シチューの味
「わぁー!シチューだぁ。2人でつくったの?」
パトリックはユリアとエバンズが持ってきた鍋を開けると、目を丸くした。テトはいい匂いですなと鼻をひくひくさせている。マックスも美味しそうだと鍋を覗き込む。
「まだ温かいので、このまま食べましょう」
ユリアは鍋の側面に手を当てた。テトが食器を貰ってくるのですと厨房の方に走っていく。
「あ、丁度いい。あのさ、テトの奴、もうすぐ誕生日らしいんだよ。さっき会話の流れでそれを知ったんだけど…だからさ、今度誕生日会をサプライズで開かないか?誕生日プレゼントを急に用意することになるけど、気持ちがこもってれば、テトは何でも喜んでくれると思うんだが。どう思う?」
マックスがテトの後ろ姿を見ながら、ユリア達にこっそり言った。ユリアはテトの誕生日がもうすぐとは初耳だった。ユリアは勿論参加すると返事をした。プレゼントは何がいいだろうか…と悩んでいると、エバンズがそっと近づいて来た。
「ユリア、私達でケーキをつくるのはどう?それをプレゼントにしましょうよ」
エバンズはユリアにしか聞こえない声で提案をする。ユリアはいい考えだと直ぐに賛成した。
「参加します!エバンズと2人でケーキを作ってプレゼントしたいと思います」
テトが戻ってこないか気にしながらユリアは返事をした。パトリックとマックスはそれは良い考えだと賛成してくれた。いつ、何処でかは後から伝えるとユリアにパトリックが話していると、テトが戻ってきた。
テトはシチューを早く食べたいようで人数分の食器とスプーンをさっと配った。準備が出来たので皆んなでいただく。シチューは香りの強いチーズを入れたおかげで濃厚だった。ユリアも美味しすぎて少しにやついてしまった。エバンズも言葉には出さないが、嬉しそうにしている。パトリック達も美味しいと何度も褒めてくれた。多めに作ったのにも関わらず、シチューはすぐに無くなった。
「ユリア殿とエバンズ殿は天才ですぞ!」
テトは余程気に入ったのか、何度も感想を伝えてくれた。皆んなでシチューの余韻に浸っていると、グレンがドタバタとやって来た。
「エバンズ!今何時だと思っていますか!?」
グレンはエバンズを見つけると直ぐに帰るよう言い聞かせた。どうやら侍女長が大層御立腹のようだ。グレンは他の人に伝わらないように、皆が心配していると説明した。エバンズは仕方ないと諦めて、ユリア達に手を振った。グレンは困った子だと言いながら、エバンズを連れて食堂を出ていってしまう。
「エバンズさんって何者なんだろうね…」
パトリックがエバンズのいた席を眺めて呟いた。
「もしかして…」とマックスが言った。
ユリアは不味い、バレたかもと冷や汗をかく。
「エバンズってポポラ先生のお孫さんなんじゃないか!?」
「おぉー!」
「その線は濃厚ですな!」
ユリアは一安心する。エバンズはまだ正体を明かしたくないと言っていた。エルミーと知ると皆んな緊張し、今まで通りの態度は出来ないだろうなとユリアは思う。自分でさえそうなのに、貴族社会で暮らしてきたパトリックとマックスなど余計そうだろう。公爵家の御令嬢は国内でも高位の存在なのだ。気軽に話しかけて良いお方ではない。また、エルミーは候補生でもないので、身分は関係ないというルールも適用しないのだ。
だが、ユリアには単に友達として接して欲しいというエルミーの願いも理解できるのだ。ユリア自身も平民という括りで、距離を置かれるので、純粋に友達になって欲しいという気持ちは分かる。エルミーが許すのならば、勿論場に応じてであるが、エルミーの望む通り対等な友人になりたいとユリアは思う。
「ユリアさんとテトは年越し何するか決まったの?」
話の流れで年越しの話になる。パトリックとマックスは予定通り家族で過ごすそうだ。パトリックは妹に久しぶり会えるのが楽しみだと笑った。パトリックの妹は可愛いのでしょうなとテトは言った。
「まだ話し合っていませんでした」
「クルト殿とリゲル殿とも話し合いが必要ですな!」
何がいいだろうかと軽く話した。食堂自体は解放されているので、食堂で年越しをしようと結論になる。
ユリアはテトの誕生日と年越し、パーティーを2つも予定している事に気づいて、楽しみになった。こんなに充実した生活を大好きな仲間と過ごせるなんて、如何に幸せなんだろうとユリアは思う。
「パーティーなんて、友人と年越しするのは初めてです!実家では家族とばかりでしたから」
テトは楽しみだと笑った。マックスとパトリックも来年はユリア達と年越ししたいと言ってくれた。
「私も楽しみです!」
ユリアはテトの誕生日をまず成功させると固く誓った。




