父の気持ち
マックスは心臓の音が他の人にも聞こえているのではないかと心配だった。指定された場所で待っていたが、自分の身なりに変なところがないか、表情など自信なさげに見えないかと気もそぞろだった。
経済学の課題を提出した日、公爵からの呼び出しを受けた。マックスはまだ評価が返ってきていないのに…とタイミングの悪さを呪う。父親にも公爵にも自分の可能性を示すこともなく、話し合いの結果が通知されるのかと思うと悲しかった。また、自分たちの時間を割いて手伝ってくれたパトリック達にも申し訳なく思う。
指定された時間になると、執事が部屋に入るようマックスに促した。マックスはすぅと息を吸って扉を開く。中には威厳漂う公爵家当主と少し嬉しそうな顔をしている父親が待っていた。
(くそ…父様もいるなんて。最悪だぞ)
マックスは顔には出さなかったが、落胆した。あの様子だと今から候補生を辞める手続きを始める気だと判断したのだ。
「まぁ、座りなさい。君の父上と話したのだが…」
公爵は表情を変えることなく、じっとマックスを見つめた。マックスは最悪だ…と少し視線を逸らし、公爵の話を聞こうとする。
「君には候補生として勉学にこれからも励んで欲しい」
「わかりました。すぐ荷造りを…って…えっ!?」
マックスは目をまん丸として父親と公爵を交互に見た。公爵は片眉を上げて、何故辞めると思っているとマックスに目をやった。
「てっきり辞めるよう手続きをするのかと…」
何故突然話が変わったのかマックスは不思議だった。そして父親は何故妙に嬉しそうに見えるのか…。
「君の経済学の課題素晴らしかった。ボラム先生も面白いと良い評価を出していたが、グレンがわざわざ持ってきてくれたのだよ」
公爵はマックスが提出してくれたレポートを取り出した。マックスは驚きの表情で確認すると、確かに最高評価のAが目に入った。
「土魔法士は人を繋ぐ仕事だという表現は良いね。農業者、採掘や加工の職人、役人や貴族など様々な人と関わって仕事をしていく。その中での、新しい衣服の提案は面白い」
公爵のお眼鏡にかなったようでマックスはふぅと息を吐く。マックス達が考えたのは労働者の新しい作業服の提案だ。ユリアが以前指摘したように帝国の作業服は非常に選択肢が少なく、質も悪い。そこに目をつけ、様々な種類や値段の衣服を作り、帝国だけでなく隣国にまで輸出することを提案したのだ。魔法士は農業や職人、役人と関わる機会も多いため、実際に使う人々の意見を取り入れた衣服を作ることが出来るとマックスは考えた。公爵家の魔法士は特に土魔法士の管轄は広いため、より詳しく現場の意見を取り入れることが可能である。オーレン家は衣服に関するノウハウは国内でも群を抜いているため、勿論この取り組みに関わることを記述した。ユリア達もマックスの意見に対し素晴らしい、面白いと褒めてくれた。
しかし、これだけを見ると土魔法士の仕事とは離れているかもしれないとマックスは思っていた。しかし、グレンがこの提案を人と人とを繋ぐ土魔法士だからこそ可能であると記述してはどうかと提案してくれた。そのおかげで、ボラム先生の評価をかなり良かったのであろう。
「…マックス。そこまでお前が土魔法士を本気で目指しているとは正直思っていなかった」
今まで黙っていた父が初めて口を開いた。
「ヨルクが何処かに出かけて返って来なくなった今、お前も魔法士になって実家に戻らなくなってはどうしたら良いか分からなかった…。お前もてっきり家が嫌になって魔法士を目指すと言い出したのだと思い込んでいたのだ。すまない…」
父とは候補生になると決まった時から意見が合わず、話なんて全くしていなかった。2番目の兄のように家に帰って来なくなるという心配で候補生になるのを反対していたのかよ…。俺はそんな父に少し苛々したと同時に、話をしていれば良かったと後悔する。
「お父上もそういうわけで反対はしないようだ。マックスよ。これからも仲間と共に精進するように」
公爵は俺がなんとも言えない表情をしているのを見て、そう言って退出した。後は俺と父で話せということなのだろう。
「父様…。正直候補生をやめさせると聞いた時はショックでした。単に土魔法士を馬鹿にしているとだとてっきり思っていたのです。それに無理やり辞めたとしても絶対に兄の補佐になんてやりたくないと心に決めていました。今回結果的には残ることができましたが、今後は私の意見も聞いて判断するようお願いします」
久しぶりに話す父との会話は他人行儀に思えるだろうが、俺なりに寄り添ってみた形だ。意見が合わずお互い避けてきたから、そんな簡単に話なんてできないさと自分に言い訳をした。
「マックス…。すまなかったな。そもそも領地に残れだなんていう考えも悪いとお前の母からも口酸っぱく言われていたのだ。しかし、ヨルクの事もあって心配だったのだ。わかってくれ…」
いつも意地っ張りな父は少し困り顔になり、俺に謝った。俺は候補生として残れるだけで別に良いとだけ伝え、部屋を出た。
父との和解は完全ではなかったが、候補生としての日々が終わることはないと分かり安堵する。父とは手紙のやりとりでもっと自分の気持ちを伝えようと決めた。パトリック達にも感謝しなければな…と俺は寮に戻りながら、仲間とこれからも過ごせる喜びを噛み締めた。




