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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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防衛のルート

 次の日早速ユリアは新しい服に身を包んだ。今日は午後から実習はなく、1日座学だ。着替える必要も無いので、リリアンヌが褒めてくれたペールグリーンのワンピースを着用する。ユリアは新しい服が嬉しくて、何度も白い花の形をしたボタンをついつい触ってしまう。


「わぁ、ユリアさん素敵なワンピースだね」

 クルトがすぐに気づいて褒めてくれる。最近クルトとリゲルもユリア達の近くの席に座る様になった。ベリムス達が嫌がらせでクルト達の定位置を陣取っているからだ。リゲルはユリアをチラリと見ると、直ぐに小説の続きを読む。

 パトリック達もユリアの服を見て、似合っていると言ってくれた。テトはペールグリーンがお気に入りのハーブの色に似ていて素敵だと、独特な褒め方をしてくれる。ユリアは少し照れ気味でありがとうござますとお辞儀した。


 ざわざわしていた教室も講師が来たことで静かになった。政治学の先生は40代くらいの女性講師で、盲目である。いつも白い杖をついて来るが、まるで何もかも見えている様な動きをする。視覚が無い分、聴覚が発達しているのだと先生は以前説明した。20年前に失明したそうで、字は問題なく書ける。コノノ先生と呼ぶようにと初回の講義で、黒板に美しい文字を書いた時は、皆んな盲目なのか疑ったぐらいである。コノノ先生は、今日の講義では東部の貴族について説明すると告げた。


「東部の貴族でまず名前を思い浮かぶのは?どなたか意見はありまして?」

 おっとりとした声で辺りを見渡す。1番最初に声を上げた生徒の名前を呼び、答えるよう促す。先生は全ての生徒を声で認識しているようで、驚くべきことに複数人同時に話していても完璧に誰が話しているか分かるようだった。


「ルート伯爵家です。隣国との境を守る防衛に長けた領地です」

 コノノ先生はそうですねと穏やかに言うと、大まかに地図を書き始めた。


(ルート伯爵家って…サルラン先生のご実家!?)

 ユリアはサルラン先生が伯爵家の出だと知り、思わず背筋を伸ばした。サルラン先生は何も言わなかったが、どうして伯爵家の人間が孤児院の管理者をしていたのだろう…ユリアは心底不思議に思う。ユリア達の住んでいた場所はどちらかというと西部寄りだ。どうして遠いところで…と思ったが、何か事情があるのだろうと気づき、詮索は良くないと頭を振った。サルラン先生が教えてくれるまで尋ねるのはよそうとユリアは心に決める。好奇心は時折人を傷つけるとサルラン先生はいつも言っていたのだ。

 孤児院の経緯は知らなくていいが、サルラン先生のご実家の事は知っておくべきだろう。ユリアはそう思って授業に集中する。


「ルート家のご当主はゾルデック・ルート様、75歳でございます。素晴らしい剣技の持ち主で、ルート様の火属性戦闘魔法は四大魔法士に匹敵するほどだと有名ですわね。領地でも独自の騎士育成制度で、素晴らしい騎士達を輩出しております。また陛下への忠誠心も高く、陛下も一目置いておられます」

 コノノ先生はルート家の守る領地を丸で囲み、隣国との防衛ラインを書き込んでいった。


「隣国とは皆さんご存知の通り、和平を結んでおりますが、不届き者は僅かにいるものです。危険物の密輸者や罪人が入り込もうとしてくるのを、ルート家は守っておられます。しかし、隣国との間にある山から魔物も大量に降りて来るため、魔物討伐の方が主な仕事ですわね」

 ルート家の爵位を上げてはという話も度々出ているが、当主はお断りをしていると先生は説明した。


 ユリアはメモをしながら、ルート家は国内でも影響力のある貴族なのだと理解した。隣国との間の山から発生する魔物の数はどのくらいなのか気になり、ユリアは質問する。すると先生は毎月討伐部隊が出動しなければ、直ぐに東部は壊滅するほどだと説明してくれた。

 ユリアはそれを聞いて驚いた。ルート家だけではなく、国主導で行う案件なのでは…と思ったが、歴代ルート家は防衛ラインを守ってきたため、それが宿命なのだと率先して守っているのだよとパトリックがこっそり教えてくれた。

 魔物と隣り合わせの生活をサルラン先生はしてきたのか…とユリアは1人で考える。確かに魔物が森で出た時もサルラン先生は酷く冷静だった気がする。他の先生は慌てふためいて子供達を抱きしめていたが、サルラン先生は町の男達を呼びに急いで走っていた。

 

「では、次に近隣の領地を守る貴族について説明していきましょう」

 コノノ先生は次の話を始める。ユリアは新しい情報を逃してはいけないと直ぐに切り替えて、メモをとっていく。また覚えることが増えた…とユリアはノートを見返しながら、がっくりする。


「今日も情報量多かったね」

 クルトが眼鏡を外して、目をマッサージする。ユリアも真似をしてマッサージをして、机に伏せた。


「ユリア、そんなことで疲れていては次の応用数学は集中できなくてよ」

 リリアンヌは冷たく言ったが、ユリアの手に蜂蜜のキャンディーを乗せてくれた。


「おうよう…すうがく…」

 ユリアは飴を舐めながら、少し絶望する。甘い蜂蜜の香りが広がり少し元気にはなるが、教科書を準備していると、頭が痛くなる。

 今日はまだまだ講義はあるのだ。一つ一つ集中して取り組まなければ…とユリアは顔をパチンと叩くのであった。

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