ノートの約束
冬休みもあっという間に終わり、講義が早速始まった。どの講師達も春の試験に向けて、復習を始めるようにと講義の始めに口にする。ポポラ先生は、実習は特に試験は無いとユリア達に伝えた。実習の評価は収穫した芋で行うらしい。てっきり新しい課題などを与えられるのかと思っていたので、ユリア達は拍子抜けした。ポポラ先生は1年生の実習評価はさほど重要ではないので、気にするなと言う。そういうものなのかとユリアは素直に受け入れた。
歴史学、経済学、数学、魔法士基礎学は筆記試験がある。範囲は1年生で扱った単元で、歴史学は特に範囲が広く候補生達の悩みの種だった。ユリアは歴史学が得意なので、ノートを見せてほしいとパトリック達にお願いされた。勿論ユリアはお役に立てるならと快く了承する。
(そういえば…リリアンヌさんも見たいって言ってたよね)
図書室でのリリアンヌとの時間を思い出し、ユリアはいつ渡そうと考えた。タイミングがいい時があれば良いなとユリアは授業に向かった。
今日は数学の後、歴史学を予定している。数学は正直頭が痛いので、テトに集中講座を近々開いてもらわなければとユリアは考えた。数学の講義は今日から新しい単元だ。試験前の最後の単元だと説明がされる。必死にノートを取っているうちに、講義は終わった。はぁ…とパトリック、マックス、ユリアは溜息をつく。
歴史学もなんと新しい単元に入るそうだ。候補生達はこれ以上やめてくれ…と絶望している。リリアンヌの方に目をやると、友人達と不安げに歴史学の講義についてヒソヒソ話し合っていた。リリアンヌは図書室では、ユリアに意地悪な態度ではなかったので、ユリアは自分から話しかけてみようと決意した。講義終わりに行ってみようとユリアは、今回の分のノートをまとめはじめる。講義が終わり、昼休憩になった。頭痛い、もう試験が怖いと候補生達は口にしながらランチに向かっていく。
ユリアはパトリック達に先に行っててと伝えて分かれた。リリアンヌ達は女子寮の食堂で食べるようで、外に出ようとしていた。玄関でリリアンヌ達に追いつくと、ユリアは控えめに声をかけた。
「あの…フィアカート様。歴史学のノートについてなのですが」
「何、あなた?リリアンヌに用があるの?あなた平民のくせに高位の者に話しかけるなんて、無礼ではなくて?」
青い髪の子がユリアを睨みつけ、リリアンヌの前に立った。
リリアンヌは少し驚いた顔をしてユリアを見ていたが、友人がユリアの悪口を言い始めると、黙って様子を眺めている。
「あ、あの…歴史学のノートをお見せすると以前約束していたのですが」
ユリアはリリアンヌの様子が以前と違うことに気づいたが、用件を伝えた。
「はぁ?あなたとリリアンヌが約束なんてするわけないでしょう。そうよね、リリアンヌ?」
赤の髪の子がリリアンヌに、この子頭おかしいわと言って同意を求めた。リリアンヌは小さく首を縦に振った。
「えっ…」
ユリアはリリアンヌが約束なんてしていないと示したことに動揺する。友人達は当然でしょうとユリアを追い払う仕草をした。そして、リリアンヌの手を引き、食堂に向かってしまった。
1人残されたユリアは、ショックを受けていた。あの時は普通に接してくれたのに…約束をしたのに…と悲しくて俯いた。しばらくユリアはその場に立ち尽くしていたが、あの時はリリアンヌの気まぐれだったのだろうとユリアは気持ちを整理した。そして、パトリック達を待たせてはいけないと、とぼとぼと男子寮に向かった。
「ユリアさん、こっちこっち!」
男子寮の食堂でパトリックが手を振っている。ユリアは笑顔で向かったが、表情は堅い。
「ユリア、なんかあったのか?」
マックスがユリアの様子を見て、心配する。ユリアは何と説明していいか分からず、曖昧に笑った。
「もしかして、何か意地悪を言われたりしたのでしょうか!?」
テトが核心をついてきた。ユリアは違うよと思わず返事した。意地悪を言ってきたのはリリアンヌの友人で、あの時はリリアンヌは何も言っていない。ただ約束したとも言ってはいないが。
心配をかけてはいけないとユリアは、ネクシア先生に用があり、新たに分からない点を多く見つけて落ち込んでいたのだと嘘をついた。嘘はよくないと思っているが、今回はリリアンヌのことをパトリック達に話したくなかった。きっとパトリック達はユリアの味方をしてくれるだろう。しかし、これは自分の問題なんだとユリアは思っていた。
「歴史学といえば、今日の講義もちんぷんかんぷんでしたぞ…」
テトが歴史学が1番辛いと話を変えた。パトリック達も試験に向けて、どうしたらいいかと話に参加する。
ユリアは話に相槌を打ちながらも、頭ではリリアンヌのことを考えていた。リリアンヌにノートを渡さなくていいのか、ユリアの中で心が揺らいでいた。
リリアンヌと2人で話してみたい…とユリアは午後の実習でも思い悩んでいた。




