フィアカート家
それは昼休みに起きた。本日は天気も良く暖かったので、ユリア達はカフェで食事をすることにした。午前中の講義や最近の実習について盛り上がり談笑していると、少女達が近寄ってきた。
「あらあら。リリアンヌ?ルワン様達と仲良くするのは分かるけれど、その子は何?」
いつも一緒にいた青い髪の子だ。
「最近その子といつも一緒にいるようだけど、笑えるわね。リリアンヌ、平民と絡むと良いことなんてないわよ」
赤の髪の子が、私たちリリアンヌを許すことにしたのと笑いかけた。
「そんな子と一緒にいると惨めになるでしょう?私達と一緒に過ごしましょうよ」
青い髪の子はリリアンヌが戻ってくると踏んでいるのか、自信満々にユリアを見た。あなたとなんて本当はいたくないはずよと馬鹿にするが笑みが浮かんでいる。
「ロレア、メルン…わたくしは自分の意思でユリアと一緒に居たいのですわ。勿論貴方達とも仲良くしたいと思っていますけど、これからもユリア達と過ごしたいの」
リリアンヌは姿勢をスッと伸ばし、堂々と返事する。ロレアと呼ばれた青い髪の子を見据える。ロレアとメルンはぎょっとして、慌てふためいたが、ユリアのせいだと思ったのかユリアを睨みつけた。
「あなた平民となんて仲良くしないほうがよくてよ!あなたの義理の母は平民のくせに、威張り散らして虐めるという話ではありませんこと!その子はきっとその義理の母と同じですわ。リリアンヌを利用して、威張り散らすのよ!ろくなことが起きないわ」
「そうよ!わたくしたちはリリアンヌを心配して言っているのですわ。平民と関わると不幸になるのはリリアンヌが実感していることではなくて?周りもその平民と一緒にいると格が落ちると思っていましてよ。だから、リリアンヌ。いつでも戻ってきて良いのよ!」
2人は必死にリリアンヌに主張すると、もういいですわ!とカフェを出ていってしまった。
2人が居なくなった後、ユリア達のテーブルは沈黙に包まれていた。ロレアの言葉でリリアンヌの家庭事情が暴露されたのである。リリアンヌは下を向いて、しばらく黙っていた。
「あ、あの…リリアンヌ様」
ユリアはリリアンヌが心配でそっと肩に触れる。リリアンヌはゆっくり顔を上げると、明らかに無理して作り笑いを浮かべた。
「2人が言ったことは事実ですわ。私は母が亡くなってから、直ぐ平民の継母がやって来ました。しかし、彼女は私が気に食わないのか嫌がらせをいつもして来ましたわ…しかし、ユリア!信じて欲しいのです」
最初の方は淡々と説明していたリリアンヌだったが、後半は声が震え始めた。
「わ、私は…継母が嫌いです…し、しかし、だからといって平民全てが嫌いなわけではありません。ユリア、だ、だから私とこれからも仲良く…」
リリアンヌは堪えきれず、ポロポロと涙を流した。ユリアはぎゅっと抱きしめた。
「リリアンヌ様!わたしはこれからもずっーーとお側にいます。リリアンヌ様の家庭事情をこんな形で離させてしまい、申し訳ないです。あの方達の言葉は気にしません」
安心して欲しいというように背中を優しく叩いた。リリアンヌはユリアの優しさで余計に泣きじゃくってしまう。いつも強気のリリアンヌの泣く姿に、パトリック達は動揺していた。あわあわと慌てふためき、とりあえずカフェを出ようと促す。
人が少ない庭園のベンチに移動すると、パトリックはリリアンヌにハンカチを渡す。
「フィアカート様、僕達もあの2人の言葉は気にしないでほしいです」
「ユリアと一緒にいて、楽しいならフィアカート様の好きにすれば良いと思うぞ」
パトリックとテトはリリアンヌに目線を合わして、慰めた。
リリアンヌはハンカチを受け取ると耳を真っ赤にして俯いた。ユリアはパトリックに泣き顔を見られて恥ずかしいのかなと思い、そっとリリアンヌの前に立ち遮った。
「フィアカート殿!最初は怖い人かと思ったのですが、貴方様は素敵なお方だとわたくしたち思っております。だから、気にせず一緒にいてほしいですな!」
テトはこのハーブは目の腫れに中々効きますぞと差し出したが、パトリックが止めた。親切のつもりだと理解しているが、流石に土がついたハーブは…とやんわり諭す。
「み、皆様、ありがとうございます。わ、わたくしは自分の意思で行動しますわ。恥ずかしい家庭事情を皆様に知らせてしまい、申し訳ないですわ」
リリアンヌはそっと頭を下げる。ユリアは急いでおやめくださいと説得する。リリアンヌが謝ることではないのだ。そもそも継母から嫌がらせとはどういうことだ。こんな可愛い義理の娘を虐めるなんてとユリアは内心怒り狂っていた。その話も聞きたいが、今ではない。
(昨日少しお話を聞いていれば…あの2人にペラペラ話させなかったのに…!失礼だと怒られても、私が咎められるだけで済んだかもしれない。こんなリリアンヌ様の辛い表情見てられない…)
ユリアは2人の発言を思い出し、苛々したが顔には出さなかった。ユリアはもうリリアンヌが大好きで仕方なかった。リリアンヌを傷つけるなんて…ロレアとメルンに何か言い返したいとユリアは思った。
一方、ロレアとメルンも怒り狂っていた。2人なりにリリアンヌの事を心配して言った言葉であったからだ。平民に対しては、元々嫌いであったが、リリアンヌの継母の話を聞いてから余計嫌悪感が増していた。なのに幼少期からの幼馴染が自分たちではなくて、平民と一緒に過ごし楽しそうにしているなんて許せない…と2人は話し合う。
ユリアとロレア、メルンの和解が解決の鍵だが、その道は非常に困難のようだ。偏見を失くすことは容易ではない。何かきっかけがあれば良いのだが、その機会はまだ巡っては来ないようだ。




