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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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公爵家

「君がユリアだね。遠いところから来てもらって礼を言うよ。先生もそちらに」

 緊張でガチガチになったユリアに公爵は声をかけた。アッシュグレーにブルーの毛が入り混じる公爵は、50代前半にしては若く見えた。当主としても若い部類であるが、鋭い眼光と漂う威厳は確かに上に立つものだとサルランは心の中で呟いた。ユリアはきちんと話せるだろうかと、固まるユリアを見て心配した。


 丘の上にある公爵家に辿り着いてからユリアは、落ち着きがなかった。

 公爵家の屋敷は想像以上に美しかった。広大な敷地、林檎の葉と蔦がデザインされた大きな正門。そして屋敷へと続く道は最近開発されたという青レンガで舗装され、周りは珍しい花々が咲き誇っていた。西側には孤児院の二倍はありそうな温室が目に入った。先生から事前に公爵家は凄いお方であると教えられていたが、ユリアにとって凄い人は先生や町の大人たちであったため、本当の意味で貴族と平民の差を理解できていなかった。実際に圧倒的な格差を見たユリアはそれはもう萎縮してしまった。


「私は公爵家当主、テグス・ビビアンドだ」公爵が名乗ったので目下のユリア達も挨拶を許される。

「ユリアともうします…」

「孤児院の管理をしております、サルラン・ルートでございます」

 ユリアはいうもより小さな声で言うと、ペコリと頭を下げた。

「おや、先生はルート家の方でしたか。孤児院の管理をされていたとは…。いや、この話は後にしよう。まずはユリアについて話したい。」

 公爵はそう言うと側に立つ執事に声をかけ、書類をテーブルに広げた。

「鑑定士の報告では、ユリアは間違いなく加護の力を既に使えるとの事だった。潜在的な力が強い貴族と比べでも、5歳での目覚めは早いな。通常は7歳から候補生として迎え入れるが、融通はいくらでも効く。こちらとしても、土の精霊様の加護を受けた子は少ないので、早い段階から指導を行いたい。」

 公爵家は鑑定士の報告書をサルランに渡した。

「恐れながら、公爵様。ユリアはまだ字も読めない幼子でございます。そんな平民の子が貴族の御令息や御令嬢の中でやっていけますでしょうか。せめて7歳までお待ちいただけることは…」

「ならぬ。確かに、字が読めないのは困るだろうが、そこは特別に教師をつけよう。貴族社会に突然入るのは心配だろうが、候補生は既に実力主義だ。実力がなければ貴族であろうと、厳しく評価される」公爵ははっきりと答えた。

「それに、平民出身も今年は割と多い方だ。土属性の魔法士の数はさほど多くない。可能性がある者には早くから訓練させたいのだ」

 どうやらサルランの提案は通らないようだ。ユリアも理解したのか、俯いて絨毯を見つめている。

「ユリアよ。突然孤児院を離れるのは辛いだろうが、これは皆のためにもなることだ。お前が努力して魔法士になれば、孤児院やお前の町をより豊かに出来る。実際に候補生になった祝い金は孤児院に送られる予定だ。また、平民の候補生には別に、毎年一定額送られるがユリアの場合は人より2年分多く貰えるだろう。そう考えても悪い話ではないと思うがな」

ユリアは困惑した表情で顔を上げた。サルラン先生からは公爵家から孤児院にお金が入るなど聞いていなかったのだ。孤児院は地域からの支援金でぎりぎり成り立っているため、お金に余裕がある訳ではない…。ユリアが早く候補生になればその分孤児院に入ると言うのに…ユリアのために7歳まで待ってほしいと懇願した先生の優しさにユリアは心震えた。


「ユリア、すぐに候補生になりたいです。みんなと会えないのはつらいけど、町や孤児院のためにかんばります」

すくっと立つとユリアは公爵に向けて強く言い切った。サルラン先生が何か言いたげな顔をしているのに気がついていたが、ユリアの決心は揺らがなかった。


「そうか。では、直ぐにでも手続きを始めよう。ヨーゼフ、契約書とペンを用意してくれ」



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