込められなかった精いっぱいたち
今日であのピュアピュアカップルさんはめでたく一ヶ月記念日を迎える。
世のカップル同様イチャコラしながらきっと今日という一日を過ごすのだろう。
んでもって、隣でちょっぴり拗ねていらっしゃるのは、そんなラブラブなホワイトデーをこれから過ごすであろう俺の親友の彼女さん側の親友。…言葉にするとややこしいな。
「いーなぁなずちゃん。私もあんなふうにラブラブイチャイチャして帰りたいなぁー。まぁ、なずちゃんが幸せならいーんだけどね?いーんだけど〜…………」
「いーじゃん、しっかりお返しも貰ったことだし。まぁ既製品だけど」
「だまっとけ鳴瀬〜」
放課後、教室、捻くれ者が二人。
特に何を話すでもなく、お互いの相方が帰るのを見つめる。
少し日が長くなってきたから、丁度良く夕日に染まるのが今くらいの時間になった。
鈴見の茶色がかった柔らかそうな髪が、オレンジ色に透けて見える。
思わず向かいに座る鈴見に手をのばしかけて、止めた。
「なぁ、鈴見」
「なーに?」
「ほんとは拗ねてるの、春風が取られただけじゃないんじゃない?」
「…どーゆーこと?」
俺は本当は気づいている。
鈴見が切なそうに笑うのは、春風を取られた寂しさだけではないということに。
俺は知っている。
完璧すぎるお似合いな二人がいつかはくっつくとわかっていながら、それでも鈴見が
「失恋、お疲れ。ってこと」
燿を好きになってしまったことを。
「さっきからどうしたの?なーに?失恋とか?してな、ぃ…ょ」
鈴見が、泣いた。
俺は今一体何をしてしまったんだと、どうしようもない後悔で一杯になる。
泣かせたかったわけでも、傷つけたかったわけでもない。ただ、俺は、本音を隠すために笑うのを、止めてほしかっただけ。
何もかもを持っている春風の隣にいることで、鈴見は本音を隠すのが得意になったみたいだった。
春風に
「おめでとう」
と言うとき、一体どんな気持ちで鈴見はあんなに眩しく笑ったのだろう。
でも、本当は?
ありえないくらいの高揚感でぐちゃぐちゃになりそうな俺がいる。
本当は、
俺を見て。
って言いたかった。
ひどいことしてごめん。隠そうと強がる君を、放っておいてあげられなくてごめん。
「…っなんで?なんで…」
ごめん。
でも、最低ついでに最後にもう一つだけ。
「鈴見」
泣き崩れていた鈴見の目がぱっと開く。
「好きだよ」
教室、切ない片想いが、二つ。
もしかしたら、この後のお話または女の子目線書くかもしれません。
そのときはまたお付き合い頂けると跳んで喜びます。