」

龍斗はマスコミを追い返す。その後、三人はしばらくの間、楽しく雑談していた。

「そしたら、お父さんのギャグが空回りしたの。その後お母さんがフォローしたんだけど、『全然フォローになってなーい!』てお父さんが突っ込んだんだ。それがおもしろくて……」

サレンが家族内の出来事を楽しそうに話す。ミレンも笑顔で頷いていた。

「家族…か。俺には、そんな思い出は無かったな。」

「龍斗さんは、なんか家族との思い出は無いの?」

ミレンの言葉に、龍斗は二人に「気を使わせるかもしれないけど、聞きたい?」と聞く。

「はい。龍斗さんがどんな家族に囲まれて生活していたか教えてください。」

龍斗は先に「ごめん。」と謝ったうえで、口を開く。

「俺の家では、親父がひどい奴だったんだ。母さんはしっかり家事をしてくれているのに、見てもいないのに『掃除しねぇし、何もしねぇし。』とか文句ばっかり言う奴だったんだ。勿論、本人の目の前で。」

龍斗は二人の顔を見ると、暗くなってしまっていた。

「ふむ、龍斗はそんな親の元で生まれたのだな。」

リンドヴルムも同情するような声をする。

「よし、やっぱりやめようか。こんな話をするなんて、柄じゃなかった。ごめん。」

龍斗は話を切ろうとするが……

「い、いえ…続けてください。」

「大丈夫…最後まで聞くよ?」

二人は身の上話を最後まで聞こうとする。

「分かった。こんどこそ、最後まで話すよ。」

龍斗は再び、重い話を始める。

「母さんは『そういう性格だから仕方ないよ。』って諦めてしまった。弟も、妹もどうすればいいのかわからなくなって……ほんとに、このままでいいのかなって。」

母の事、兄弟の事も含めて、家事情を語っていく。

「俺だって、このままは嫌だったさ。だから、親父に『そういうことはやめろ』って言いに行ったんだ。けど、『うるせぇ!』って怒鳴られて、しばらく殴られた。普段からゲームしかしてなかった俺には、抵抗する体力も無かったから、クソ親父の気が済むまで殴られ続けた。」

父の虐待に耐えた後、龍斗は何回も「家出したい」と言う。その日からはずっと、その言葉が独り言でもあり、口癖にもなった。

「でも、俺がここに来るまで耐えることができたのは、兄妹がいてくれたからだった。妹も、弟も、こんな不甲斐ない兄ちゃんに『大丈夫。』って言ってくれた。『兄ちゃんは悪くない』って励ましてくれた。そんな言葉が凄くうれしくって、挫けないようにしなきゃって、頑張らないといけないなって、思うようになったんだ。だって、お兄ちゃんがしっかりしないと、また心配させちゃうから。」

つまり、家族関係については、父親が最低なクズ野郎だったが、それをみんなで補っていく。そんな家庭で龍斗は育ったのだった。

「離婚も考えてもらったけど、そしたら母さんが働かないといけなくなる。俺もこれまでゲームしていた分、バイトする体力も、雇って貰えるほどの知識も無かったから、しばらくはクソ親父のご機嫌伺いしながら暮らしていたんだ。以上で、俺の家族についての話は終わりだ。最後まで聞いてくれてありがとう。」

龍斗が話を切り、頭を上げるとみんな涙を流していた。

「龍斗は…そんな家で育ったのですね…なんだか悲しいです。」

ミレンとサレンは涙を流しながらも最後まで聞いてくれた。だが、二人だけで無くリンドヴルムも、いつから聞いていたかわからないがウルルミスも涙を流していた。

「ほんとに暗い話してごめんね。でも…誰かに同情してもらえるのって、こんなに嬉しいことだったんだ。みんな、本当に聞いてくれてありがとう。」

龍斗はみんなにお礼を言う。

「いえ…そんなことはありません。話してくれてありがとう。龍斗。」

ミレンは涙を拭うと笑顔を見せる。サレン達も涙を拭って、ミレンの言葉に頷く。

「やっぱり、お母さんと兄弟には会いたいの?」

サレンは涙を拭いながら龍斗に質問する。

「うん、やっぱり会いたいかな。でもね、寂しいとは思ってないんだ。」

「それはどうしてなのだ?」

リンドヴルムの言葉に龍斗はこう答える。

「今はみんなと一緒にいるから。こうして話ができて、笑いあえて楽しいから。」

「龍斗様は、私やみんなと話していて楽しいですか?」

龍斗はウルルミスの言葉に「勿論。」と答え、笑顔を見せる。

「こんな時間を『人と魔族のみんなで一緒に共有できる』世界にしたいね。」

龍斗の言葉に、全員が賛同するのであった。今日はその賛同を最後にしてみんなが寝付く。その後、龍斗はこぶしを握り締め、翌日の準決勝に勝つと決意を抱いて寝るのだった。

そして翌日、準決勝を迎えた当日。初戦からずっとではあるが、周りには大勢の人が応援に来てくれていた……。

「さぁ、やってきました準決勝!右は期待の新人!龍斗選手!!」

観客席みんなに軽く手をふりながら龍斗は入場する。

「そして、左は前回の優勝者!覇王デストロイヤー!!」

「あれが、あのときの…」

「さあ、今回のメインイベント…レディ…GO!!!」

ゴングが準決勝の始まりの鐘を鳴らすと同時にデストロイヤーが速攻を仕掛ける。デストロイヤーは一回戦のジャスティスと比べるとかなり速い速度で攻めてきた。

「早いな!でも、手加減のリンドヴルムの攻撃よりは…」

龍斗はデストロイヤーの攻撃をひらりとかわすと同時に…

「遅い!!」

具現化させた剣で切りつけるが、強靭な腕にガードされる。

「なかなかやるではないか…」

「あんたも、やるね…」

そういうとお互いに距離を取る。

「流石は前大会の優勝者だ…一回戦目の厨二病とは違うな。でも、具現化はまだ剣モードで大丈夫か…」

「何をぶつぶつ言っているのか分からんが、余裕を持っていられるのも今のうちだ。」

デストロイヤーは再び攻撃を仕掛けてくる。

「こんなもの!」

力任せの攻撃を、龍斗は難なくかわすが、

「おぉぉぉ!」

大ぶりの攻撃をフェイントにして再び攻撃が来る。

「ぐっ!」

龍斗は攻撃を受け止めるが、反動で後ずさりしてしまう。

「おあぁぁ!」

デストロイヤーの猛攻に龍斗は防戦一方になる。

「スピードはそこそこだが…パワーが圧倒的に高い!攻撃を腕で受け止める度に痺れる。剣以外のモードではまだ使いたくないんだけどな、ちょっと本気出すか。」

龍斗は静かに「【神速…】」とつぶやくと、デストロイヤーよりも早いスピードを限界まで駆使して戦う。

「こいつ、先ほどよりも早い!」

目で追うより速く動き、デストロイヤーにダメージを与える。

「何とか防げるが…攻撃がさっきまでよりも速くて強い!」

「はあぁぁぁ!」

防戦にまわったデストロイヤーに、龍斗は渾身の一撃で吹っ飛ばす。その一撃を耐えきった後、デストロイヤーが宣言する。

「中々やるではないか!ならば、我の本気の一撃で、貴様を葬り去ってやる!」

「なら俺も一撃で決めさせてもらう!」

「おぉっとー!二人から同時に『K.O宣言』だぁ!これはいったい、どうなってしまうのかぁ!」

コロシアムのフィールドにいる両者から、闘気が噴き出す。

「【デストロイ…」

「【神速…」

そして、お互いの力が限界に溜まった瞬間…

「スマッッッシュ】!!!」

「スラッシュ】!!」

二人の攻撃が同時に決まる。そして、リングに立っていたのは…

「俺の勝ちだ…」

勝ったのは、龍斗だった。

「ウィナー!勝者は龍斗選手だぁ!!」

龍斗の勝利に、観客からとリンドヴルムのモニターから賞賛の声が上がる。その賞賛の声を浴びながら、龍斗は闘技場を後にする。

宿に着いた頃、辺りは日が落ちて暗くなっていた。龍斗は宿の部屋に戻ってくると、準決勝の疲労によりベッドに吸い込まれるように飛び込んで眠るのだった。

「流石に今回の相手は手強かったようだな…」

そんな龍斗の寝顔をリンドヴルム達は眺めている。

「…あんな話されたら、ほっておけませんよ…。」

「もし、お母さんを助けてもらったら、その後はどうする?」とサレンが聞くとミレンは「勿論!やりたいことは決まったよ!」と顔を輝かせて今後の事をみんなに話していく…。

そんなことにも気づかず一人、決勝戦に緊張しながら目を覚ます男(龍斗)が居た。

「よし、緊張するけど決勝戦…いくか!」

宿で身支度を整え、龍斗は闘技場へ足を運ぶ。闘技場に着いた頃にはいつも以上に人通りが激しかったのであった。そんな人だかりをかいくぐる様に龍斗は待機室に向かう。そして、いよいよ決勝戦のファンファーレが鳴り終わる頃…

「何とか決勝まで上がれた…でも、ここまで来たら………」

龍斗は拳を握り締める。

「約束したんだ…絶対に彼女たちのお母さんを助けて連れて帰るって。俺は…約束を守りたい…あの姉妹のためにも。」

決意を固めて、入場口へ向かう。

「さぁ、やってきました!ファイナルバトル!まず入場してきたのはー?大会初挑戦!しかし、覇王デストロイヤーを倒した彼を誰が止められるー?右から、龍斗選手ー!!」

「がんばれー若いのー。」

「ここまで来て生ぬるい戦いするんじゃねーぞ!」

「お前にかけてるんだから、負けたら承知しねーぞ!」

周りから色んな声援(じゃないのも紛れているが…)が彼の耳に入る。

「プレッシャーかけてくるなよな…。」

「そして、こちらも大会初挑戦。しかし、圧倒的な強さの前では誰であろうとひれ伏すしかない!!左から、ヴァイセン選手だー!」

「…。」

ヴァイセンという男?は黒いコートのフードを被りながら入場してくる。

「怪しさ全開だなおい…。」

「…。」

ヴァイセンは何もしゃべることなく武器を構える。それに倣うように龍斗も剣を構える。

「両者はやる気の様だー!それでは、始めて行きましょう。レディ…」

闘技場内に緊張が走る…。

「FIGHT!」

「!」

先に動いたのはヴァイセンだった。龍斗が動くより早く、一瞬にして懐に潜り込まれる。

「あぶねえ!」

すかさず剣で受け止め、龍斗は距離を取る。

「あのデストロイヤーってやつもなかなか早い攻撃をしてきたけど…比にならねぇな。」

ヴァイセンの攻撃をなんとか躱しながら隙を伺うが、ヴァイセンも休み暇も与えられないまま龍斗に襲い掛かる。

「かなり早い!【神速】を使ってもついてくるなんて……」

やはり、レベリングの必要性と圧倒的にステータスが足りない事を龍斗は実感する。

「ここからは具現化を使い分けないとダメかもな…まずは、小手調べに……。」

龍斗の手にあった剣が形を変え…

「具現化!【サンダーバレット】!」

銃器に変化する。そして、距離をとりつつ攻撃を仕掛ける。

「……フン!」

しかし、ヴァイセンも黙ってみているわけではなかった。自分の得物で光の銃弾を切り捨てる。

「あいつの武器が変化した!?【イリュージョン】のような変化スキルか!?」

「しかしヴァイセンの動きも化け物過ぎる!さすがは決勝戦だな!」

観客席から興奮と熱気があふれ出てくる。そんなことも気にしないぐらい、二人の集中力はすさまじく、戦闘はどんどんエスカレートしていく。

「地上だと圧倒的にスピード不足過ぎる!ならば!」

再び、龍斗の武器が姿を変える。

「具現化…【セイント・トール・スプレッシャー】!」

そして、それは神々しい大きなハンマーのような形状に変化した…

「おおっとー!龍斗選手の手には大きなハンマーのようなものが出現したー!」

「私のスピードにハンマーか…なめているのか、よっぽどの自信家か…」

「やっと喋った。第一声がそれかとちょっと突っ込みたいのだが…すぐに終わらせてやる!」

龍斗はハンマーを地面に向けて振り下ろす。

「せぇりゃぁ!!」

その勢いで二人の体は空に投げ出される。

「空中なら地面にいるときの速さは出せないだろ!」

「フン!」

ヴァイセンが動く。動きはやはり早いが…

「ここ!」

その動きに龍斗は対応する。しかし、ヴァイセンは攻撃を躱すと…

「甘い!」

ヴァイセンは攻撃を繰り出してくるが…

「遅い!【イージス】!!」

龍斗は光の盾を具現化し、攻撃を無効化する。空中にとどまっている数秒の間に激しい攻防が続く。そしてヴァイセンが地面に着くと同時に、戦いはクライマックスへ突入する。

「これで終わりだ!【ライトニングスクラッパー】!!」

龍斗のハンマーに激しい雷と光が収束する。

「おもしろい…闇よ、わが魂の混沌より吹き荒れ、今、その力を知らしめよ!!【デッドリー・ヴォーカー】!!」

二人の技がぶつかり合う。その衝撃で地震が起こり、天候も荒れて雷が辺りに鳴り響く。

「でぇあぁぁ!!!」

「おぉぉぉ!!!」

技の衝撃であたりに閃光が迸り、場内は煙幕でなにも見えなくなっていた。

「は、果たして…どちらがこの舞台に残っているのでしょうかーー!」

煙幕が収まるとそこには片方の影が浮かび上がる。

「ヴァイセン選手、戦闘不能…し、勝者…龍斗選手だー!!!」

「おおおおお!」とあたり一面に歓声が広がる。そんな中、龍斗は喜ぶ元気もなく、手を挙げて歓声に応えるのだった。勿論、その光景を〖白の塔 最上階〗で二人の少女は見ていた。

「ありがとうございます…龍斗さん。」

ミレンはうれし涙を流す。一方、サレンは辺りが湖になるほど大号泣していた。

「これ以上はあふれるのだが…」

最上階の上でリンドヴルムはサレンの涙の洪水を受け止めていた。

「にしても、よく成し遂げたな…龍斗。」

涙の洪水を受け止めながら、龍斗にボソッと賞賛の言葉を送った。

「おめでとうございます!龍斗様。」

女神ウルルミスが龍斗の前に現れ、抱擁する。

「ちょ、大丈夫なの?」

「この騒ぎならばれませんよ。」

いつに間にか、龍斗の周りにはたくさんの人が集まっていた。しかし…

「ここからが本番だ……」

各々が龍斗に賞賛の言葉を送る中、龍斗は密かに決意を抱いていた。

「さぁ、第六十四回目の大会を優勝した龍斗選手には予告通り、魔族の奴隷が送られまーす!」

そして、龍斗の前に魔族の女性が連行されてくる。頭には角が、背中には翼は生え、そして尻尾がある。そして…

「やはり親子だ、あの二人に似ている…」

ミレンやサレンと同じ顔立ちをしていた。こんな状況なのに、やはり親子なんだなと考えてしまう龍斗だった。

「龍斗選手、おめでとうございます!!」

周りの人間たちは祝福するが…龍斗の怒りは限界にきていた。

「おかしいのは俺だけなのかよ…」

その声を魔族の女性は聞き逃さず、龍斗に問いかける。

「それって、どういうことですか?」

「こういうことさ。」

龍斗は具現化した剣を振りかぶり…

「おっと、手が滑った。」

魔族の女性に付けられていた首輪を断ち切る。

「龍斗選手…何を…」

「おかしいのは俺だけなのか!」

ここで龍斗の怒りが爆発する。

「人間がなんだ!魔族がなんだ!おまえらはこれが普通だと思っているのかよ!!魔族』ていっても人間じゃないか!感情が、心があるじゃないか!!この人は、俺の知っている姉妹にとって大切な『お母さん』なんだよ!」

「しかし、もともとは魔族が…」

「もともとなんて知ったこっちゃない。必要なのは伝統や過去でも、ずっと遠くの未来でもない!今とこれからが大切なんだよ!そうやって人間と魔族でいがみあって戦争が起きたら、お前らにとって大切な『誰か』を失うかもしれないんだぞ!それにだ、お前らは魔族の間でこんな感じに人間が奴隷にされていたらどうだ?」

「勿論、許せないに決まって…あ!」

誰かが反論し、その言葉でみんなが我に返った顔をする。

「魔族にだって心はある。人間と同じ生活を送って、おんなじ食卓を囲む家族がいて、大切な親友たちがいる。そんな幸せを俺たちが奪ってどうすんだよ!もし、俺にそんな人がいたとして、そんな幸せを奪われたらすごく悲しいし辛いし、許せない。それは俺だけでなくみんなが思ってくれると思っている。だから…」

龍斗は怒号をあげながら、その場の勢いで宣言する。

「奴隷制度の禁止!人間、魔族の売買も禁止する!そして、この街を魔族も利用できるようにすること!無茶なお願いだと思う…でも、俺は人と魔族が手を取って生きていく世界を作りたいんだ!みんな、お願い!この頼みを聞いてほしい!」

龍斗は頭を下げる…すると実況者のお兄さんがみんなに向けて口を開く。

「みんなー、彼は優勝賞品は気に入らなかったみたいだ。だから、優勝賞品の代わりにこの提案を受けようじゃないか!」

彼の言葉にみんなは…

「賛成!」

「あそこまで言われたらなぁ。」

「魔族にも大切な家族が…俺たちはなんてひどいことをしてきたんだ。」

と賛成の声や、反省の声が周囲から聞こえてくる。

「いいのか?」

「今日からこの町は人間・魔族共用の町、〖タッグ・ファイトリアス〗に命名する!これで文句ないだろ?チャンピオン。」

「あ、ありがとう…」

龍斗は深々と頭を下げる。

後で気づいたんだが、この実況者のお兄さんはファイトリアスの町長だったみたいで、彼が町の名前とルールを変更することに反対する人はいなかった。

「良かったですね、ミレン達のお母さん。」

「なんで娘たちの名前を!?」

「俺がいた塔のふもとまで逃げて来たんです。安心してください。二人とも無事です。」

「あの、ありがとうございます!なんとお詫びすれば…」

彼女は頭を下げようとするのを龍斗は止める。

「よしてください。それに、俺の目的はあなたを無事に彼女たちに会わせることです。お礼を言うにはまだ早すぎます。」

「そうだったのですか。では…」

そういうと彼女は龍斗の腕に抱きつく。

「護衛…お願いしますね?」

「もちろん、まかせてください。」

そして、町の入り口から人の気配が無くなったのを見計らい…

「変身!竜化【リンドヴルム】!」

龍斗は竜の姿に変化した。

「では、しっかりつかまっててください。」

「分かりました。」

こうして、〖白の塔 最上階〗にてミレン達とその母親は無事に再開できたのであった…




~第4話 『旅立ちと再開』~




「何から何まで、ほんとにお世話になりました…」

「いえいえ、約束を守れて良かったです。」

「お兄ちゃん、ほんとにありがと!」

彼女達の母親はお辞儀し、サレンは元気な声でお礼する。

「龍斗さん、ほんとにありがとうございました。」

ミレンは丁寧なお礼をする。

「良かったね。これからお帰りですか?」

「はい。しばらく家を留守にしていたので、主人が心配しているかもしれません。」

「そうですか、寂しくなりますね…」

 龍斗は寂びそうに言うと、ミレンとサレンに別れを告げようとしていた。

「それじゃ、俺はもう行くから家族と仲良くしてなよ?」

 格好つけようとした彼の言葉に、二人は何故か首を傾げていた。

「急にどうしたんですか?私達は龍斗さんに付いていきますけど?」

 ミレンがさらっと発した言葉に龍斗は思わず「えぇぇー!?」と驚く。

「サレンと決めました。ファイトリアスで龍斗さんが寝た後、これからどうするのか。その事には、お母さんとウルルミスさんも承諾してくれました。」

「”来るものは拒まず、去る者は追わず”ですよ。」

 ウルルミスは気軽に言うが、この旅は命が伴う以上、二人には家族と一緒に帰ってもらいたいところではあるのだが……。

「気持ちは嬉しい。でも、危険な旅になるだろうし…親父さんが心配するんじゃないか?」

「お父さんにはあったよ?四角の枠越しで。」

 四角の枠というのは、リンドヴルムが具現化した〖宙に浮くモニター〗の事である。

「リンドヴルム?」

「まぁ、ウルルミス様の言うことも一理ある。それに、彼女達が決めたことなのだから、他者である我が止める訳にもいかない。」

「私、どう言われても行きますから。」

「お姉ちゃんが行くならもちろん、あたしもついていくよ!」

「ええっと、ほんとにいいの?」

「何回も言わせないでください!」

「…。」

「どうやら、話はついたようですね。」

二人の言葉に母親も納得したようだった。

「二人とも、龍斗”お兄ちゃん”の言うことをよく聞いてね?」

「はーい。」

「はい、もちろんです。」

二人から良い返事が聞こえてしまった。

「…わかった。これからよろしく!」

「うん!」

「ええ!」

こうして、龍斗の旅にミレンとサレンが付いてくることになった。

「あ、急の出来事続きだったので、名乗り遅れました…私はスゥシィ・リリエル・レヴィアと申します。」

「ああ、はい!俺からも一応…。飛戟 龍斗です。改めて、よろしくお願いします。」

遅くなった自己紹介をして、スゥシィと龍斗は握手を交わす。

「あ、私からも助けてもらったお礼をさせてください。」

「お礼なんて別にいいですよ。俺は、人として当然の事をしただけであって…。」

龍斗が照れ隠しで言い訳をしている間に、スゥシィは彼の口にキスをする。

「ちょ、へ?」

「これがお礼です。お気に召しませんでした?」

「別に!お気に召してないわけではないけど!その…唐突すぎて。」

龍斗は顔を赤らめて反応に困っていた。そして、この展開にミレンとサレンはというと…

「お母さんずるい!あたしも”ちゅー”するー」

「わ、私だって、キス…したいです…」

サレンは龍斗にとびかかって口を近づき、ミレンは頬を染めながら願望を口にする。

「ちょ、お前ら待てってぇー!」

こうして、龍斗と小悪魔姉妹の旅が始まった……


…そして、空には雲一つない天気のなか、三人は目的の場所まで”とりあえず歩いて”向かっていた。

「ねぇ、お兄ちゃん。どこ向かうの?」

「えっと、さっきの塔から北のほうにある湖の中にある〖竜宮城〗に行くと【氷竜王】会えるらしい。」

 龍斗の最終的な目標は”人間と魔族が手を取り合える世界を作ること”だが、先ほどの決勝戦で思い知らされた通り、目標達成する為には、力をつける必要がある。

ここは手順通りレベル上げをするべきなのだが、他には「我のように他の竜から能力と変身を受けつぐ手もあるぞ。」とリンドヴルムが教えてくれた。そこで龍斗は、(レベル上げしながら、竜王に会いに行けばいいか)と考えたのだった。なので、次の竜王から能力を受け継ぐために、龍斗はリンドヴルムに教えられた竜宮城へ向かう。

「見てください!大きな湖があります!」

ミレンが指を差したほうに目をやると、大きくてきれいな湖が広がっていた。

「これは絶景だな…」

「わーい、泳ぐー!!」

サレンが走り出したかと思うと、湖の前で服を脱ぎだす。

「おい!そ、それはやめろ!」

「サレン!派したないですよ!」

「え?なんで?お兄ちゃんはお兄ちゃんだから別にいいじゃん。」

龍斗は「全然よくなぁい!」と突っ込む。ちなみにミレンは「でも、ここでピクニックするのも悪くないかも…」と湖の光景に感動していた。

「えっと、この湖の底に竜宮城があるのかな?リンドヴルム。」

リンドヴルムは「うむ。」と答える。

その湖は面積も大きく、かなり深そうだった。この湖の底に行く為には、何か作戦を考えないといけないと龍斗は思った。

「最近、我の友人から『竜宮城の守護竜として就任した。』と手紙が来て場所を知らせてくれたのだ。」

龍斗は思わず(就任なんて、職場の配属みたいだな…)と思ったが、突っ込んだ負けだと考えて黙っていることにした。

「…取り合えず、行く方法について考えないと……。」

普通に潜るにしては深くて息が続かないだろうし、竜宮城へたどり着いたとしても空気があるか分からない。かといって、竜化して突っ込みでもしたら住人達には敵対されるかもしれない。無用な争いを避けるためにも、竜化する以外の方法で湖の底を調査する手段が欲しかった。

「ミレン!サレン!しばらく泳いできていいよ。しばらく考え事するから。」

二人は「わーい!」とはしゃぐが、いい加減にサレンの裸を何とかしないといけない。

「こんな時の為のこれだ。」

龍斗は「てれれてっててー♪」と効果音を口で出しながら、二人の荷物袋から水着を取り出した。

「サレンは取り合えずこれを着ろ!今すぐに!」

サレンは「えー。」と不満そうな声をだす。その不満そうな声に対し、龍斗は(俺がえーって言いたいよ……。)と思った。

「ミレンも泳いで来たらどうだ?気分がすっきりすると思うぞ?」

「では、お言葉に甘えて……。」

ミレンは龍斗から水着を受け取ると、大きな岩の後ろに隠れて着替え始める。

「絶対に覗かないでください!」

「い、言われなくても分かってるよ。」

ミレンが着替えているであろう岩を背にし、龍斗は「ふぅ…。」とため息を付く。

「さてと、どう湖の中を探索しようかな。」

龍斗が竜宮城へ行く為に考えていた手段は、他の街へ準備を整えに行くことだ。しかし、今は手持ちのお金がすっからかんなのでどうしたものかと考える。

「金が無いなら、”クエスト”を受けてみてはどうだ?」

龍斗が腕を組んで唸っている中、モニターからリンドヴルムが提案をしてくれた。

「この世界にはクエストが存在するのか?」

「勿論だ。このグランディアには、人や魔族の他にもモンスターが存在する話はしたであろう。モンスターが危険で一般人が立ち入れられないので、冒険者が採取を行ったりモンスターを討発したりするんだ。」

龍斗の世界でも、クエストをクリアしていく類のゲームは山ほど存在している。この世界はゲームの様な感じはあるが、クエストは無いものだと思っていたので、ある意味有難い情報だった。

「じゃあ、ミレン達に遊ばせている間、俺は近くの街に行って準備を済ませてこようかな。」

そう考えた龍斗は近くまで竜化して飛ぼうと思ったが、その前にサレンから声をかけられる。

「あ、お兄ちゃん。お兄ちゃんも一緒に泳ごうよ。」

渋々という感じではあったが、サレンはちゃんと水着を着てくれていた。デザインは黄緑色のワンピースで、水玉模様があしらわれていた。サレンはぐるっと一回転すると、「何か言うことがあるんじゃない?」と聞いてくる。

「あぁ、可愛いと思うぞ。凄く似合ってる。」

龍斗が素直に誉めると、サレンは「ありがとう、お兄ちゃん!」と言って抱き着いてきた。その勢いに耐えきれず、龍斗は尻もちを着く。尻もちをついてあぐらをかいた龍斗の上に、サレンは座る。

「あたし、お兄ちゃんが優しいから大好きだよ。これからもずっと一緒だからね。」

サレンがこちらを見上げて笑いかけてくれた。その笑顔に龍斗は思わずドキッとする。

「お、俺も二人と一緒に旅が出来て嬉しいよ。本当は一人で心細かったんだ。ありがとう、付いてきてくれて。」

照れながらも、龍斗はサレンにお礼を言った。計算外の事だったのか、サレンも「う、うん。どういたしまして……。」と照れながら答える。二人がモジモジして数秒経った時、サレンから「お、お兄ちゃん…ちょっといい?……。」と聞かれた。

「どうしたの?サレン。」

「あ、あたしね…お母さんを助けてくれたお兄ちゃんが大好き。優しくて、かっこよくて、それに…ほっとけなくて……。だ、だから!」

サレンは何かを決意し、座りながらこちらを向く。

「龍斗お兄ちゃん!あ、あたしと…け、け、結婚を前提に…恋人になってください!!」

サレンからの急な告白に龍斗は当然戸惑った。あたふたと慌てる龍斗の口に、サレンはそーっと自分の唇を合わせようとする。その空気を壊すかのように「ちょっと待ったー!!」とミレンが飛び出してきた。

「ず、ずるいよサレン!私だって……。」

着替え終えたミレンは、龍斗の前まで行くと「何で覗きに来ないの!」と叫んだ。勿論、龍斗は何を言われたのか分からず「はへ?」と答える。

「『覗かないで!』って言われたら覗こうとするのが男の子なんじゃないの!?それなのに服脱いで待っていたのに…そしたらサレンがお兄さんに告白するし、キスしようとするから急いで着替えて……。」

本当に急いで着替えてきたようで、ピンク色のワンピースタイプの水着に着崩れが出来ていた。

「それって俺が悪いの!?何故!!」

再び混乱する龍斗の顔前にミレンがかがみ込んでこちらを見ると、「ほら、何か言うことがあるんじゃないですか?」と聞いてきた。

「う、うん。よく似合ってる。可愛いよ、ミレン。」

龍斗の素直な返答に、ミレンは「あ、ありがとうございます……。」と照れながら答えた。そしてまた数秒後、ミレンは何かを決したように龍斗を見ると、「すぅ…はぁ……。」と深呼吸をする。

「龍斗お兄さん!わ、私と…付き合ってください!!」

ミレンはそう言うと、こちらに右手を出しながらお辞儀をした。

「お姉ちゃんずるい!あたしが先だよ!」

ミレンを押しのけてサレンもこちらに右手を出しながらお辞儀をする。「ずるいも何も無いわよ!」とミレンがサレンを押しのけ、またもサレンがミレンを押しのけて…最終的には……。

「『龍斗(お兄ちゃん)(お兄さん)!好きな方とキスしてください!』」

何故かこんな場面になってしまった。本当に何故何だろうか。「お前ら落ち着けぇー!!」と叫ぼうとした龍斗だったが、ズドーン!!!という音と地揺れに阻まれた。

「な、なんだ!」

その揺れの元であろう原因の部分を見ると、そこには大きなクレーターと焼けた跡があった。

煙は尾を引いていて、そうなった原因が何かは直ぐに分かった。

「黒い…竜。」

目の前には大きな黒い竜が飛翔していた。

「こ、こいつは…。」

龍斗は剣を構え、戦闘態勢を取る。ミレンとサレンも竜の攻撃を警戒する。

三人の言葉を待つより、黒い竜が口を開く。

「ターゲット発見。これより、飛戟 龍斗の抹殺を行う。」

その声に龍斗は思わず親友の名前を叫ぶ。

「その声…帝か!」

「洗脳対象名は『勇凪 帝』と言うそうです。」

かなり様子がおかしくなっている。ロボットの様な喋り方をしていて、龍斗のことを覚えていないような…そんな感じだった。

「帝!俺が分かるか!?」

「洗脳対象はあなたの事を知っているようです。しかし、これならばあなたが不利になることは間違いなし!抹殺を開始する!」

そういうと黒い竜…帝は龍斗に襲い掛かる。人の姿では逃げ切れないので、龍斗はリンドヴルムに変身して空中での戦闘を試みる。

「あなたは友達を傷つけられませんか?傷つけられないですよねぇ!?アヒャヒャヒャ…!」

帝は狂ったような声を上げながら殴ってくる。

「く!どうにかして元に戻さないと…。」

龍斗は殴られる前に攻撃を避ける。

「友達の為なら攻撃をわざと食らうことも優しさですよぉ??」

「あいにくだったな…。俺が知っている親友は絶対そんなことを望まない!とにかくまっすぐぶつかって行く奴で、手加減を望まず正々堂々と勝負することが好きなやつなんだよぉ!」

龍斗はそう叫びながら帝に立ち向かっていく。そして、パンチを避けられた後のすれ違ったタイミングで龍斗は帝本人?の声を聞く。

「期待に応えられなくてごめん、龍斗…」

「え?」

声が聞こえた後、「制御にエラー発生。強行モードに移行する。」と帝?が喋る。

「【極限開放 バーストモード】へ移行…。」

そう言った帝?の様子に異変が起きる。

「な、何が起きたんだ!?」

帝の竜化状態のフォルムに鋭さが増していく。棘は長くなり、体全体が先ほどよりも一回り大きくなった。

「移行完了。ターゲット抹殺開始。シネェ!!」

言葉が聞こえた瞬間、龍斗の腹には帝?の拳が抉りこまれていた。

「まじ…かよ……。」

その衝撃で変身が解け、龍斗はそのまま湖に落ちる。

「お兄さん!!」

「お兄ちゃん!!」

二人の言葉が聞こえた後、ザパーンという音と一緒に龍斗は湖へ落ち、沈んでいく。大分深いところまで沈み、もうだめかと思ったその時、水中であるにも関わらず声が聞こえ始める。

「姫様!お城を抜け出されては困ります!」

「ちょっとした散泳だよ。散泳ぐらいいいでしょ?」

龍斗はかすかにあった意識の中で「なんだ?」と思う。

「ねぇ、あれ何?」

「あれは…地上人の様です。溺れてしまったのですかな?」

「溺れて!?助けないと!!」

その言葉を最後に龍斗は完全に意識を失った…




~第5話~ 竜宮城へいらっしゃい!




時間は少し遡り…

「シネェ!!」

龍斗は腹に強烈な一撃をもらい、変身が解けて湖に落ちる。

「お兄さん!」

「お兄ちゃん!」

二人は龍斗を助けようとするが、リンドヴルムがそれを止める。

「待て!龍斗は生きている。人魚の姫に助けられたようだ。」

『人魚の姫??』

そう言って首をかしげる二人に、リンドヴルムは事情を説明する。その頃、黒い竜は……。

「あ、殺し損なった。これから追撃して殺…?」

帝?は追撃を試みるも、”何故か”動きがままならず、飛行も安定しなくなっていた。

「もう良い。あいつは死んだも当然だ。それより、洗脳を強化する。戻ってこい。」

「マスターがそういうんならねぇ。仕方ありません。」

帝?は湖に向けて「命拾いしましたねぇ?今度こそは私の手で殺してあげますからねぇ??」と言い残して去っていった…


…そして龍斗サイドでは、龍斗は目を覚まさないままだった。しかし、途中から意識が戻り始めたようで、誰かの話し声が聞こえてきた。

「ねぇ、この人目を覚まさないよ?大丈夫かな?」

「意識を失っているだけの様です、もうしばらくすれば目を覚ますでしょう。」

(女の人の声と、おじいさんみたいな人の声がする…)

そう思いながら、龍斗はゆっくりと目を開ける。

「あー!やっと目を覚ました!」

すると、桃色の髪に銀色のティアラをつけた女性に急に抱きしめられる。

「大丈夫?ケガしてない?私が見える?」

「あ、あぁよく見えるよ。天井の紋章とかくっきり分かるし…じゃなくて!」

龍斗は飛び上がり、「急に抱きしめてどういう…」と突っ込もうとしたが、彼女たちの姿を見て言葉を失ってしまった。

「もしかして、人魚?」

「それって、”私たち”のこと?」

「どうやら、地上人は我々のことをそう呼ぶらしいですな?」

人魚、それは上半身が人間、下半身が魚のような姿をしている種族のことである。そして、彼女たちの容姿は上半身が人間、下半身が魚という正に”人魚”と呼ぶにふさわしいものだった。

「ところで、あなたはなんでヒレがないの?」

「地上ではこれが普通なんだよ。」

「へぇ、地上人にヒレは無いんだね。」

「こっちからも質問いいか?君たちのことについて知りたい。」

「え!?私のことを知りたいの!?」

彼女は間違った解釈をしたようで頬を赤らめてしまった。

「ち、違う!変な誤解しないで!?君達の名前とかまだ聞いてなかったからさ。」

彼女は「そっか。そういえば私もあなたの名前知らないし。」という。

「私はマーリン・アーク・トリトンっていうの。よろしくね!」

「私は爺をやっているもので、シグバー・アーク・トリトンと申します。」

「俺は飛戟 龍斗。龍斗って呼んでくれればいいから。」

「じゃあ”龍ちゃん”だね?」

龍斗は「龍斗でいいのに……。」とつぶやくが、マーリンには聞こえなかった。

「わたしもマーリンでいいよ?」

「わかったよ。よろしくね、マーリン。」

自己紹介が済んだところで、龍斗は疑問に思ったことを二人に聞く。

「ところで、マーリンは貴族のお嬢様なの?シグバーが”爺”って言ってたし……。」

「マーリン様はこの竜宮城を代表する”姫”ですぞ?」

それを聞いた龍斗は「ええぇぇぇ!?」と外まで聞こえそうな声で驚く。その後、しばらく口が塞がらなかった……

「龍ちゃん?」

「いや、別に何もないんだが…お姫様って聞いてびっくりしただけ。」

龍斗は我に返ると、口を無理やり塞ぐ。

(ん、まてよ?ここが竜宮城という事は……。)

リンドヴルムから聞いた話を思い出し、龍斗はマーリンに【氷の竜】について話を聞こうとする。

「あのさ、マーリン…殿下っていえばいいか?」

「マーリンでいいよー?」

「わかった。マーリンは氷の竜について知っているか?」

「氷の竜って……おとぎ話の?」

「姫様、おとぎ話でもありますが、どちらかといえば言い伝えですぞ。」

「その話!詳しく!」

龍斗は興味津々といった様子で身を乗り出す勢いで聞こうとするが、マーリンは「どうしよっかなー?」焦らす。

「どうしたら教えてくれるんだ?」

「んーとね、外の世界について知りたいな♪」

「というと?」

「姫様は国の代表である為、良くも悪くもお身体を狙われるのです。そのため、宮殿から滅多に出られないのです。」

「宮殿から出られない…か。」

「今回は見張りが少なかったから、そこを狙って宮殿から脱走…じゃなくて散泳してたの。」

「そこで、俺を見つけて助けてくれたんだ。ほんとにありがとう。」

「う、ううん、助けれて良かったよ。」

素直にお礼を言うと、彼女は照れながら答える。湖に沈んだところを助けられた命の恩人である彼女のため、龍斗は(お礼しないとな…)と思った。

「わかった。いいよ!俺が外の世界に連れて行ってあげる!」

「約束、守ってね?」

「あぁ、もちろん!」

二人は約束を交わすと握手する。

「えっと、じゃあその言い伝えについて教えて?」

「話だけでは分からないので、現場についてから説明します」

そして、三人は”その場所”まで移動する。その道中で、龍斗は帝の事について考えていた。

「何とかして助け出さないと。”洗脳”って言ってたな。ということは術者がいるはず。見つけ出して倒さないと…」

「どうしたの?龍ちゃん?」

どうやら考えていたことがボソボソと出ていたらしい。龍斗は「何でもないよ。」と言い、今度こそ心の中でどうするか考えながら歩を進める。しかし、結論が出ないまま現地に到着してしまった。

「ここが、その言い伝えの場所です。」

目の前には、湖の底にあるとは思えないものがそびえたっていた。

「ここ、湖の底だよね。目の前にあるのって、氷山だよな?」

「その通りです、目の前にあるあの山こそ氷の竜が住まう地。通称【海底氷山】です。」

シグバーが説明してくれたが、水の中で吹雪いている事に違和感しか感じない龍斗だった。

「ただ、向こうへ行く手段が無いよね?」

しかし、氷山へ行くには海流?をどうにかしないと行けないようだった……。

「思ったんだが、なんで海流があるんだ?湖の底に俺は沈んだはずなんだが…」

「この湖と海は繋がってたんだよー。」

「なるほど。海流でいいのか…じゃあ、この海流をどうにかしないとだね?」

「そのヒントが、言い伝えにあるんです。」

海流の前に石板が置いてある。その内容とは……。

『試練に挑むものよ…汝の資格を示せ。さもなくば、道は開かれない。その資格とは、おとぎ話にあり。』

「普通に答えが書いてある…」

「では、おとぎ話について私から話させて頂きます。」

シグバーは「ごほん。」と咳ばらいをした後、おとぎ話について語る。

「『ある日、はた織りに精を出す美しいお姫様がいました。お姫様は働き者で、毎日毎日見事な布を紡いでいきました。

そんなお姫様の父親は、恋をする暇がない娘を可哀そうに思い、牛飼いの青年と結婚させることにしました。二人は愛し合い、楽しい結婚生活を送っていましたが、お姫様ははた織りの仕事に身が入らなくなってしまいました。お姫様の父親は、そんな娘を見かねて、川を挟んで二人を引き離しました。その後、はた織りの仕事に専念する約束を元に、ある日の夜に二人は会うことを許されたのでした。』…以上になります。」

「うぅ…泣ける…。」

気づくとマーリンは涙を流し、どこから取り出したのか分からないハンカチで涙を拭っていた。

「泣ける…のか?」

龍斗の世界にも、同じ内容のおとぎ話が存在する。ちなみに、龍斗はその物語に関して涙を流したことは一度も無かった。彼は人が死んだり、不幸になる系のゲームも多数プレイしていた為、感覚が麻痺しているのである。

「えーと、あ!石板の隣に何かある。」

海流の前にある石板の隣にはモニターが置いてあった。そこには天の川を挟んだ二つの星に名前を入力する欄がある。

「天の川を挟んで『わし座』と『こと座』か…ふむ。」

龍斗はこと座の欄に”ベガ”、わし座の欄に”アルタイル”と記入すると…

「見て!海流が!」

海流が収まり、氷山への道ができる。

「よし、行こうか。」

龍斗は先陣をきって歩き出す。

「この問題は、星空と星座を理解しないとわからんよなぁ。」

「『星座』って何?」

「それも分からないのか…いいか、『星座』はな…」

そんな雑談をしながら、三人は氷山へ続く道を歩いていく。そして、三人は氷山へ着いたのだが…

「氷山とはいえ、海底だぞ。海底でこんな吹雪くものなのか?」

龍斗は寒いと言わんばかりにブルブルと体を震わせる。

「それは『氷の竜』の力と関係しているのでしょうな?」

「爺ぃ、寒いよー。」

本音をこぼすマーリンにシグバーは「我慢して下さい。」と鬼畜めいたことを言う。

「これ、着るか?」

龍斗はマーリンに自分の上着を渡す。

「あ、ありがと…」

マーリンは上着を受け取って羽織ると、頬を赤らめたまま龍斗を見続ける。その上、小声で「龍ちゃん優しいな…。」と呟いてしまっている。自分でも気づかないくらいに。

そんな彼女を置いといて、龍斗は目の前から白い獣が迫ってくることに意識を集中していた。その獣とは…

「う、うさぎ?」

そのうさぎは山の斜面を利用しながら高速で滑走してくる。そしてそのうさぎが近づいてくると同時に分かったのが…

「でか!そして何!?あの鬼のような顔!?」

全くかわいらしい容姿なんてなく、純粋な化け物だった。

「具現化!【セイント・トール・スプレッシャー】!」

龍斗はハンマーを出して構える。

「竜化して戦うと体力をかなり消耗するからあまり使いたくない。慣らさないといけないのは分かっているんだがなぁ……。」

ハンマーを構え、迎撃態勢を整えていると……。

「かの者を衝撃より守り給え!【プロテクション】!」

「かの者に大岩を穿つ力を与えたまえ、【パワーブースト】!」

マーリンとシグバーが援護してくれた。

「ありがとう、二人とも!さぁて!」

龍斗は斜面を利用してどんどん加速して近づいてくるうさぎに向けてハンマーを振りかぶると…

「おるぅああぁぁ!」

ハンマーに遠心力を込め、うさぎの顔面に直撃させる。するとうさぎはその衝撃で海の外まで吹っ飛び、星になった。それと同時に、みんなに経験値が自動的に振り分けられる。

「ふぅ、何とかなるもんだな。」

「ねぇ爺、レベルがあがったよー?」

「あ、そっか。レベルの概念があるんだったな…ステータス表示!」

龍斗は自分のステータスを表示すると……。

「レベル10か…5のときと比べると全パラメータ500増えているな。」

「私のレベルは30だよ?」

マーリンは自分のパラメーターを龍斗に見せる。

「全パラメーター300ちょい。どおりでリンドヴルムが驚くわけだ…」

「龍斗様は逸材ですな。そのレベルでオール2000以上とは。」

「俺も良く分からないんだけどね…よし、先に進もうか。」

こうして一難去った後、一行は気を取り直して氷山の山頂を目指す。しかし、山頂に近づくにつれて吹雪は激しさを増していき、体力が奪われていく。

「さ、寒いー…」

一応、寒さを凌ぐ魔法を使っているがそれでも吹雪いてくる雪と風の冷たさは防げない。

「あともう少しだから頑張って。」

山頂はもう目と鼻の先にあった。ようやく辿り着けると龍斗が思ったその瞬間。

「な、なんだ!?」

激しかった吹雪が更に勢いを増す。それと同時に……。

「空を見て!」

マーリンが指を指すところを見ると、大きな氷の塊が雲から現れ徐々に落ちてくる。そして……。

「ウガオォォォー!!」

氷の塊から青い竜が出現した。

「あれは、【氷の竜 ファフニール】様!?」

「あれが?でも、どこか違和感がある。」

龍斗は初めて会うが、どことなく違和感を感じた。その理由は……。

「ゴォォアァァァァ!」

青い竜…ファフニールは眼に紫色の尾をなびかせながら、やたらめったらに暴れていたからである。

「危ない!【イージス】!」

マーリンにめがけて飛んだ氷塊を龍斗は盾を具現化して庇うが…

「ぐ!」

手加減をしていたリンドヴルムとは違い、ファフニールは全力で暴れている。その為、竜王本来の力を弾いた龍斗への衝撃はかなりのものだった。

「ありがとう龍ちゃん。」

「いいさ、それよりもこれ以上は危険だ!とりあえず逃げるぞ!」

「でも、あれを止めないと。あなたの目的につきあう約束だし。」

「はやく!摑まれ!!」

龍斗はマーリンとシグバーの手を掴むと…

「変身、【リンドヴルム】!」

竜化して山のふもとまで脱出する。そして、何事もなく山の麓までたどり着いた後、二人を降ろして待機するよう指示すると直ぐに〖海底氷山 山頂〗を目指して飛ぶ。

「ファフニールが操られるとはな、相当な術者がいるのだろう。」

〖海底氷山 山頂〗に向けて飛行するなか、リンドヴルムがモニターから話しかけてくる。

「ところで、竜化して頂上を目指せば簡単だったろ?何故わざわざ徒歩で登ったんだ?」

「体力がもたないからな。いざというときに竜化できなかったら困るし。慣らさないといけないのは分かるんだけど…」

そうこう言っている間に頂上についた。氷の竜は今も暴れていて、周りには風や氷が吹き荒れる。

「ウゥガァァー!」

「リンドヴルム!なんか手はないのか!?」

「何を言っている。お前も竜だろう?」

「まぁ、そうだけど。その前に体力がもつかどうか…」

「ヴオォォォ!」

「くっ!!」

龍斗にめがけて氷の塊が降ってくる。

「どうこう言っている場合じゃないな!」

ファフニールの攻撃を【イージス】で防ぐと反撃の構えをとる。

「具現化!【ツインスライサー】!」

龍斗は両手に剣を具現化させる。

「せやぁぁぁー!」

「グガァァ!」

氷塊が雨のように降り注ぐが、龍斗はそれを切りながら突っ込む。

「はあぁぁー!」

氷塊を切りながら突き進み、ファフニールに剣を突き立てるが、

「ガァァー!」

氷のように固く透き通った鱗には傷一つすらつかない。

「レベルもそうだが、パワーが圧倒的に足りない!どうすれば…」

龍斗はハンマー(【セイント・トール・スプレッシャー】)を具現化して叩くが……

「ぐ!」

固い鱗に弾かれてしまう。

「竜化のパワーでも無理か…流石、無効化の力だな」

「無効化?それがファフニールの能力なのか?」

「ああ、一つ目の能力が無効化だ。物理攻撃を無効化できる。しかし、属性攻撃に関しては無効化できない。後は水中での動きが得意。だから、水中戦になると圧倒的に不利になるぞ。そして、属性は見ての通り『氷』だ。弱点は分かるよな?」

ファフニールとの対策について話している間に、龍斗はファフニールから距離を取る。

「でも、火なんてどこにも。」

「我の能力を忘れたか?イメージすればなんでも『具現化』できると。」

「まさか!」

そこで龍斗はリンドヴルムの能力について改めて驚く。

「…ありがとう!リンドヴルム!!」

龍斗は火をイメージしてあるものを具現化しようとする。

「流石に、魔力と体力を多く消費するけど、やってみる価値はある!【具現化せよ…火の海を統べし巨竜…氷の大陸を焼き尽くせ!イフリート】!!」

龍斗が具現化の詠唱をした時、マーリンサイドでは、氷山の横にイレギュラーすぎる赤い液体が流れるところを目撃する。その元には…

「あ、あれは…」

赤い巨竜が溶岩を流しながら氷山を目指して近づいていた。

「龍ちゃん、頑張って…」


…そして、龍斗サイドに戻る。

「な、なんだ…あれは!」

リンドヴルムも龍斗が具現化した”赤い巨竜”に驚きを隠せないようだった。

「ぐ、やはりこれほど大きいものを具現化させるには、魔力も体力も持たないな…ならば!」

龍斗は竜化状態を翼のみに反映させ、他は人間状態に解除する。その時の龍斗の髪は黒から白になり、目の色も黒から赤に変化していた。

「翼だけの竜化でもそこそこ消費するな。でも、この翼にはMPだけ竜化状態の効果をつけている。つまり、魔力だけは竜化状態と変わらないまま使用できる!」

そして龍斗は赤い槍を具現化させる。

「燃えよ!【炎槍ブリュンヒルデ】!!」

龍斗は赤い槍を具現化させると…

「はあぁぁー!」

ファフニールを攻撃する。攻撃を当てると先ほどとは違い、鋭い先端は竜の鱗を燃やしながら貫く。

「ゴガァ!?」

その攻撃により、竜は隙を見せるが、大技を打つにはまだ攻撃が必要だった。

「具現化!【炎剣インフェルノ】!」

龍斗は片手に剣、槍を具現化させて……

「はあぁぁー!」

ファフニールに突撃する。しかし、突撃をする龍斗を阻むように氷の雨が降り注ぐ。それを振り払うように剣と槍を振り回し、ファフニールに突撃する。解けた氷が蒸発して気体になり、白い煙が一人と一体を覆う。

「今…助けます!ファフニール!!」

龍斗はファフニールの懐に潜り込み……

「せりゃぁぁー!!」

やたらめったらに切り込む。

「グガァァ……」

そして、ファフニールが見せた最大の隙に、龍斗は赤い巨竜にエネルギーを集中する。

「いまだ!イフリート!!」

遠くから見える赤い巨体の口から炎が収束していく。

「いっけぇ!!」

濃縮された炎のビームは冷たい空気を蒸発させ、ファフニールの鱗や甲殻などの表面を焼く。

「ゴォォアァァァァ!」

熱線を受けたファフニールは攻撃を耐えきると、傷ついた部分を氷で補っていく。そしてまだ洗脳は解けていない様だった。

「これでも…洗脳は解けないのか!」

龍斗の魔力は竜化状態と同等であれど、底を尽きかけていてそろそろ勝負を決めないとまずい状態だった。

「このままだと…ん?あれは?」

何かないかとファフニールの周囲を見渡していたところ、ファフニールの頭上に紫色の糸のようなものがうごめいているのが見えていた。

「あれがファフニールを操っているものだとしたら…どのみち、もう体力が無いんだ。かけるしかない。」

龍斗は何とか具現化できている剣を構えると、竜を操っているであろう紫色の糸をめがけて剣を振り下ろす。

「これで…終われぇー!!」

プツンと紫色の糸は両断されると、青い竜は気を失ったように目を瞑る……。


…そのとき、山頂には黒いローブの二人が龍斗とファフニールの戦いを観察していた。

「なんと!ファフニールが負けるのか?あのような小僧に。」

「しかし、いい情報を入手できました。今回はこれで良しとしましょう。」

二人の戦闘を見ていた黒いローブの二人組は、そう言うとどこかへ消え去っていく。勿論、戦闘に集中していた龍斗は全く気付かないまま、ファフニールの様子を伺っていた。


「…大丈夫なのか?かなりやりすぎた気がするけど。」

「『竜王』はこの程度なら少し眠るだけで回復する。問題はない。」

「そっか、よかった。」

目を瞑るファフニールを横目に、リンドヴルムはモニター越しで「ところで…」と話を持ち出す。

「さっきの赤いあれはなんなのだ!あんなの見た事は無いぞ!」

「だろうな。俺も見た事は無い。参考資料もなく、イメージするのもやっとだった。【イフリート】…溶岩の海を統べる伝説の火竜だ。あれほど大きいものを具現化するのは正直きつかった…」

「ほんとにお疲れだったな…我も具現化してみようかな。」

「あんたなら簡単に支配できそうだな。」

そうこういっていると、氷竜ファフニールは意識を取り戻す。

「僕は…いったい何を。」

「貴様が何者かに洗脳されていたのを龍斗が助けたのだ。彼に感謝せよ?」

「僕の洗脳を解いてくれたのは君なのかな?ありがとう。助かったよ。」

ファフニールが龍斗に感謝を述べる。

「待ってください。それに、洗脳を解くためとはいえあなたを傷つけてしまいました。」

「その件は問題ないよ。僕達竜王は大怪我しても仮眠をとるだけで回復するから。逆にお礼をさせてほしい。」

「お礼…なんでもいいのですか?」

「私にできることなら。」

龍斗は今回の目的を話していく。

「…ということで、鱗でもいいのですが、触媒として体の一部を頂いてもよろしいでしょうか?」

「それだったら、僕の角をお渡ししよう。鱗では触媒として認識されないと思うから。」

「素材があればできるわけじゃないんだな。なるほど。」

ファフニールは自分の角を切り離すと、それを龍斗に差し出す。

「どうぞ、僕の能力と力を受け取ってほしい。」

「ありがとう。」

「いいか、あの『魔法』つかうんだぞ?」

龍斗はリンドヴルムに「分かっているよ」と言いながら、魔法を唱える。

「我、汝の主に変化(へんげ)するもの…竜の肉体、力を我に記せ…【ドラゴンズオリジン】!」

呪文を唱えるとファフニールの角が龍斗の胸の中に入り、龍斗は青い竜に変身する。

「暴走した僕と戦っているのなら能力は知っているはずだ、うまく使いこなしてくれよ?」

「ありがとう!ファフニール!」

「僕もモニターで君の旅を見守ろう。何かあったらできる範囲で助力しよう。」

「分かった。じゃあ、俺は行くね。」

龍斗はそういうとマーリンたちが待つ氷山の道の入り口まで帰るのだった。

「マーリン!シグバー!お待たせ!」

龍斗は”青い竜のまま”彼女たちの目の前に降り立つ。

「もう体力と魔力が空っぽだよ…」

「大丈夫?龍ちゃん?」

「なんとか。でも、疲れてヘトヘトだ…」

そこまで言うと龍斗は変身が解け、倒れこむ。

「龍ちゃん!大丈夫!?」

「龍斗様は先ほどの戦いで疲れたのでしょう。休ませてあげましょう。」

シグバーの言葉にマーリンは安堵する。

「お疲れ。龍ちゃん。」

二人は龍斗を宮殿まで運ぶ。しかし、ここから彼女にとって大変なことが起ころうとしていた。




~第6話 激震 竜宮城の主ポセイドン~



龍斗が気を失ってから3日後、意識が戻らない彼にマーリンとシグバーはずっと付き添っていた。

「龍ちゃん…大丈夫かな。」

「私たちは龍斗様が目覚めるまで付き合うしかないのですかな。」

マーリンとシグバーが心配する中、ファフニールとリンドヴルムがモニターから話す。

「平気だろうけど、彼はあの化け物を具現化させたせいで余計に体力を消耗したんだろう。」

「あぁ、我ならば疲労せず制御できたものだ。それでも、少しはきつかったかもしれないがな。」

しばらく雑談していた中、龍斗は目を覚ます。

「いてて…俺はあれからどうなったんだ?」

「君は彼女たちに会った後で気を失ったみたいだね。無理もないけど」

ファフニールがモニター越しで状況を説明してくれた。

「龍ちゃんはあれから3日も寝てたんだよ!大丈夫なの?」

「なんとか大丈夫みたいだ、心配してくれてありがと。」

「いやはや、流石は逸材の者ですな。あのパラメータあってこその命ですぞ。」

マーリンとシグバーが龍斗を心配する中、勢いよく部屋の扉が開かれ大きな声が響く。

「マーリン様!国王陛下が読んでおります!直ちに…」

国の兵士と思わしき魚人が部屋に割り込んでくる。そして、龍斗を見たと思うと手にした槍を構える。

「く、くせものー!」

「ちょ、ちょっと待って!」

龍斗は驚きながらも否定しようとするが兵士は突撃してくる。その前にマーリンが龍斗を庇う。

「違うよ!この人は私のお客様だよ!それに、ファフニール様の暴走を止めてくれたのも彼なんだから。」

ファフニールもモニター越しで「その通り。君も失礼なことを言うもんだ。」と龍斗を庇う。

「そ、そうでしたか…ご友人に対してとんだ無礼を致しました。申し訳ありません。」

そして、なんとか誤解は解けたのだった。

「あ!姫様。話を戻しまして、【ポセイドン】様がお呼びです!いますぐお会いできますでしょうか?」

「パパが?うん、わかったよー。みんなも行こー?」

「いいのかな…」

「ポセイドン様が言うには、ご友人も連れてこいとの事でした。」

「だったら…」

そして、龍斗は竜宮城の主にして海神であるポセイドンに会うことになってしまった。

「ところで、ウルルミス様はポセイドンについてなんか知っている?」

龍斗はいつのまにか隣を歩いていた女神ウルルミスに、ポセイドンについて尋ねる。

「はい。私が最初にお話しした事は覚えていますか?」

「えっと、神様が10人いる中世界で、あなたはその一人である…という話でしたよね?」

「その通りです。そしてこれからあなたが会う【海神 ポセイドン】様もその一人です。」

「すげぇ偉い人じゃねぇか!」

「海神ポセイドン…その名の通りで彼の一振りは大波を起こし、世界を浄化するともいわれていますが、私と話すときは凄く気前のいいお爺さんなんですよ☆」

龍斗は「神様同士の雑談か。想像できねぇ……。」と頭を抱えながら歩く。そして…

「パパー!お帰りー!!」

マーリンがその海神ポセイドンであろう人に挨拶をする。

「マーリンか、元気そうで何よりだ…して、そやつは?」

「私の友達の龍ちゃんだよー。」

マーリンが龍斗を紹介するが…

「お主、娘のマーリンをたぶらかそうと考えてはおらぬだろうな…」

何故かポセイドンはマーリンと話してた時の優しそうな顔とは打って変わり、般若のような顔で龍斗を睨む。

「えっと、そんなことはありませんけども。というより、俺が溺れたところを救われたぐらいで…」

「あだ名で呼ばれるのが羨ましい…儂だってポセパパって呼ばれたいのじゃ…」

優しそうな表情から般若になったり落ち込んだりするポセイドンを見た龍斗は変な感想を漏らす。

「い、忙しい神様ですね…ウルルミス様」

「そうですね、楽しい人です。」

ウルルミスは片手を頬に当てながら、いたずらに微笑む。

「ポセイドン様。私の紹介もしてくださいよ。」

周りに明るい雰囲気が漂う中、ポセイドンの陰から誰かの声がした。

「おぉ、そうであった!マーリンよ。儂がお前の結婚の相手を選んできてやったぞ。」

「え?」

マーリンが戸惑う中、陰が姿を現す。

「初めまして、マーリン様。私は海底国のひとつ、〖ギャング〗を統べる王子 オクタロスと言います。」

見たところ上半身が人間、下半身がタコの魚人のようだ。彼は自分の金髪を払いながら、お姫様にプロポーズする王子(片足を地につけて手を差し出すシーン)と同じポーズを取ると、

「さぁ、私と婚約を結ぶのです。これはもう、運命なのですから…」

などと恰好つける。

「はぁ、なんか痛いセリフだな…」

龍斗が近くで呆れていることも構わず、オクタロスはマーリンに詰め寄る。

「マーリン様!さぁ!」

オクタロスはしつこく付きまとうが……

「私にはもう好きな人がいるの!それに、あなたはタイプじゃないから!」

普段はおっとりした彼女も流石に怒った。が、それよりもオクタロスは彼女の”好きな人”というワードに反応する。

「あの、好きな人がいるって?」

オクタロスが好きな人について気にしたが、龍斗もマーリンの好きな人が気になったが……

「うん!私は龍ちゃんが大好きなの!」

本人を目の前に暴露する。それを聞いた彼は勿論……

「えええぇぇぇぇー!」

驚きのあまり、また口が塞がらなくなるのだった。しかしそれはオクタロスも同じで、陸に吊り上げられた魚のように口をパクパクしていた。

「だって、龍ちゃんはファフニール様と戦っていた時すごく危ないことをしてたもん!ほっとけないよ!それに、約束したから。海の上を、地上を、空を、星を見せてくれるって……外の世界を私に見せてくれるって約束したから!それに優しくしてくれるし、守ってくれるし……。」

マーリンはそこまで言うと我に返り、顔を赤らめる。

「え、えっと!今のはそういうことじゃなくて……いや、違くないんだけど違うの!その……」

慌てる彼女に龍斗は優しく微笑みかける。

「確かに、約束したもんな。それに、ありがとう。」

「う、うん……。」

二人が良い空気の中、オクタロスは龍斗を妬み、目の敵にする。

「き、貴様がいなければ!マーリン姫は私の妃になるはずだったのに……許さん!」

「さっきも言ったでしょ!私はあなたのことはタイプじゃないし、龍ちゃんがこの場にいなくても断っている!だって、私の気持ちも考えないで無理やり結婚なんて嫌だもん!これは……私の人生なんだから!」

マーリンの言葉によってオクタロスの自我が暴走する。

「貴様ァァァー!!」

オクタロスは巨大なタコの怪物に変身する。

「あれは、もしかして【クラーケン】!」

マーリンとウルルミスの声が重なる。

「あれが、伝説の海の怪物……」

足には先ほどは無かった槍や剣、盾や弓矢などたくさんの武器が絡みついていた。

「許さん……許さんぞォー!」

オクタロスだったもの…クラーケンは辺りをやたらめったらに暴れまわる。城の柱はなぎ倒され、天井の破片はクラーケンに吸い寄せられて消えた。

「儂の宮殿で暴れるとは…覚悟はできているのであろうな?」

ポセイドンは三又の槍〖トライデント〗を構えるが、この世界にはある『ルール』が存在しているので攻撃することができない。

「ポセイドン様!お忘れではないでしょうか!?私たちはこの世界に干渉してはならない決まりです!」

ウルルミスの言葉に「分かっとるわ!」とポセイドンは答える。

「しかし、それじゃあ誰が、あの気が狂った温室育ちを止めるのだ!」

ポセイドンは決まりを破ってでも戦おうとする。それを龍斗が「自分が戦います。」と戦闘役を買って出る。

「ポセイドン様…俺にやらせてください。元々は俺が原因の様なので。」

「確かにな。お前がいたからお見合いがうまくいかなかったのだ。」

「パパ?」

マーリンはポセイドンを睨みつける。

「しゅん、そんな顔をされると心が痛くなるのじゃ……」

ポセイドンは弱弱しい声を出しながらも、クラーケンの相手を龍斗に託してくれた。

「分かった。この決戦、お前に任せる!相手は海の怪物クラーケンだ!遠慮なくやってしまえ!」

「はい!竜化……【ファフニール】。」

龍斗はファフニールの無効化と泳ぎの能力が有利と判断し、ファフニールの姿になる。

「わたしも援護する!さっきは力になれなかったから…今度こそ!」

「儂もお手伝い致しますぞ!」

マーリンとシグバーが魔法を詠唱する準備を始める。

「ありがとう、二人とも。でも、危なくなったら急いで逃げてね!」

「うん!」

「はい!」

二人の声を聞きながら龍斗は戦闘態勢を取る。

「ユルサンゾォォ!!」

そして、クラーケンとの戦いに火蓋がきって落とされる。

「アアァァァ!」

クラーケンはなりふり構わずに暴れる。

「とりあえず、あの攻撃は全部物理だよな……」

龍斗はファフニールの能力を再確認したうえで、注意を引き付けるべくクラーケンの前に身をさらす。

「攻撃をなるべく俺のほうに引き付けないと、二人が危なくなる!それだけは避けないと……」

「キサマァ!」

クラーケンは剣・槍・弓矢を脚に装備しており、それをやたらと振り回したりしていた。しかし、ファフニールの力は無効化である。その効果を信じて剣を自分の腕で防いでみると、重重しい衝撃はあったがダメージは無かった。

「ほんとだ、ダメージが無い。けど属性攻撃は通るからブレスとかには注意しないと。」

「グアァァ!」

しかし、ファフニールの能力で水中での攻撃も回避しやすくなっている為、属性攻撃もあまり受けない。

「かの者の動きを早くし給え!【クイック】!」

「かの者に大岩を砕く力を与え給え!【パワーブースト】!」

更に、マーリンとシグバーが援護をしてくれる為、危険度はかなり落ちる。

「こういう敵は火属性か雷属性だよな。しかし、雷は海全体を巻き込む可能性があるから…」

しかし、ファフニールの姿では具現化の能力は使えない。ファフニールの姿からリンドヴルムの姿に変身する必要がある。

「やるしかない。竜化【リンドヴルム】!具現化、【炎槍ブリュンヒルデ】!!」

龍斗は変身すると同時に槍を具現化する。具現化した槍は熱で周りの水を蒸発させる。

「はあぁぁぁ!」

龍斗はクラーケンに槍を突きつけ、突進する。

「があぁぁ!」

突撃する龍斗を阻むべく剣と槍が立ちはだかる。

「こんなもの!具現化、【イージス】!」

槍を盾で防ぎ、剣を槍で弾く。

「うおぉぉぉ!」

脚から放たれる矢をよけつつ、クラーケンに槍を突き立てる。

「ゴォアァァ!」

しかし、槍は結界によって阻まれる。

「くっ!」

龍斗の体制が崩れたところを、クラーケンが剣を叩きつける。

「ぐあぁぁぁ!」

その叩かれた勢いで地面にぶつかる。ファフニールの姿でないため、龍斗はとてつもないダメージを受けてしまった。

「龍ちゃん!」

マーリンは龍斗を助けようとするが、クラーケンは見境なしに暴れているため助けに行けない。

「姫様、彼を信じましょう。あの程度で死ぬような人ではありませぬ。」

「……うん。分かった。」


…二人が心配する中、岩の裏で龍斗はなんとか起き上がる。そして、槍を防いだ結界をどうするか、対抗策を考えていた。

「あの結界って、どうすれば砕けるんだ?リンドヴルム、ファフニール。」

「あの結界はおそらく魔力によって生成されたものだろう」

「つまり、破壊力の高い攻撃なら砕けるんじゃないかな?しかし、君のハンマーでも破壊力不足だろうね。火属性をエンチャントしたとしても……」

二体の意見を聞きながら、龍斗は頭を悩ませる。

「なら、どうすれば…そういえば!」

そのとき、龍斗は帝と戦ったことを思い出した。

「極限開放って何?あれが切り札になると思うんだが。」

しかし、その言葉にリンドヴルムとファフニールは顔を渋らせる。

「極限開放…バーストモードはその名の通り、竜に秘められた力を開放するものだ。」

「パラメーターは10倍近く上昇するがもろ刃の剣さ。身体と精神が耐えられるかは君次第だね。」

「それに、貴殿は竜化の経験が浅い。暴走する危険性もあるし、彼女たちには止められないが?」

「だったら……」

龍斗はファフニールにあるお願いをするのだった。


「グオォォ!」

クラーケンは龍斗を見失って探していた。

「うおぉぉぉ!」

龍斗は勢いよく飛び出す。

「龍ちゃん!」

「龍斗様!」

マーリンとシグバーが安心した声を上げる。

「よくもぉ!龍斗ォ!!!」

龍斗を見つけたクラーケンは再び暴れる。

「一か八かだ!やってやる……。【極限開放…バーストモード】!!」

リンドヴルムの状態で龍斗はバーストモードになる。白い体から鋭利な棘や針などが突き出し、攻撃的な容姿になる。しかし…

「ウガアァァァァ!!」

バーストモードへ移行すると同時に自我を失う。

「アァァァァァ!!」

自我を失った龍斗はクラーケンに向かって突進する。

「リュウトォ!!!」

クラーケンは結界を張るが龍斗のバーストモードによって砕かれる。

「ウアァァァァ!」

暴走した彼は結界を破壊し、そのままクラーケンに殴り掛かる。

「ヌウゥ!」

クラーケンに攻撃を加えた後、火属性の強力魔法の詠唱を始める。

「ヤキツクセ………。【オール・ヴァーン】!!」

龍斗は自身の周りを太陽の様に炎で身に纏う。その炎に熱され、海水が蒸発する。

「シネェェェ!」

龍斗は炎を纏ったままクラーケンに体当たりする。

「ヨクモォ…リュウトォ………」

炎を纏った龍斗の突進を喰らったクラーケンは力尽きた。力尽きたクラーケンは変身が解けてオクタロスに戻る。しかし……

「ガアァァァ!」

龍斗の暴走は止まらなかった。この間も彼の体力は消耗し続ける。誰かが止めなければ死ぬまで止まらない。そう、誰かが止めなければ。

「まったく、君は僕を助けてくれたときも無茶をしたね…でも、君の無茶は無駄にはならないよ。」

氷竜ファフニールが、龍斗を止めるべく参戦する。

「貴殿はその為にファフニールにお願いをしたわけだ…我もいければよかったが……」

リンドヴルムがいる白の塔から竜宮城までそこそこ距離がある。暴走した自分を助けてもらうには時間がかかるので、龍斗はファフニールに自分を止める様お願いしたのだった。

「ガアァァ!」

龍斗はファフニールに襲い掛かるが、ファフニールは無効化の能力でダメージは無い。

「君には助けられた…それに、できる範囲で助力するって約束したしね。」

ファフニールは反撃する。龍斗からの攻撃は無効化できる為、捨て身で殴る。

「グガアァ!?」

「さぁ、眠るがいい。氷の中で…【マスターズ・フリージング】!」

ファフニールは龍斗を岩まで殴り飛ばし、氷の魔法を詠唱する。その魔法により、龍斗は氷漬けになった。

「しばらく彼をここに閉じ込める必要があるが、構わないかな?お友達さん?」

ファフニールはマーリン達に問いかける。

「龍ちゃんは、元に戻るんだよね?」

「あぁ、その為にしばらくこのままにしておく必要があるんだよね。」

彼を助けるため、しばらく龍斗を氷漬けにしておくことをマーリンは了承する。

「龍ちゃん、戻ってきてね。大好き…」

そういうと、彼が閉じ込められている氷の近くで一緒に眠るのだった。


…氷漬けから半日、氷の中でバーストモードを維持していた龍斗は変身が解けて、人間の姿に戻った。

「こんなとこかな…」

その様子を伺っていたファフニールは、氷の檻を開放する。

「龍ちゃん!」

「龍斗様!」

龍斗はまたも意識を失って目を覚まさない。二人は龍斗を揺さぶったりして無理やり起こそうとするが、その二人をファフニールが止める。

「おちつきなさい!彼は私達『竜王』の力を受け継いでいるのです。しばらく安静にすれば回復するでしょう。」

「しかし龍斗は人間なのだから我ら竜王と比べれば完治に多少は時間がかかるかもしれんがな。」

「…分かった。でも、面倒を見るぐらいは問題ないよね?」

「勿論だとも。」

リンドヴルムとファフニールの言葉に、二人は落ち着きを取り戻す。その後、意識を失った龍斗を竜宮城の病室へ運び込み、傷の治りを早めるべく回復魔法で可能な限りの処置が施された。クラーケン、もといオクタロスは王子の身分を剥奪され、竜宮城内の牢に閉じ込められた。そして竜宮城破壊騒ぎがあってから5日が過ぎた頃…

「そろそろ目覚める頃かな?」

「我らの場合なら2日あれば回復する程度の怪我であったがな。しかし、ファフニールを助けてから3日の休憩があったにしろ、バーストモードを発動するとはな。中々に無茶をするやつだ。」

「しかし、そこが彼の魅力なんじゃないかな?」

リンドヴルムとファフニールがモニター越しで龍斗を見守る。

「龍ちゃん…約束、ちゃんと守ってね?その為になんとしても起きてもらうんだから!」

「姫様!騒いではなりません!」

「…うぅ」

龍斗は周りの騒がしさに耐えきれなかったのか、意識を取り戻す。

「俺は、いったい…」

「そのセリフはデジャヴかな?これで君の口から聞いたのは二回目だね。」

「貴殿はバーストモードを発動してから体力を消耗し、変身が解けた後気を失ったのだ。」

「龍ちゃん!」

マーリンは目覚めた龍斗に抱きつく。

「約束…守ってもらうんだからね?」

「…あぁ、外の世界を知りたいだったな。覚えている。傷が完治したら…一緒に旅しような?」

「龍ちゃん…」

マーリンは頬に涙を流しながら「うん…」と答える。

「儂もおとも致したいのですが、この老骨がいるといざというときに邪魔になりましょう。姫様、お気をつけて。行かれる際は『き・ち・ん・と』ポセイドン様に事情をお伝えするのです。」

「ぎく!わ、分かってるよー。」

そんな二人のやり取りに、いつの間にか病室に笑いが起きる。こんな幸せな日々がずっと続けばいいなと思いながら、龍斗は自分の使命を成功させる為に決意を新たにするのだった。


【第7話~第12話(第一期最終回)まで】に続く。

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