お野菜
リリアンヌは後日平然とした顔でユリア達の前に現れた。昨日あんなり腫れていた目も、どうにかしたのか元通りであった。ユリア達も昨日のことには触れず、普段通りに接する。
ユリアは講義終わりに1人図書室に向かいながら、どこか元気がないリリアンヌにしてあげれることは無いかと考えていた。ぼっーとしていたため、本棚の影から出てきた人物にも気が付いていなかった。
「あら、ユリアちゃん。今日もお勉強で偉いわね」
サリー先輩であった。サリー先輩は手にスープのレシピ本を抱えている。
「お久しぶりです。サリー先輩、その本は…?」
ユリアは気になって尋ねると、サリー先輩は恥ずかしそうに笑う。
「実習で野菜を育てているのだけど、自分でもせっかくだから食べてみたいと思って。自分で作りたいから、レシピ本を司書さんに取り寄せて貰ったのよ」
私の侍女は料理するのを反対しているのだけどと残念そうに説明する。
「野菜を育てているのですね!凄い!」
「みどり属性は野菜や花を扱うから、沢山育てるのよ。あっ、良かったら野菜を分けましょうか?ユリアちゃん料理はする?」
ユリアは是非とお願いする。みどりの魔法士の卵が作った野菜だから、栄養も豊富だろうと勝手に期待する。ユリアは勉強が終わってから部屋に取りに行って良いか尋ねた。サリー先輩はいつでも良いわと若草色の瞳を細め、ではまた後でと手を振る。
ユリアはサリー先輩を見送ると、席に座って復習を始める。今日のノルマを達成すると、片付けを始めた。
(あっ…!リリアンヌ様にスープをつくるのはどうだろう)
サリー先輩の部屋に向かいながら、ユリアは思いついた。スープは以前褒められたし、リリアンヌも喜んでくれるだろう。アイベルに伝えれば、すぐに渡してくれるだろうし、朝ご飯でスープを好まれるとも以前聞いている。そうしようと決めてサリー先輩から野菜を受け取る。
野菜はキャベツやレタス、トマト、ナスを貰った。大きな温室があるので季節関係なく育てられるのだとサリー先輩は説明する。なんて便利なんだ公爵家…とユリアは整った設備に改めて感心する。サリー先輩に礼を伝え、部屋に運んだ。既に食堂は営業時間が終了しているので、ユリアは野菜を少しだけ持って厨房に向かう。
「あっ、アイベルさん!」
タイミング良くアイベルが居た。お茶のためかアイベルは湯を沸かしていた。ユリアを見るとにっこり笑って、大きく手を振った。
「2人で話すの久しぶりね!ユリア、お嬢様と仲良くなってくれて、改めてありがとう。お嬢様は本当に楽しそうにしていらっしゃるわ」
アイベルはユリアの両手を取るとぶんぶんと動かした。
「私もリリアンヌ様と過ごせて楽しいです!あの、リリアンヌ様の事で質問があるのですが…」
ユリアは先日のカフェでの件を説明する。アイベルは継母という言葉を聞くと、非常に暗い顔をした。そして、深刻そうに説明を始める。
「継母の方は非常に厄介なの。当主様、つまりリリアンヌ様のお父様がいらっしゃる前では、優しいフリをなさるのよ。だから、表面上だけは義理の娘に優しい継母なのよ。リリアンヌ様は当主様がいらっしゃらない時に、罵倒されたり、物を隠されたりするの…リリアンヌ様が当主様に説明しようとしても、邪魔をされるし…」
アイベルは自分も当主様に伝えた事があるが、継母にうまく話をねじ伏せられ、信じて貰えなかったと説明する。
「そうだったのですね…リリアンヌ様が冬に家族と会えなかったのも、継母の方が…?」
アイベルは深く頷いた。候補生として此処で暮らす方が断然ましだとアイベルは言った。
「きっとご友人の方々も心配をされているのよ。言い方や場面は最悪だけど」
気の強い方々だからと大きく溜息をついた。
「そうなのですね…。あっ、あの!私、リリアンヌ様に朝食としてスープをプレゼントしたいのですが、どう思いますか?」
ユリアは本来の目的を思い出し、アイベルに説明した。アイベルは素晴らしい考えだわと直ぐに賛同してくれた。早速明日の朝、ユリアのスープを出す事に決定し、アイベルはリリアンヌの元に戻っていく。
ぐうぅ
ユリアのお腹が大きく鳴った。夜ご飯作らなきゃとユリアは食糧庫を除く。ショートパスタが目に入ったので、とりあえず茹でることにする。その間、サリー先輩から貰ったトマトと茄子をフライパンで炒める。トマトは木べらで潰して、胡椒を加えた。どちらも良い感じに火が通ると、茹で上がったショートパスタを入れた。パスタは塩を多めに入れて茹でたので、追加で塩は加えない。仕上げにチーズを削って、バジルもほんの少し上に乗せる。
楽ちんパスタの完成だ。ユリアは作り終えた後に、誕生祭で買った鍋とフライパンを使えばよかったと後悔した。すっかり考え事で忘れていたのだ。明日は鍋を使おうと決意し、片付けて部屋に戻る。
熱めにソースを作ったので、まだ湯気が出ている。パクりと口に入れると、トマトのジューシーさが弾けた。ナスも新鮮な旨味が口に溢れてくる。シンプルだけど、野菜が美味しいおかげで倍美味しい。幸せだと思わずにやける。
明日も美味しいスープを作るぞ!とユリアは早めに寝る準備を済ませて、ベットに潜り込んだ。明日の既にスープは決まっている。
「気に入ってくれたらいいなぁ」
ユリアは呟くと眠りについた。




