食堂ルルラ
「先生!このお店で1番大きなステーキが食べたい。」
ユリアは席に着くや否やそう言った。今日は約束していたステーキを食べに、街で評判の食堂に来ていた。ユリアは昼食は絶対に美味しいものを食べたいと意気込み、宿の女将にどの店がお勧めか尋ねていた。昼食には早めの時間であったせいか、そこまで人も混み合ってはいない。
「すみません。ポルラ牛のステーキを二人前願いします。」
「あいよ。うちは100gから400gまであるけど、どうしますかい。」
声に張りのある店主がカウンターから答えた。
「ユリアはいちばん大きいステーキがいいです!」
ユリアは両手を挙げて元気よく言う。
「私は100gでお願いします。」
ユリアが食べきれないことを想定して、サルランは注文した。店主もサルランの意図を汲んだのか、あいよー!と返事をして特に何も言って来なかった。
「まだかなーまだかなー!」頬に手を当て、厨房の方にチラチラ視線を当てている。ユリアは楽しみで仕方ないようだ。
「ユリア、お昼ご飯を食べたら領主様の所にご挨拶に行きますからね。」
ご機嫌な所に水を差すようで悪いと思ったが、サルランはきちんと本来の目的を伝えておいた。
「はーい!ユリアきちんとごあいさつします。」
どうやら心配は必要なかったようだ。
それからは領主様へのご挨拶の後、街で見てまわりたい場所について話し合った。ユリアは孤児院のみんなにお菓子を買って帰りたいと子供向けのクッキー専門店を希望した。孤児院では月に一度ほんの少額ではあるがお小遣いをみんなに渡している。どうやらユリアは貯めていたお金をみんなの為に使いたいようだ。足りなかった場合はサルラン先生に立て替えてもらい、来月以降のお小遣いで返済するという。
意外とユリアがしっかり考えてお願いしてきたことに、サルランは驚いた。子どもの成長は早いものね…とサルランはしみじみと思った。
そうこうしているうちに、お待ちかねのステーキがやってきた。鉄板には熱々のお肉ににんじんとポテトが添えられ、そしてソースが三種類用意されている。
「お嬢ちゃん達、肉汁が可愛い服に跳ねたらいけねぇから、これつけな。」店主が気を利かせて紙ナプキンを用意してくれた。サルランはお嬢ちゃんと呼ばれる歳では到底無いが、そこは指摘するのも無粋だ。ユリアはお気に入りの水色のワンピースが汚れないよう、直ぐに紙ナプキンをつけた。
「ソースは、バジル、トマト、チーズの3種類だ。好きにつけて食べとくれ。」
「ありがとうございます。」
「おじちゃん、美味しそうー!」ユリアは目を輝かせて言った。店主も喜んでくれてなりよりだと笑って、厨房に戻っていく。
じゅわり
ナイフを軽く通すと肉汁が溢れ出してくる。赤みが多い肉だが、非常に柔らかく、ユリアのような幼子も食べやすい。ポルラ牛は普通の牛より体格は小さいが、旨味がその分凝縮されていると言われている。餌は魔法士が指導した野菜のみを与えている分、コストも手間もかかるため、大きな街にしか流通しない。
質素倹約に努める孤児院ではそんな高価な肉など食べる機会など当然無い。今回は公爵家が必要経費として宿代と食事代は出してくれるから食べられるのだ。サルランは、実家を出てから久々に食べたがこれ程美味しかったのか…とポルラ牛の美味しさに純粋に感動した。
一方ユリアは一口一口に感動していた。なんという旨さ、なんという幸せ。こんなに肉が美味しいとはしらなかった。と口に入れるたびに感想を述べている。そしてあっという間に完食してしまった。いくら美味しいと言っても400gである。サルランでも一人で食べるには一苦労する量を5歳過ぎの子どもがペロリと食べてしまった。
これにはサルランもびっくりである。ユリアは確かに孤児院でもご飯はしっかり食べるし、おかわりもする事も知っていたが、これほど大食漢とは…。
店主もまさか一人で食べると思っていなかったのだろう、ドン引きである。
ユリアはお腹に手を当て、「ユリア食べ過ぎておなかぽっこりなのわかる??」と心配そうにサルランに聞いてきた。食べた量は大人顔負けなのに、やはり中身は年相応なユリアの様子が可愛くてサルランは思わず声をあげて笑ってしまった。