それぞれの予定
「それで最近同じ服を着ているのね」
リリアンヌはユリアの袖を少しつまんで観察すると、やれやれと肩をすくめる。ユリアは服を買おうと思ったが、何処で買ったらいいか分からない。あまりお洒落もよく知らないので、煌びやかで服に詳しそうなリリアンヌに助言を貰おうと思ったのだ。
「正直わたくしが利用するブティックは高いわよ。ユリア予算はどのくらなの?」
リリアンヌは扇をパチンと閉じた。ユリアは正直に予算を伝えるが、リリアンヌはふぅと溜息をつく。
「申し訳ないけれど、わたくしの知る店では難しいようね。良かったらわたくしの着ない服を差し上げましょうか?背丈も変わらないし、サイズは問題ないはずよ」
リリアンヌの申し出は有り難いのだが、流石にお断りをする。ユリアは休日街に出ようかと悩んでいたが、リリアンヌがアイベルを呼んだ。
「アイベル、あなたはどこで服を買っているの?」
「お嬢様、私は街の服屋で買っております。割と手頃な価格ですので、ついつい買ってしまいます」
アイベルはリリアンヌのお使いで街に出かけた時に、フランの服屋をチェックしたそうだ。リリアンヌはアイベルに服屋を紹介してもらったらと提案する。
「では次の休日に街に行きましょう。お嬢様のお求めの物も買いに行かなければならないので丁度いいです。お嬢様、馬車の手配をしても良いでしょうか?」
アイベルはリリアンヌに許可を求めた。リリアンヌは自分も行きたいのだが、実習の課題が終わりそうにないので無理だと判断し、黙って様子を眺めていた。
「わたくし、新しいスイーツが食べてみたいわ。あなた達調査してきなさい」
そういうとアイベルに多めにお金を持っていくよう伝えた。アイベルはリリアンヌの意図に気づき、かしこまりましたと目配せをした。
アイベルと服を買いに行く予定ができたので、ユリアは休日が待ち遠しい。ユリアは一旦寮に戻り、午後の実習のために汚してもいい服に着替える。今日も林檎の木に加護の力を使った後、石を綺麗に取り出す練習を行う。ユリアは急ぎ気味で林檎の木のもとに向かうと、パトリック達とエバンズが待っていた。
「エバンズさん!お久しぶりです」
エバンズと2年生になってから会うのは初めてであった。エバンズは最近公爵家の教育で忙しくて、来ることが出来なかったのだと悲しそうに説明してくれた。ユリアは寂しかったと言って、エバンズを抱きしめる。少し元気が出たのかエバンズはぴょんぴょん跳ねて、今日も実習見学をすると言った。
エバンズはパトリック達の育てる林檎の木を観察すると、凄いわと手を叩く。相変わらずローブは着ているが、パトリック達だけしかいないので、普通に声を出して会話ができる。パトリック達はもうエバンズとして接すると決めたようで、普段通りだった。
「おぉ、エバンズ。忙しいのではなかったのかのぉ?」
ポポラ先生が荷物を抱えやってきた。場所を移動するぞぉとユリア達に声をかける。
「ポポラ先生、私の正体はこちらの方々は知っておりますわ。ですので、この場では普通に話をしますわ。宜しくお願いします」
エバンズはポポラ先生の隣に駆け寄って、嬉しそうに説明した。
「おぉん?公爵様は許可を出したのかのぉ。ほほーん。全く、おてんば娘じゃのぉ〜。今日は石割りをするから危ないぞ。エバンズも眼鏡と手袋をつけるのじゃ」
ポポラ先生は籠から予備を取り出し、エバンズに渡す。エバンズは素直に頷いて装備する。眼鏡をかけているのだろうが、顔は隠れて見えない。
こんこんこんと石を叩く音が響く。ユリアは手元の石に集中していた。まだ感覚を掴めていないので、思うようにはいかないが、作業は苦痛ではなかった。正直手先が特別器用なわけではないので、より慎重に取り組んでいく。きっとリゲルだと簡単に石を取り出すのだろうなとユリアは、以前飾り切りを難なく成し遂げたリゲルを思い出してそう考えた。
エバンズは興味深げにパトリック達を観察している。パトリックの後ろに立ち、石の割れる様子を眺めては小さく拍手をしていた。
土属性の勉強も面白そう。水属性の勉強がつまらないわけではないけれど、土属性は手を使う作業が多くて楽しそうね。あっ、ルワン様は中々上手くいってるように見えるわ。オーレン様は力加減が難しいようね…テト様は集中力が素晴らしいわ。先程からゆっくりではあるけれど、着実に石を取り出しにかかっている。テト様は研究者に向いてそうな性格だもの。うんうん。あら、ユリア…?ユリアは集中していると真顔になる癖があるのね。ふむふむ、真顔も美しいなんて罪な子だわ…!あぁ、ユリアの側にも行きたいけれど、今動いたらみんなの気が散ってしまうかもれないわ…。ダメよ、エバンズ!私はただ授業をみているだけなのだから、邪魔をするのはダメ!
エバンズがひとり忙しく観察をしているとポポラ先生が隣にやってきた。ユリア達が真剣に取り組んでいるのを確認すると、エバンズに小声で話しかけた。
「エバンズや。おぬし、そろそろ茶会が始まるのだろう?水属性の加護を披露する会もあると聞いたのじゃが、準備は大丈夫なのかえ?」
「ポポラ先生…心配してくださっていたのですね。私は大丈夫です。加護の力はさほど心配していないのですが、同世代の子達ときちんと話せるかが…」
ポポラ先生は素晴らしい公爵家の教育を受けた令嬢が心配するようなことなのかと尋ねたが、エバンズは当然だと頷く。ユリア達を除いて同世代と話す機会はこれまで皆無だったのだ。しかも茶会に来る子達はエルミーと同格の公爵家の子どももいる。貴族同士の茶会は、自分たちの威厳や格を示すための場でもある。気楽に話せるような空間ではないのだ。あぁ…憂鬱だとエルミーは頭を抱えた。ポポラ先生は、意外と気の合う子と会えるかもじゃろと頭を優しく撫でてくれた。
エルミーはユリア達を眺めながら、自分も候補生に紛れて過ごしたいとぼんやり考えていた。




