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【プロローグ~第2話の最後まで】

みなさんは都市伝説をご存じだろうか?

都市伝説とは、みなさんが知っての通り『こっくりさん』『ひとりかくれんぼ』といった肝試しの総称の事である。

そして、それぞれルールが存在しており、破ると霊に取りつかれたり、呪われたりしてしまうと言われている。

その中の一つ、神隠しとは、よくある都市伝説であり、『人間がある日忽然と消え失せる』というものである。

俺たちはその神隠しがある神社に肝試しという目的でやってきた。夏休みの思い出として…

~プロローグ~ いつもの日常から…



 東京都のとある高校の日常。いつも通り平和で、にぎやかな毎日が続く。外ではセミが夏が来たことを告げる様に鳴き、太陽が辺り一面を照り付ける。

そんな日照りの中、彼は二人の親友と雑談しながら帰り道を歩く。

「はぁ、今日も暑いなぁ…」

 そうつぶやく身長が高い彼に「天気予報だと最高で32℃らしいからね…」と眼鏡を掛けた少年は答える。

「今日も龍斗の家でゲームしようぜ。何する?いつも通りスラブラでもするか?」

 龍斗と呼ばれた少年は、黒い後ろ髪をなびかせながら「別にいいよ。ハードだけ持ってきてくれれば。」と答える。

龍斗…【飛戟 龍斗】という名前の少年(主人公)は、物心がついた頃からゲームに没頭しているゲーマーだ。アクションやパズルなど、ゲームのジャンルは数知れずプレイして全クリを最短で果たしてしまう、ある意味での才能を持っている少年である。黒い前髪は短めで揃えてあるが、後ろ髪が肩まで下ろされている。身長167㎝、体重44kgとぱっと見だと女の子と間違われそうな体つきの少年だ。顔のつくりも女の子みたいで鼻は小さく、大きな黒い目をしている。

 ちなみにスラブラというのは、スラッシュブラスターズの略でプレイヤー同士で戦い、競い合うゲームだ。最近はVR体験できるハードに対応したソフトができたため、夢の中のゲーム空間で戦える正に夢の様なゲームである。龍斗はそのゲームにはまりだしてから一気にランクを上げ、今は日本で一位を誇る最強のプレイヤーになったのだった。

「分かったよ。帝もそれで問題無いよね?」

背が高い青年は「異論はない。」と返事をする。

帝…【勇凪 帝】は校内で一番運動神経がいいアスリートで、陸上競技全種目トップ・野球やサッカーなどのスポーツにおいても多を寄せ付けないほどの実力者である。身長175cm、体重55kgの高身長で且つ痩せマッチョの彼は凄く女子受けが良い男である。黒い髪は少しだけ短めだがワックスで立たせていた。目はキリッとしていてルビーの様な赤色をしている。

帝は眼鏡を掛けた少年に「なんかお菓子とか持ってくるか?」と尋ねる。

「うーん、俺はポテチ持っていくけど?」

「大和はお菓子の話になるといつもポテチだよな。」

龍斗は彼の言葉に笑いながら突っ込む。

大和…【神崎 大和】は校内で最も成績優秀で、全ての教科の点数はいつも100点である。それだけでなく、戦略ゲーム等の頭脳戦において彼に勝ったプレイヤーは一人をおいて他にいない程である。身長は155cmと低めで中学生と間違われやすいところを本人は凄く気にしている。体重は38kg、髪は黒で短めに揃えてあり、目の色はエメラルドの様な緑色である。

「しっかし、現実の能力を引き継げるというアドバンテージがあるにも関わらず、龍斗にだけは1勝もできないんだよな…」

「チートかと思ったけど、そうでもないんだよね。戦略ゲームで負けてから何度も試行錯誤を重ねてはいるけど、それでも勝てないんだよね。」

 帝と大和は龍斗に賞賛を送る。VR体験型ハードのゲームはすべて現実でのステータスを引き継ぐため、彼らの運動神経や戦略といったアドバンテージもゲームに生かされるのだが、そんな彼らでも龍斗に一回も勝ったことが無かった。ちなみにではあるが、大和が戦略ゲームで負けた相手というのは龍斗の事である。

「二人だってランキング二位と三位をキープしてるじゃん?」

 龍斗は二人を励まそうとするが、「ランキング一位に言われても何の励みにもならないよ。」と二人は更に意気消沈してしまう。しかし……

「でも、追いかけたくなる奴が見つかって俺は嬉しかったよ!」

「確かに。自称だけど、天才の僕に勝てる人なんていないって思えてたからね。龍斗に会う前までは。」

そんな二人の顔にはやる気と意思を感じるほどに満ち溢ていた。運動神経抜群の天才と、学問戦略の天才である彼らにはそれまで目標は無かった。目指す場所も、追いかける術を忘れて二人はずっと立ち止まっていた。そんな二人に龍斗が「ゲームしようぜ!」と誘ったのが、彼らの始まりだった。

ゲームにおいて、龍斗は天才の二人に負けることは一度も無かった。その圧倒的な壁を見せられた二人は、その壁を乗り越えようという目標を持ち始めた。

今まで目標が無かった彼らに、ゲームを誘う前と比べると笑顔とやる気が増えたのは何よりの進歩である。

そんな会話の中、三人は分かれ道でいったん別れ、龍斗の家で合流してゲームをするのであった。そして、ゲームをやり始めて数時間が経過した頃…

「にしても、今年が俺達にとって最後の夏休みになるんだな。」

「そうだね、最後の夏休みは夏っぽいことをして終わらせたいね。」

 帝のつぶやいた事に大和が答える。ゲーム空間の中で三人は高校生活の中でインパクトがある思い出が無いことを、このとき初めて知った。

そもそも、三人が知り合ったのは高校三年の初めにクラス替えがあってからの為、それらしい思い出はこれまでに一つもなかったのである。

「夏と言えば、川や海、夏祭り…」

 帝が言葉を並べていくが、「鉄板イベントすぎるよね…」と大和が否定する。

「えっと、だったら【肝試し】とかは?」

 龍斗の意見に二人は「鉄板だけど、賛成!」と返事をする。その後、ゲームをしながら肝試しスポットについて三人は計画を立て、そして次の日の夜に肝試しは決行されるのだった……


「ここの神社のある時間に鳥居をくぐると神隠しに合うみたいだぜ。」

「そんな事、あるわけないだろうけどね…。」

 帝の言葉に龍斗は幽霊を信じない人のように答えた。

「0時00分ジャストに鳥居をくぐればいいんだよね。」

 肝試しの内容を大和は付け足すように説明を加えた。

「今が23:59だから…そろそろだな。準備はいいか?龍斗、帝。」

 大和の言葉に龍斗と帝はうなずく。

「カウント10秒前…5,4,3,2,1…今だ!」

 三人はタイミングを合わせて鳥居に飛び込んだその時…


…あれ?

「大和?帝?」


龍斗は知らない空間で一人になっていた。



~第一話~異世界生活の始まり



「ようこそ、えっと、あなた達からすると異世界?ですね。」

すると、急に目の前に水色の髪と瞳をした女性が現れた。

「あなたは?」

「私は【ウルルミス】。この世界…〖グランディア〗に十人存在する神様の一人です。」

「か、神様!?」

 龍斗は当然のように驚く。

「あなたは…龍斗様ですね?」

「なぜ俺の名前を?」

「神様ですから。」

 女神ウルルミスは当然のように答える。

「へぇ…あ!そういえば!」

 龍斗は思い出したように、女神に親友がどうなったか尋ねる。

「俺の他に二人来たと思うんですけど…ご存じでしょうか?」

「あなたの友達ですよね?他の神から今のあなたのように話を伺っていると思います。」

「ということは無事なんですね?」

 ウルルミスは頷く。

「ところで、俺たちが試そうとした肝試しは”神隠しに会う”という内容なんだけど、なぜグランディア?というこの世界に招かれたのでしょうか?」

 二人の安否を確認したところで、龍斗はここまでの成り行きをウルルミスに伝える。

「はい。その噂話は意図的にあなた方にお教えしました。これしか方法は無かったので。」

「意図的、ですか。つまり、この噂話は俺たち三人にしか知らないということですよね。」

 ウルルミスは「半分あたりですね。」と答える。

「実をいうと、あなた方以外にも何人かこの世界に召喚したのです。あなた方が知っている【都市伝説】を利用して。」

 つまり、龍斗たちの世界で”神隠しや、心霊体験により人が消えたという事例がある都市伝説”は、この召喚が原因だったということである。

「なるほど。もしかして、それって人数を絞ってこの世界に召喚しているってことになりますよね。」

「はい。このグランディアでは才能が無い人が生き残るほど甘い世界ではありません。体力、知識、他には忍耐力など、〖誰かと比べてずば抜けた才能を持った人たちを選んで都市伝説に関する噂話〗を流していました。」

 龍斗はウルルミスの言葉に納得はしたが、今述べた”才能”に関して疑問に思うことが一つだけあった。

「その理屈で言うと、帝と大和がこの世界に召喚される理由は大いにある訳ですよね。」

「そうですね。彼らの内の一人は体力がずば抜けていますし、もう一人の眼鏡の人は知識も豊富そうです。」

「それだったら、俺はなぜここにいるんですか?ゲームならともかく、現実リアルだと貧弱でなんの才能も無いですよ?」

 自分で言ってて悲しくなるが、実際そのとおりであることと純粋に疑問に思った事なので、仕方ないのである。

「龍斗様はその〖ゲーム〗というもの、で先ほど申し上げた二人に圧勝されていたではないですか?」

「まぁ、確かにそうなんだけど…。」

 龍斗はとりあえず”自分達三人”がこの世界に来てしまった訳を理解した。

「さて、ここから本題といいますか、あなた方に一つお願いがあります。」

 ここまでの経緯を話して龍斗が理解したところで、ウルルミスが彼らを召喚した理由を話す。

「この世界は人間と魔族が対立した世界です。」

「魔族がいるんですか?」

「はい、魔族といっても人と同じように感情を持って暮らしています。」

「”魔族が人と同じ感情を持つ”か。」

「あと、人間と魔族には様々な種族がいます。まず、人にはエルフ・ビースト・マーメイド・妖精などなど、亜人も含めると色々な種類がいます。」

(俺の世界のファンタジー小説や異世界アニメによくある感じだな…)

「魔族の方にはサキュバス・オーガ・ヴァンパイアなどがいます。」

(こちらに関しても聞いたことあるし、イメージもできるな)

「ところで、この世界の話とお願いがどう繋がるんですか?」

「あなたには、この人間と魔族が対立した世界の中立的な立場になってもらいたいと思っています」

「というと?」

「魔族と人のどちらかが戦争を始める動きがあったら止めてほしいと思っています」

「つまり、どちらかが喧嘩を始めようとしたら妨害すればいいんだな?」

 ウルルミスは頷く。

「龍斗様、こんなことを頼めるのはあなたがたしかいないのです。どうか、人と魔族が戦争を始めないように助力願えないでしょうか?」

「そんなお願いをするということは、神様は世界に干渉できないという解釈でいいんですよね。」

「はい、見守ることと助言することしか…」

 龍斗はそれを聞くと「わかった、俺にできる限りのことはやってみるよ。」と言って、笑顔を見せる。

「感謝します、龍斗様。」

 ウルルミスは一礼した後、笑顔を見せる。

「ちなみなんですが、先ほど「才能が無くても生き残れる程甘い世界じゃない」って言いましたよね?このままだと俺すぐに死んじゃうと思うんですけど…」

「もちろん、そのことについては『考え』があります」

 そういうとウルルミスは龍斗の足元に魔法陣らしきものを展開する。

「いまから、その『考え』がある場所に転送します。ご武運を。」

 こうして、龍斗は異世界に召喚されるのだった。そして……


「こ、ここは。」

 ウルルミスの魔法陣によって空間移動させられた龍斗の前には高い塔がそびえたっていた。周りには草木が生い茂っていて、この塔は草原の真ん中にドーンと立っているような感じなのだろうか。

「龍斗様、聞こえますか?私です。ウルルミスです。」

「はい、聞こえます。ウルルミス様。」

「ここが先ほど話していた”考え”がある場所です。」

「この塔がですか?」

 ウルルミスは「はい。」と答える。

「ここを登れと…」

 龍斗は苦虫をかみつぶした顔をしながら見上げる。

「誰だ?貴様は。」

「我々よりも先に先客がいたとはな。」

 呆気にとられている彼の前に、見た感じ四人一組のパーティが彼の前に現れる。

「えっと、あなたたちは?」

「見ての通り、俺たちはこの塔を攻略しに来たわけだが…貴様もその口か?」

 龍斗は「まぁ、はい。」と答える。この塔はどうやら選ばれたものしか女神の言う考えを会得できない模様。そして、その場にいるのは龍斗と強そうなパーティーが一組いる状況である。つまり…

「俺たちと決闘しろ!勝ったら先に塔に登れる権利を得るということにする!」

「まぁ、だよな…」

 なんとなく察しやすいお約束である。しかし、戦う術を龍斗は持っていないので逃げることしかできない。龍斗は彼らから逃げるために塔の中に入るが……

「これは…」

 目の前に溶岩が広がり、その中に何本か柱が立っていた。

「ここを進めと…一階目でこれだと命がいくらあっても足りないよ…」

 意気消沈している彼を追い詰めるように「まてぇ!」と先ほどのパーティが追いかけてくる。

「行くしかないか。」

 龍斗は意を決すると溶岩にそびえる柱から柱へひょいひょいっと渡っていく。

「これで最後、と。」

そして向かい側まで渡り終える。その間、約三十秒ほど。

「は、早い!」

「じゃあ、お先に失礼するよ。」

 龍斗はそう言い残すと先進んでいく。その道中で気になることがあった。

「追いかけられた時もだけど、なんか俺の動きおかしくない?」

 龍斗は異世界に来る前まで、自分でも自覚するほど身体能力が低かったはずである。しかし、一本柱を乗り継いでいくときも、気づいたころには既に渡り終えていた。異世界に来る前の身体能力と比較すると、一目瞭然であった。

「これは、スラブラで培ったステータスが引き継がれているのか?」

 もしそうならば、この世界はゲームの世界のはずである。しかし、ゲーム空間特有のふわふわした感覚が無いので、ゲームの世界でもないのかもしれない。

「ウルルミス様。この世界は、ゲームの世界とは違うのか?」

 ウルルミスに尋ねてみるが、「ゲームの世界とは全く別だと思います。」という答えが返ってきただけだった。

「まぁ、そうだよな……」

 この世界の仕組みについては圧倒的に情報不足である。龍斗は(まぁ、そのうち分かるか。)と考えながら室内の階段を上がり、二階へ到着する。

「ここが二階か…殺風景だな」

 辺りには何もない。装飾品も、目に見える罠も、敵すら出てこない部屋で、辺りには砂地が広がっていた。

「まぁ、これは地雷原だろうな。」

 龍斗はゲームの経験で予想するが、実際には違った。

「グオォォ!」

 砂場から蛇の様な姿をした、巨大なモンスターが出現した。その巨体は部屋の天井まで届きそうで、口にはかすっただけで大ケガを負ってしまうような牙がはえていた。

「手ぶらでどう戦えと……」

 仕方ないので、龍斗はとりあえずスマブラの時の感覚でモンスターを殴って様子を見ることにしようと考えた。

「グアァァ!」

 モンスターが突進してきたところを躱して、攻撃を繰り出す。

「これでも…くらえぇぇ!」

 第三者からは一見、普通のパンチに見える攻撃ではあるのだが…

「グオォォ…」

 どうやら会心の一撃だったらしく、ワンパンでモンスターは倒れてしまった。

「あ、あれ?呆気ないけど、これで終わりなのか?」

 龍斗は拍子抜けた声を出す。とりあえず、これで二階は終わりの様で、三階に向かう扉が開いた。その後も三階…四階と部屋をクリアして階段を上がっていくが、特に問題もなく進むことができた。

「やっぱり、ゲームのステータスが引き継がれているのだろうか。ゲームではない現実の俺ならここに来るまでの間でたぶん死んでいるだろうし。」

 そうこうしている間に、外につながる扉の前にたどり着いた。扉の隣に置いてある看板にはご丁寧に〖試練の間三十階 出口〗と書いてある。

「ここを出れば終わりかな?」

 そう思いながら試練の間の出口を超えるとその先には…

「ここからは我が貴殿を見定めてやろう。」

 空から声が聞こえたと思って見上げると、白い竜が目の前に姿を現した。

「こ、これは…」

「さぁ、我の攻撃を躱しながら最上階まで来るがいい。」

 塔の外側には螺旋状に階段が続いていた。それを昇っていけということらしい。

「まじかよ…もうヘトヘトなのに。」

 そんなことをつぶやく龍斗の言葉に白い竜が耳を傾けるわけもなく、せっせとブレスを吐き出す準備をする。そして口元に溜まった光は、龍斗に目掛けて放たれた。

「危ねぇ!」

 何とか紙一重で躱す。が、その衝撃によって出口が落盤で塞がれてしまった。

「登るしかねえか。」

 逃げ道は落盤で塞がれてしまったので、意を決して龍斗は白い竜の攻撃を躱しながら長い階段を駆け上がっていく。

「流石、三十階まで登りつめただけはあるな。」

「これで妨害が無ければ余裕なんだがなぁ…」

 白い竜に軽口を叩きながら階段を上っていくが、龍斗の体力は消耗しきっていて、光のブレスを避けるのも一苦労だった。そんなこんながあって、龍斗は何とか最上階まで無事にたどり着いた。

「よくぞ、我の試練を乗り越えた。」

 白い竜が龍斗に話しかけると同時に、先ほど登って来た階段は崩れて無くなってしまった。もう後戻りはできない。

「これで試練は終わりなのか?」

「いや、ここからが最後の試練だ、我を屈服させてみせよ。」

 そう言うと白い竜は、戦闘態勢をとる。

「まじか、そろそろ限界なんだがなぁ。」

 龍斗も戦闘態勢を整える。しかし、体力的には圧倒的に不利な状況で勝てる見込みも無いかも知れない。

「ところで、武器は持ってきてないのか?」

 ふと気づいた竜は、龍斗の手に何もないことに気付く。そこで龍斗は「あぁ、召喚されたばかりで、木の棒一本すら持ってないぞ。」と普通に答えた。

「丸腰できたのか!?貴殿はどうやってここまで登りつめた?」

「ただがむしゃらに進んできただけだ。」

 彼はここまでの事情を話す。

「さっきこの世界に召喚されたばかりで目の前に塔があって…女神様はここが戦争を止めるための『考え』と言っていた。」

「召喚されたばかりということは、ほぼレベル1のはずだが…なぜ攻略できたのだ。」

「俺にもよくわからん。」

「貴殿のステータスを見せてもらえないか?」

「どうすればいい?」

「〖ステータス表示〗もしくは〖パラメータ表示〗と言えば表示される。」

「了解。それでは…」

 彼は「ごほん。」と咳払いし、竜に言われたとおりにしてみる。

「ステータス表示。」

 そう言った彼の前には、たくさんの数字とアルファベットが表示された。

「オール1500以上…だと。」

「あの、女神様…これってすごいんですか?」

「この世界では強さを〖レベル〗で表示します。そのステータスは平均レベル80ぐらいでなるのが基本ですが…」

 それを聞いて彼は竜が驚いた意味に納得した。ちなみにレベルの欄を見ると、レベル5になっていた。おそらく、塔を上っている最中でレベルが少しだけ上がったのだろう。

「…これはスキルか?【神速】…?【フェイント……】?」

 龍斗がボソッと呟く。白い竜は「どうした?」と聞くが、龍斗は「何でもない。」と答える。

「仕方ないな。剣だけでも支給してやる。ちょっとまってろ。」

 そういうと、竜の手のひらに光が集まっていく。光は次第に形を変えていき、一本の剣になった。

「こんなものだろう。」

「ありがと。これで戦える。」

 竜は剣を龍斗に渡す。それと同時に二人は戦闘態勢のまま距離を取る。

「では、最後の試練をはじめる!貴殿のタイミングでいいぞ。」

「了解。じゃあ…」

 そういうと龍斗は剣を構え。

「いくぜ!」

 剣を振りかぶって竜に突撃する。

「はあぁ!」

 龍斗の斬撃を竜は腕で防ぐ。

「こんなもんか?試練を超えた勇者にしては貧弱すぎないか?」

「あいにく、俺は勇者でも正義のヒーローでもないからな。あと、ここまでの道のりでヘトヘトだし……普通、RPGゲームならセーブポイントぐらいあってもいい場面なのに…」

 文句をいいながら竜の腕を弾きながら距離を取り、龍斗は再び剣を構える。

「せぇやぁぁ!」

 剣を振りかぶり、またもや突撃する。

「また同じことをして何の意味がある?」

 竜は躱すが、勿論この状況は彼の読み通り。

「ここ!」

 しかし、竜もこの展開を予知し反撃する。龍斗の剣と竜の爪がジリジリと音を立てる。

「なかなかやるではないか。」

「まぁ、こんな子供騙しに引っかかる訳無いよな。」

 お互いに攻撃を利用して距離を取る。

「しかし、こんなものでは我を屈服させることは叶わんぞ?」

「もう体力が限界だからなぁ、そろそろ決めないと負けそうだ…」

「棄権するか?」

 竜の問いに龍斗は首を横に振る。

「まさか、ここまできて諦めたりしないよ。それに…」

 龍斗の覚悟の表れなのか、彼の周囲の空気に異変が起きる。

「約束は守りたい。この世界では絶対に争いは起こさせない!」

 白いオーラを出しながら、龍斗は剣を前に突き出す構えを取る。

「気迫か?よく分からんが何か重みを感じる…しかし!」

 竜は笑みを浮かべると攻撃をわざと受けるべく、身構える。

「いいだろう!その攻撃、受け止めてやる!!」

 彼の気迫が最大に溜まったその時…

「【神速】!!」

 彼は光の速さで、竜の懐まで飛びこむ。

「せぇやぁぁぁぁ!!!!」

 龍斗の剣が、竜の足に吸い込まれる。

「こんなもの…」

 竜は剣を弾くべく、爪を下からすくい上げる様にして攻撃するが…

「【フェイント…」

 龍斗は竜の攻撃を利用して宙に舞う。そして…

「スラッシュ】!!」

「見事だ…」

 剣は竜の角を切り離す。落ちた角は着地した龍斗の足元に転がっていく。

「はぁ…はぁ…」

 龍斗は攻撃の反動と、これまでの疲労により動くことができなかった。「はーっ、はーっ、」と大の字に横たわって息を荒げる龍斗の前で、竜は口を開く。

「最後の試練…合格だ…」

「嘘じゃないよな?流石に。」

「竜王が嘘を言うと思うか?」

 彼は竜の言葉に安堵して、大きく息を吸い込むと…

「よっしゃーー!!!」

 倒れたまま、龍斗は叫ぶ。彼の喜びの声は天に届く勢いで響いていくのであった。

「さぁ、ここから例の”考え”について話させてもらうが…」

 白い竜は本題について語ろうとした矢先、龍斗は安心したような顔で目を瞑っていた。

「まぁ、ここまで頑張ったんだし、休憩も必要か…」

 竜は彼を優しい目で見降ろしながら「お疲れ様…よくやったな、龍斗。」と言うと、竜自身も傷ついた体を癒すために、目を瞑って休息を取るのであった。


一方、その頃…


「た、助けてくれぇ…」

 例の四人パーティは一階目の溶岩の柱の上で命乞いをしていたのだった。




~第二話 『光の竜王』~




「う、ううん…」

 彼が目を覚ましたのは戦闘が終わってから丸一日過ぎた後だった。

「起きましたか。」

「やっと起きたか。」

 女神ウルルミスと竜の声が同時に聞こえる。

「えっと…あの後どうなったの?」

「あなたが休憩した後は、特に何もありませんでした。」

「ウルルミス様が言っていた”考え”について話していたところだったぞ。」

 龍斗は起き上がると「考えって例の?」と尋ねる。

「そう、例の考え…【竜化】についてだ。」

「竜化?」

「竜化…そのままの意味で竜に変身する事を意味する。ウルルミス様の考えがこの事なのだ。」

「竜に変身…て、俺が!?」

 ウルルミスが「はい。」と肯定する。

「確かに、あなたが言った通り生身だと戦争を止めようにも無理があります。」

「生身で戦車に突っ込む阿保は流石にいないしな。」

 ウルルミスの言葉にリンドヴルムも同意する。

「さっきの戦闘で分かったと思いますが、竜の体なら鋭い剣でも傷一つ付きません。その気になれば、大砲をまともに食らっても平気なぐらいです。」

「そこまで丈夫なの!?」

 白い竜は「竜化を極めれば更なる力を得ることも可能だからな。」と言う。

「確かに、竜化できれば戦争の阻止に役立つし、誰かを助けることもできるね。」

「それにモンスターとの戦いにも使えると思います。」

「モンスターもいるの?」

「我も一応”モンスター”の類であるがな。」

 新たに、この世界では”モンスター”がいるという情報を入手した。更にゲームの様なファンタジー感に龍斗は心を躍らせる。

「まぁ、普通に考えればそうか。」

そして、彼は竜化することを決意する。

「分かった、俺はどうすればいいの?」

「さっき我の角を折っただろう?それを使うのだ。」

「どうやって使うの?」

「その角を心の中に収めるのだ、魔法を使ってな。」

「そっか、魔法がある世界だからそんなこともできるのか。」

「では、こう唱えるのだ…我の言葉を復唱せよ。」

「分かった。」

 竜は息を吸うと…

「我、汝の主に変化(へんげ)するもの…竜の肉体、力を我に記せ…【ドラゴンズオリジン】!」

と言う。それに続き、龍斗も魔法を唱える。

「我、汝の主に変化(へんげ)するもの…竜の肉体、力を我に記せ…【ドラゴンズオリジン】!」

そう唱えると、竜の角が龍斗の胸に吸い込まれ、彼の体が光に包まれる。

「よし、成功だ…」

光が収まるとそこには白い竜が現れる。

「自分の体を見てみろ、龍斗」

 彼は竜が用意した鏡を見ると…

「こ、これが俺?」

目の前には白い竜になった自分がいた。

「これが〖竜化〗だ。今回は我の角を触媒にして変身したので、我と同じ姿になったのだ。」

「それって見た目だけが変わるなんて事は無いよな?さっきの話の通りだと。」

「勿論、パラメーターを確認してみると分かるが、人の状態より格段に強くなる。それだけでなく、我の能力も使える。」

 龍斗はパラメーターを確認するとオール1500以上のパラメーターはオール15000以上になっていた。

「なるほどね。」

「そして、我の能力を使いこなせば鬼に金棒。正に敵無しということだ。」

ちなみに言うと、先ほどのスキルに加えて【シャイニング・ブレイザー】というスキルが追加されていた。おそらく、白い竜の技の一つなのだろうと龍斗は思った。

そして、竜は「まずは我の能力について教える。」と自分の能力について説明する。

「我の能力は【具現化】だ、光を物質に変化させることができる。」

「さっきの剣みたいな感じか。」

竜は「うむ。」と答える。

「ちなみに、これまでの攻撃で分かると思うが我の属性は光だ。闇の力に対して有利になる。」

「確かに。俺を攻撃したときは光を集積させたブレスの様だったし。」

 階段を駆け上がっていた時の攻撃を思い出しながら龍斗はつぶやく。

「じゃあ光を具現化させる練習をしないと…」

「だが、そうも言ってられないようだ…」

 竜はモニターを出すと、悪魔の様な見た目の女の子2人が1人の人間の男に襲われている場面が映し出される。その場所は…

「もしかして、この真下!?」

近くにはさっき登っていた〖白い塔〗と同一のものと思われる塔があった。

「ウルルミス様からも聞かされているだろう?この世界のありようを…」

「…あぁ、この争いを無くしたい…そして、種族関係なく手を取り合える世界にしたい…だから…」

 龍斗は決意を固めると、「彼女たちを助ける!絶対に死なせない!!」と叫んで塔を飛び降りた。

「龍斗に力を託して正解だったな…」

「私はもともと信じていましたから…」

 そんな彼を白い竜と女神様は優しく見守る。


…そして、塔の根元にて彼女たちは襲われていた。そんな彼女たちを追い詰める様に人間の男は殺意をむき出しにする。

「誰か、助けて!」

「魔族は根絶やしにしてやる!」

人間の男は二人の女の子に剣を突きつけながら追いかける。

「きゃあ!」

女の子が転んだ隙に男は剣を振りかぶり…

「死ねぇ、魔族!」

「サレン!」

「させるかぁ!!」

女の子に向けて振り下ろされた剣は白い竜の腕に阻まれる。

「下がってて!」

 龍斗は姉妹と思われる二人に指示し、男を睨みつける。

「俺の邪魔をするな!貴様も殺してやる!」

「何があったかは分からない。でも、ここで彼女たちが殺されるのを見過ごすことはできない!」

彼の手に光が集まり、剣が現れる。

「大地を砕け!【シャイニングブレイザー】!!」

ズドォン!という音と共に目の前地面に亀裂が走る。

「俺は、この世界を…みんなを守るために…助けるためにここにいるんだから…。」

衝撃は男の横を通り過ぎていき、男は白目をむいて気絶していた。

「あの…助けてくれてありがとう。」

「間に合ってよかったよ、君たちは?」

感謝の言葉に答えつつ、龍斗は彼女たちに名前を聞く。

「私達は姉妹で、この子の姉のミレン・リリエル・レヴィアと申します。」

「妹のサレン・リリエル・レヴィアです。」

 二人の姿は龍斗が魔族をイメージした通りのものだった。頭には二本の角が生え、背中にはコウモリの様な翼が生えていた。おしりからは矢印みたいな尻尾が生えている。だが、肌は魔族ではなく人間といってもいいような肌色をしていた。そして、姉妹と主張することが当然と思うほど二人の顔も、髪型(髪の色も)も、ゴスロリの服も何もかもが似ていた。

違うことがあるとすれば目の色が違っていた。ミレンと名乗ったほうは赤色の目を。サレンと名乗ったほうは緑色の目をしている。取り敢えず言えることは、二人は目以外で区別がつかない程そっくりな姉妹であった。

身長は龍斗(人間状態)の腰辺りまでしかないことを考えると、おそらく子供であると予想できる。しかし、悪魔という存在は長寿命のイメージが有り、なかなか子供と同じ年齢だと断定することができない龍斗であった。

「あなたは何者ですか?」

「俺は龍斗。いろいろあってこの世界を守るために異世界から来たんだ。」

 ミレンの問いに、龍斗は(こういえば納得してくれるかな?)と思い話す。

「世界を?つまり勇者様ってことですか?」

「俺が勇者だったら君達を襲う側になっちゃうね…勿論、勇者じゃないよ。」

「ではあなたの目的はなんですか?」

ミレンの質問に龍斗は女神にお願いされたことを思い出して口を開く。

「人間族と魔族のいざこざを無くしたい。そして、人間と魔族が手をとりあえる世界にしたい…これが俺の目的なんだ。」

「そうなんですか。あなたにも目的があるのならお願いする訳には…」

「でもお姉ちゃん!」

「そういえば、君たちがどうしてここにいるのか聞いてなかったね。何があったの?」

龍斗の質問に、サレンがこの塔まで逃げてきた事情を話す。

「町で買い物をしていたら、知らない人たちが近づいてきてお母さんを連れていったんだ…『これは見世物になる』って。」

「ゲスにも程があるだろ…。もしかしてさっき君達を追いかけてたあいつも?」

「はい、お母さんをさらった人の仲間です。」

「こういう時は吐かせるのがベストなんだが…」

 龍斗は白目をむいて気絶している男を見て「あれじゃあなぁ…」とため息をつく。

「ちなみになんだけど、ミレンとサレンはその町まで案内できそう?」

「必死に走ってきたので道順は分かりません。でも町の名前は覚えています。確か…〖ファイトリアス〗です。」

その名前を聞いて女神は町の方角を龍斗に教える。

「ここから南西の方角にある町です。ここからそう遠くはありません。」

「分かった、南西だな。」

そういうと龍斗は準備運動を始める。

「あの…何しているんですか?」

「勿論、助けに行くに決まっているだろ?」

ミレンは「ほ、ほんとによろしいんですか!?」と言う。

「こんなの聞いたら見捨てられないよ。それに、誘拐とかの犯罪は俺の目的に反している訳だし…でも、俺は純粋にその人のことを助けたいと思っている。だって、君たちの『お母さん』なんだから。」

そういうと彼は二人を抱えて空を飛び…塔の頂上に戻ってきた。

「あのさ、あんたのところで匿ってくれないか?この子たちを連れて行く訳には行かない。」

二人を匿う様お願いしたら、白い竜は「別に構わんが…」と承諾してくれた。

「わ、私たちも行く!」

二人は付いていこうとするが、それを龍斗が止める。

「もしかしたら君達も狙われているかもしれないんだ…だからここで待っていて。大丈夫!必ず助けて、連れて帰ってくるから。」

二人は渋々頷く。

「じゃ、行ってくる!その前に…」

龍斗は白い竜に「まだ名前聞いてなかったね。あんたの名前は?」と聞く。

「我はリンドヴルム、皆からは、光竜王と呼ばれるものだ。」

「ありがとう、リンドヴルム…」

そういうと、龍斗は〖ファイトリアス〗にむけて竜化状態のまま飛んでいくのだった…


第3話~第6話に続く……。

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