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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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植木鉢

 ここ最近はぐっと気温が下がって来た。上に羽織る上着も厚手の物に変えた。ユリアはサルラン先生が送ってくれた上着をぎゅっと前まで閉めた。ユリアは基本的に服はあまり持たない。孤児院にいた時は同級生達と服を共有していたので、自分の服というのは少なかったのだ。

 

 サルラン先生はだいぶ前に、公爵家からの祝い金の一部をユリアが自由に使えるようにと送ってくれたが、手をつけていなかった。衣食住は保証されているし、特にお金を使う場面はないのだ。ましてや、大切なお金を簡単に使うのも気が引ける。そんなユリアの性格を見越したのか、サルラン先生は冬用の暖かい上着を送ってくれたようだ。生地はしっかりとしていて、上等そうだった。こんなに高そうなものを貰っていいのかと思ったが、サルラン先生が子供の頃に着ていた物なので気にしないでと手紙には書いてあった。

 

 サルラン先生って、貴族の方なのだろうなと改めて考える。孤児院にいた時は何にも思わなかったが、この上等な上着を持っていることもそうだし、立ち振る舞いも町の大人とは何か違った。また、決定的なのは、ユリアの鑑定の儀についてきたとき、ルートと名字を名乗ったのだ。この国では苗字は貴族しか持たないので、サルラン先生は何処かの貴族のお嬢様だったのであろう。当時は全くそんなことは知らなかったので気がつかなかったが、今思い返せば、様々な場面で貴族の振る舞いが表れていた。

 サルラン先生はよく子供たちに美しい刺繍を施したハンカチを下さった。構図や色使いなど平民ではあまり考えられないものばかりだった。それに、ユリアが候補生になると決まった時も酷く心配していた。周りの大人は名誉だと喜んでいたが、先生だけは貴族社会に飛び込むのは大変なんだとユリアに言い聞かせてくれた。

 上着の匂いでサルラン先生を思い出し、ユリアは孤児院が懐かしくなった。サルラン先生、私は少し成長しました。サルラン先生に直接会って言いたい事が沢山ありますと歩きながら考える。


 



 考え事をしながら歩いていたので、前から人が来ていたのに気が付かなかった。向こうも何かに夢中だったのか、ユリアはその人と正面からぶつかってしまった。


「す、すみません!大丈夫ですか!?」

 ユリアは相手に怪我がないか、思わず手を握ってしまった。あ!失礼なことをしてしまったとさっと手を離したが、ユリアは内心焦っていた。身分は関係ないとはいえ、実際は貴族社会の学舎で今の行動は怒られても仕方なかった。


「あら、ごめんなさい。私、考え事をしてしまって前を向いていなかったわ」

 相手の少女は気にしないでとユリアに言ってくれた。


「あなた、1年生?同じ棟なのに把握していないなんて、だめね…。最近忙しくて、生活面には気が回っていなかったわ」

 一人で少女はぶつぶつと言っている。少女は顔を上げ、ユリアの顔をまじまじと見た。


「あ!もしかして、あなた途中から入ってきた子かしら?挨拶をしていなかったわね!なんて失礼な事をしてしまったのかしら、これは忙しいなんて言い訳できないわね…」

 若草色の瞳を細め、ユリアに御免なさいねと謝ってくる。ユリアは戸惑うも、いえ!と首を振った。


「私は、サリー・ベイクンよ。あなたの暮らす1、2年生の棟のまとめ役よ。あなた名前は?」

 サリーは姿勢を正し、お辞儀をした。ユリアは慌てて、ユリアと申しますと挨拶を返した。以前グレンさんが言っていたまとめ役はこの方だったのかとユリアは思った。平民だとわかっても態度を変えず、にこやかに話しかけてくる。珍しいタイプの人だ…!とユリアはちょっと嬉しくなった。


「私の部屋わかるかしら?廊下に出て1番手前の部屋よ。植物を沢山飾ってある扉!」

 ユリアはあぁー!と頷いた。ユリアたちの部屋の扉には上にちょっとした物を置くスペースがあるのだ。ユリアの近くの部屋の人は高価そうな小物であったり、小さめの絵画などを置いている。その人の個性が垣間見える空間でもあるのだ。

 サリーの部屋は特に印象に残っていた。スペース一杯に鉢植えが置いてあり、珍しい植物がこんもりと生えていた。また、扉のプレートにも蔦のようなものが巻き付いており、植物が余程好きなのだなとユリアは通るたびに気になっていたのだ。


「何か困った事があれば、私に相談して良いのよ!部屋に来てくれれば、試験前以外はいつでも話を聞くわ」


 サリーはそういうとユリアにハグをして、じゃあね!と去っていった。ユリアはかなり感動した。こんなに気さくな女の人が近くにいたなんて…!

 寮ですれ違う1年生はユリアに絶対話しかけないし、むしろ居ないもののように扱ってくる。リリアンヌ達の部屋は遠く、タイミング的にも会うことはなかったので困らなかったが。2年生は無視はしないが、話もしない。挨拶をすれば返してくれるが、そこまで愛想は良くなかった。

 そのためサリーのように、気さくな人が居たことに感動してしまった。挨拶していないのはこちらなのに…とユリアは反省する。貴族の女の子は怖いイメージがあったので、自分からも中々声をかけるのは出来なかった。それ以前に高位の者に話しかけてはならないという決まりもあるのだが。

 ベイクン様ともっとお話ししてみたいなぁとユリアは、さっきまでサリーがいた場所を眺めた。

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