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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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バニラビーンズ

 今日もリリアンヌは講義に来ていない。リリアンヌの友人達も、リリアンヌが居ないので少しつまらなさそうに見える。ユリアは夕方に話すのは無理かもしれないなと考える。

 今日は経済学の講義は自習であった。試験のために自由に時間を使って良いとだけ伝え、ボラム先生はいなくなった。教室は意外と騒がしい。試験前で静かに勉強するのかと思いきや、皆話し合いながら勉強しているようだ。ユリアは復習をしっかりしていた上、勉強会でもわからない点を潰していったので、少し余裕はある。しかし、まだ完璧とは言えないので、経済学の教科書を読み直すことにする。


「昨日からフィアカート様見てないな」

 マックスが騒がしい教室を眺め、ボソリと言った。パトリックも言われてみれば…とリリアンヌ達のいつも座る席を見て、不思議そうに言った。心配だねとパトリックはマックスに言う。ユリアは、リリアンヌがパトリックの事を好きだと思っているため、報告したら喜んでくださるかもと少し考える。しかし、今日会えるかもわからないし、誤解が解けて普通に話せるかも確定していないので、余計な事を言うのはやめだと直ぐに考え直す。


 講義終わり寮に戻ろうとすると、玄関にアイベルがユリアを待っていた。


「ユリア…!お嬢様が是非話をしたいそうよ。体調も戻られているから、大丈夫。今すぐに来て欲しいのだけど、大丈夫?」

 アイベルの申し出にユリアは直ぐ了承した。リリアンヌの部屋にアイベルが案内する。着いた部屋の扉の上には、硝子で出来た林檎や花などが飾られていた。アイベルが部屋にそっと声をかける。許可が出たようで、アイベルはユリアに入るよう促した。


「こんにちは」

 ユリアはそっと中に入った。部屋は全体的にシックであった。机や椅子、ベッドやソファなど白や黒などであったが、質はどれも高いもののようだ。ユリアは少し拍子抜けする。リリアンヌはいつも煌びやかに着飾っていたので、部屋も豪華でキラキラしているのだろうと勝手に思い込んでいたのだ。リリアンヌはベッドの近くにあるソファに縮こまっていた。体調も良くなったと言ってはいたが、顔色が悪い。


「こんにちは…来てくれたのね」

 リリアンヌはポツリと呟く。金髪の美しい髪は緩く後ろでまとめられているが、先程まで寝ていた形跡がいくつかあった。余程疲れが溜まっているのだろうなとユリア観察する。


「体調は大丈夫ですか?頭痛などはありませんか?」

 ユリアの言葉にリリアンヌは素直に頷く。いつもは瞳に力が宿り、堂々としているのに今日は怯えた兎のようだ。


「アイベルから聞いているかもしれないけれど…わ、わたくし酷いことをしましたわ。あなたと約束したのに…友人に仲間外れにされるのが怖くて、1人になるのが怖くて…あなたの親切を…その、あやまるわ」

 リリアンヌなりの必死の説明であった。リリアンヌは、ぽつぽつと友人の中での自分の立ち位置を説明する。


「わ、わたくしの友人は産まれた時からの付き合いなの…みな、お父様が友人同士で、仲良くするよういいつけられていて…幸運な事に候補生に皆んなで成れた…だから皆んなの意見に合わせて、貴方を蔑んだわ。ごめんなさい」


「フィアカート様。例え友人に合わせるためで本心でないとしても、平民を蔑む、馬鹿にする発言は正直酷く傷つけられました。しかし、フィアカート様の発言で学んだことも多いのも事実です。平民として、淑女として間違った行動をしてるのは私の方ですから。ですので、完全にフィアカート様を許すわけではありませんが、私は気にしていません」

 ユリアは素直に思ったことを伝える。


「そして、私はフィアカート様と普通に話せた時、すごく嬉しかったのも事実なのです。なので、フィアカート様が私に謝ってくれたことは嬉しいです。だから、そんな泣きそうにならないでください。事情は分かりましたから」

 リリアンヌはユリアの言葉を聞いて泣いてしまった。アイベルが駆け寄り、ハンカチを差し出す。鼻を噛むと、リリアンヌはユリアを見た。


「わ、わたくし、あなたに親切にしてもらって、嬉しかった。わ、わたくし変わる努力をするわ。友人達にも、素直な気持ちを伝える。ま、周りに合わせるのはやめていく…」

 

「フィアカート様、家族ぐるみのご友人なら難しいでしょう。無理に私のために言わなくてもいいのですよ。私慣れっこですから!」

 ユリアは気にしないでとリリアンヌに伝える。急にリリアンヌがユリアの味方をするなんて友人からすると意味不明だろう。それに、ユリアがほんの少しだけ親切にしただけなのに、そこまで恩義を感じられているのも申し訳ない気がする。


「で、でも…ヒック…自分の意見を…ヒック…伝えないのもだめだわ…」

 リリアンヌはどうやら変わる事に固執しているようだ。リリアンヌはしゃっくりをしながら、私は友人に流されすぎて、いけないのだと説明をした。


「お嬢様はご友人とのお食事会やお茶会などで、お勉強が疎かになっている事を心配されています。今回の試験も、ご友人と勉強会をされていますが、正直皆様集中力がないので、お喋りに夢中になってしまわれます。お嬢様は今後候補生として生活するにあたっても、ご友人に意見をきちんと述べることが出来る様になりたいと考えておられるのです」

 アイベルがリリアンヌの足りない説明を補った。


「そうなのですね…あっ!そういえば!フィアカート様、約束の歴史学のノート持ってきています。よかったら使ってください」

 ユリアは鞄からノートを取り出し、差し出した。


「だけど…あなたは勉強で使わないの?わたくしが預かっている間困るのでは…」

 リリアンヌは酷いことをしてしまった罪悪感もあり、遠慮気味だ。ユリアは大丈夫ですと答えた。実は一通りまとめ直したノートがもう一冊ある。問題は全く生じないのだ。


「そう…本当にごめんなさい。そして、ありがとう。こんな酷いことをした私に…」


「フィアカート様!その話はもう終わりです!いつものように、堂々としていてください。私はそっちの方がむしろ安心します!」

 話を遮るのは失礼だが、ユリアはリリアンヌが自分を責めるのはもう聞きたくなかった。事情を知った今、ユリアは過去のことを責めるつもりは全くないのだ。


「フィアカート様、元気になって下さい!試験まであと少しです。共に頑張りましょう!」


 ユリアはそう言ってリリアンヌに微笑んだ。リリアンヌは、し、仕方ないですわといつもの雰囲気に戻って、ユリアに突然抱きついた。





「ありがとう、ユリア。本当に感謝するわ」

 リリアンヌの香水がふわりと香った。それはバニラビーンズの香りだった。

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