恒久的な安定
「私達は、一般人による討伐依頼制度と討伐者育成を提案します」
ユリアは教室に響き渡る声で切り出した。
「私達がこの意見に辿り着いた経緯を説明致します。そもそも、北部地域の魔物被害というのはどの様なものか、魔物の種類、被害状況、北部の生活の実態などを調べました」
マックスが北部地域の地図を貼りながら、説明を続ける。
「これは森と近隣の村や町の地図です。森はほとんど畑の部分に面しており、人の住んでいる地域とは距離があります。また、魔物被害報告書によるとこの地域では畑荒らしの被害ばかりで、人に対しての直接的な攻撃、被害は殆どありませんでした。よって、課題文の通り、畑荒らしの被害が大きなダメージということが確認できました」
次にテトが円グラフの資料を黒板に貼った。
「そして、次に私たちは報告書の魔物討伐の実態に目を向けました。北部のここ5年以内の魔物討伐に関して、主にどの管轄で処理が行われたかを算出しました。この円グラフをご覧ください。なんと魔物討伐の7割が一般人で、領地の討伐部隊が出動したのは2.5割、残りが国の討伐部隊だったのです」
パトリックが交代し、魔物のイラストを貼っていく。
「報告書によると、一般人でも討伐可能な魔物ばかりが頻出していることがわかります。具体的には、ミグロ猪、ガルガ兎、ドス蛙などです。これらは大人数人であれば、対処できると報告書にも記述がありました。そして、こちらもご覧ください。こちらは魔物の素材一覧です。魔物の素材というのはそれなりの値段で取引がされています。これらの魔物素材目的で、一般人が討伐に向かうこともあるそうです」
クルトが次に魔物素材の相場価格を張り出した。
「しかし、これらを買い取る商人というのは様々でして、適正価格で買い取ってくれる商人は少ないのが実態です。一般人が魔物素材の知識が少ない事をいい事に、低い価格でしか買い取らない業者もいると、こちらの報告書に記述があります」
そしてユリアが、農家、管理部門、討伐者、商人の4つを大きく黒板に書いた。
「ここまでを踏まえ、討伐依頼制度について説明します。一般人は魔物の討伐に向かうものも、毎回討伐するわけではありません。魔物素材の価格が比較的高いものばかり、討伐に向かう傾向にあります。しかし、それでは畑荒らしに困る人々の問題は解決することはできません」
ユリアは最後の部分を強調して説明した。
「そこで、討伐依頼の部門を町や村につくります。これは貴族が管理するか、業務委託して作り上げます。討伐依頼は農家から管理部門に出し、討伐者に紹介します。仲介の役目をするわけです。農家は依頼料として、管理部門に預けます。そして、管理部門は討伐者に報酬として依頼料を渡します」
ユリアは農家と管理部門、管理部門と討伐者を結び書き込んでいく。
「そして、討伐者は魔物素材と管理部門に預け、商人と取引してもらいます。管理部門は貴族が扱うので、適正な取引をする商人に素材を買い取ってもらいます。そして、そのお金を討伐者に渡します。個人で取引をしていたよりも、確実に多いお金を得ることができるため、討伐者はどんな依頼でも応じてくれるだろうと予想します」
そして再びクルトに代わる。クルトは育成制度と黒板に書くと、前を向いた。
「次に育成制度についてです。現状の討伐者だけでは人手不足だと考えます。そのため、討伐者を増やすために、育成制度を考えます。これまでの討伐に関しても、素人のやり方や数で押し切る戦い方であるため、大変危険です。そのため、貴族の保有する討伐部隊から講師を出し、簡易的な討伐教室を作ります。討伐者を目指すものを少しでも増やすよう、最初は無料で開きます。その後は少額ではありますが、お金をとっていくべきでしょう」
今まで何も話していなかったリゲルが次は前に出た。
「これらの考えは、冬を越える人々にとっては早急な対応ではないでしょう。しかし、これが実現すれば恒久的な安定が手に入るでしょう。魔物被害に怯え、冬を越せないと心配することは数年後には無くなるはずです」
リゲルは無表情で静かに説明するが、しんと静まり返る教室には十分響いた。候補生達は真剣に耳を傾けている。
「私達は北部の森付近の人々が安心して、これからも暮らし続けていけるような解決策を模索してきました。この討伐依頼制度と育成制度は時間はかかりますが、定着すれば格段に魔物による被害は減ると確信しています」
マックスが自信を持って話を続ける。
「そして、この制度が北の森で成功すれば、他の地域でも同様に制度を導入することができるでしょう。よって、公爵家、侯爵家による寄付金もより多く集まるのではないかと考えます。我が国の公爵家、侯爵家のほとんどが領土に森や林があり、魔物被害にも悩まされています」
パトリックが公爵家、侯爵家の討伐費用の資料も黒板に貼った。
「公爵家や侯爵家の去年の討伐費用です。討伐費用だけでもかなりの額になっています。もし、北部地域の制度が成功すれば、きっと同じように自分の領地に導入したいと考えてくださるはずです」
そしてユリアが最後に前に立ち、皆を見渡した。
「この制度が北部だけでなく、国全体に広まれば、アウレリア帝国の人々の暮らしもより豊かになるだろうと私達は考えます。ご静聴ありがとうございました」
6人は合わせてお辞儀をした。数秒教室は静まり返っていたが、ボラム先生の拍手で皆我に帰り、盛大な拍手をユリア達に贈った。
これほどまで綿密に調べ、論理的に意見を示すとは…と皆ユリア達の発表に圧倒されていた。ベリムス達も凄いと思ったのか、不機嫌な顔をして軽く拍手をしていた。
「ほぉ…ここまで完成度の高い発表が来るとは…言葉も出ませんぞ。また、今までにない自由な発想。しかも論理的根拠に基づいて、現実味もある…更には町の人々、農家だけでなく貴族にもメリットがある。これは…私の講義だけで扱うには勿体ないレベルの意見ですな…」ボラム先生はぶつぶつと呟きながら、手元の紙に細かく書き込んでいる。
「では、質問なのですが、管理部門というのは仲介役という説明でしたが、慈善活動のように無償で行うのでしょうかな?」
ボラム先生は書くのをやめると質問をした。
「これについては、討伐依頼料と魔物素材の売上の数%を仲介料として取るべきだと考えます。しかし、具体的数値については、妥当な数字がわたくし達には分からないので、何とも言えません」
テトが正直に説明する。
ボラム先生は期待通りの答えだったのか、ほぉ!とまた書き込んでいる。
「素晴らしい発表でした。大変具体的かつ将来性を感じる意見だと思いますな。このレポートは公爵様にもお見せしたいと思います。もう既に皆わかっているとは思いますが、このグループが最も優れた発表をしてくれました。他のグループの皆さんもよく頑張りました。みな、拍手を!」
公爵様に提出!?と皆騒めく。自分たちの評価など、もはやどうでもよかった。ユリア達のレポートが公爵様の下にまで届くなんて、前代未聞の最高評価じゃないかと驚いていた。しかし、あの発表を聞いた後なので誰も文句は言い出さなかった。




