彼女の朝 3
右をみれば、どこかの家の花壇が花で埋め尽くされ、左をみれば、ベランダで猫が朝から日光浴を楽しんでいる。そんなありきたりな風景なのに、いつもと違う道のりは、ただ歩いているだけで、彼女を特別な気持ちにさせる。
しばらく進むと、大きな街路樹の続く坂道が見えてきた。坂の中腹あたりには学校がある。彼女は学生の頃、毎日のようにこの坂道を通っていた。今は登校時間のようで、学校へ向かう生徒たちが、いくつものグループを作りながら歩いている。
「おはよ〜 ねぇ、昨日のアレ観た?」
「おっはー ちょっと聞いてくれよ〜」
朝からテンション高めな声がいくつも彼女を追い越して、学校の正門へと吸い込まれていく。そんな光景を懐かしい気持ちで眺めながら歩いていると、昔の友人のことが思い出された。
(私も毎朝、あの門の前で待っていたな。あの子は、今どうしているだろうか)
進学や就職を機に彼女のまわりの人間関係は変わっていき、以前の友人たちとは自然と疎遠になっていった。それぞれに環境の変化があるのだから、それも仕方のないことだと思ってこれまでは過ごしてきたけれど、もしかしたら、彼女の行動次第では周りも、自分自身も今とは違っていたのかもしれない。
そう思いなんとなくほろ苦い気持ちに浸りながら、坂を上り切ると、そこは、彼女の記憶中にある景色とは随分様変わりしていた。錆びたバス停や、人の出入りが全くなかった建物、荒れ放題の草地などは一切無く、そこには、テレで紹介されていた通り、明るく開けた公園の、のびのびとした景色が広がっていた。