光の行先
ユリア達は公爵家に着くと、寮ではなく屋敷に連れられた。そして、医師の診断をそれぞれ受け、怪我はないか、精神的にダメージを受けていないか詳しく検査された。
その後パトリック達は寮に戻るよう伝えられたが、ユリアは残された。何故一人だけと疑問に思ったが、執事のヨーゼフがエルミー様がお待ちですと伝えたため、パトリック達も納得した様に戻っていく。
ユリアはヨーゼフの案内で部屋に通されたが、それはいつものエルミーの部屋ではなかった。そこは2階にある会議室で、部屋には公爵家当主とポポラ先生が待っていた。
エルミー様はいらっしゃらない…ユリアはぐるりと部屋を見渡し不安に思う。公爵とポポラ先生の様子を見るに、どうやらエルミー様からの呼び出しは嘘だとユリアは察した。
ユリアは公爵に椅子に座るよう促された。ユリアは不安な表情で座ると、背筋を正して説明を待った。
「ユリアよ。今日の出来事は災難であった。突然の魔物の出現とはいえ、我が領地内で候補生達に被害が及ぶところだった。まずは我々の救助が遅れたことを謝ろう」
そう言って公爵は詫びた。ユリアは勢いよくそんなことはありませんと首を振った。
「結果、私たちは無事なので何も問題はありません!魔物達が突然いなくなったのは不思議ですが…」
「突然…か。ポポラ先生、ユリアに説明を」
ユリアの言葉に公爵は片眉を上げると、ポポラ先生に視線をやった。
「あれは偶々運が良く魔物が消え去ったのではないのじゃ。おぬし、加護の力を使ったじゃろう?おぬしから溢れ出た白い光が魔物達を大人しくし、山へと帰らせたのじゃ。わしはこの目でその様子を全て見た」
ポポラ先生は信じられないじゃろうが事実じゃと付け加えた。ユリアは自分が加護の力を使ったことも知らなかったので、動揺する。目をパチクリさせてポポラ先生を見返すと、先生は困ったのぉと眉を下げて笑った。
「とにかく、ユリアの力によって魔物達が退散したのは事実のようだ。この事について、ユリアに忠告しなければならないのだ」
公爵の鋭い目線がユリアを射抜く。
「精霊の加護によって魔物が退くなど聞いたこともない。本来であるならば、国の然るべき機関に報告しなければならないが…そうするとユリア、君は確実に実験の道具にされるだろう」
公爵の言葉にユリアは顔を青くする。そんな何故…と公爵の方を見ると、魔物を従える力だと認識される可能性があるのだと告げられた。
「魔物を操ることが可能になれば、国の大きな戦力に成りうるだろう。そのためにもどの程度の力が扱えるか実験され、君は国の所有物として扱われるはずだ。考えすぎだと思うだろうが、それほど魔物に干渉する可能性がある力は慎重にならなければならぬ」
「そうじゃ。故におぬしは此処で誓ってほしい。今後許可なく魔物の前で祈りを捧ぐことをせぬと。また、この事を誰にも伝えてもならぬ。これはおぬしの身を守るためでもあるのじゃ」
ポポラ先生は今まで最も真剣な表情でユリアに語った。公爵とポポラ先生の説明を受け、ユリアは自分の力が恐ろしくなった。一見魔物を退治できる素晴らしい力かと思われるが、魔物に干渉できるという見方をすれば幾らでも悪用が出来るのだ。ユリアは絶対に約束を守りますと2人に誓った。
「ユリア、君は決して今日の約束を忘れてはならないよ。しかし、ユリアの力については秘密裏に調査する必要はある。われわれ2人の監修のもと、調べることもあるだろうが良いかね?」
ユリアはすぐに縦に頷いた。力の範囲や条件、魔物を操れるかどうかの明確な判断がされれば、自分の身の振り方も決まるだろう。それに単に魔物を退治する力であれば、人の役に立つことができる。公爵家であればユリアの人権を侵害する様な調査も行わないだろう。そのためユリアは快く受け入れた。
書面上でも契約を結び、ユリアは退出の許可を貰った。2人に深々と頭を下げて、ユリアは部屋を出る。部屋の外ではエルミーが心配そうに待っていた。
「ユリア…!」
エルミーはユリアを見た途端駆け寄って、抱きついてきた。エルミーは大丈夫だったのか、怖くなかったかとユリアを心配する。どうやら採掘場での魔物の事件は既に広まっている様だ。普段ならそこまで取り立てて魔物の噂は扱われないが、今回は公爵家の講師と候補生達も巻き込まれたのである。情報はいち早くエルミーの元に届いた様だ。
エルミーが泣きそうになりながら心配するのをユリアは宥めた。自分は特に怪我もしておらず、平気だったと説明する。しかし、エルミーは魔物に遭遇して大丈夫な筈ないわと聞かず、お父様にユリア達が屋敷外の学習の時は魔物を殲滅する部隊を必ずつけてもらうようお願いするわと主張する。
「エルミー様、本当に大丈夫だったのですよ。ご心配してくださって、私は嬉しくて魔物なんて忘れてしまいますよ!」
ユリアはそう言ってエルミーを抱きしめた。エルミーはユリアより背が高いので、ユリアはエルミーの肩に顔が触れる。
「そうなの…?私、心配で心配で…。ユリア!疲れているでしょうから、私の部屋で湯浴みをしてはどう?」
エルミーは侍女を呼ぶと、湯浴みとその後の食事の準備をする様伝えた。ユリアは魔物事件のせいで昼食を取れなかったため、お腹が減っていた。今日はエルミー様に甘えようと思い、素直に侍女達の案内に従った。
薔薇が浮かぶ湯に浸かりながら、ユリアは一人考え込んだ。自分の力について、魔物の恐ろしさについて。私の力が安全かつ有効と証明されれば、魔物に怯える人を救えるかもしれない…。でも、そうでなかったら…?戦争の道具に使われるかもしれない…。
ユリアは今後の事を予想して、少し気持ちが暗くなった。ブクブクと頭まで浸かってユリアは悩む。
ユリアの加護の力は救いになるのか…それは誰にも分からなかった。




