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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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林檎の木

 ユリアは基本的に好奇心旺盛や子どもである。孤児院の裏の森に入っては、花や植物、虫の観察をしていた。年上の子が本を読んでいるとどんな内容が書いてあるか教えてもらうまで尋ねていた。名前しかまだ字は書けないため、早く何でも読み書きできるようになりたいと先生にしつこく迫った。

 しかし、孤児院は常に人手不足であるためユリアにかかりっきりで教える機会が無かった。同学年の子らと比べても何でも興味を持つ子どもであるとサルランは感じていた。


 そんなユリアは公爵家からの迎えの馬車に乗ってから、ずっと黙りこくっている。いつもなら初めて乗る馬車に興奮して、窓に張り付き外の景色を眺めそうなのだが、余程気分が乗らないのであろう。

 「ユリア、フランに着いたら真っ直ぐ鑑定士様の所に伺うけど、時間はあるから街を散策してみようか。ご飯もレストランで食べてもいいんだよ。きっとユリアが知らない素敵な料理が食べられると思うよ」サルランは出来るだけ明るい声を出して微笑んだ。


 「ユリア、お肉たべたい…フランにはステーキっていうのがあるって花屋のおじさんが言ってた…」どうやら花屋のビルさんがフランに行くことを耳にし、落ち込むユリアを元気づけようと提案したようだ。ステーキのおかげで少し楽しみになったのか、ユリアは外の風景を眺め始めた。


 ユリアたちの住む町からフランまでは馬車で5時間程度かかる。ユリアの体力のことも考えて3日後に帰る予定である。町の外に出たことのないユリアにとっては、本来フランに行くことは非常に楽しいものであろう。今回は鑑定と領主様へのご挨拶だけで、孤児院には絶対帰ると何度も説得をしたのだ。家に帰れることを約束して貰ったことを思い出したのか、ユリアはフランに着く頃にはすっかりいつも通りだった。


「人がいっぱい…建物がたくさん…!おおきいー!あれなんだろうーー?」ユリアは目を忙しなく動かして街の様子を眺めた。サルランは前をきちんと見ないユリアを危なっかしく思ったのか、手を繋いで連れて行く。

 フランは領主様の領地の中で1番発展している場所だ。広場を中心に八つの街路があり、様々な種類の店が道に沿って構えている。ユリアたちが通っている路は日用品を扱う店が多く立ち並ぶ場所だった。料理道具専門店や文房具屋、鞄屋に加えて猫雑貨専門店というコアな店もあるようだ。見たこともないものばかりに興味津々のユリアは目的の場所に辿り着いたことに気づかなかった。



 「ユリア、髪が乱れてる。さぁ、ここが精霊会のフラン支部よ。」サルランはそう言うとユリアの髪をさっと整えた。

ペールグリーンの大きな建物は屋根の部分がドームになっていて、窓には美しい花が飾ってあった。ドアの上のプレートには金文字で、「全ての者に等しく祈りを」と書かれている。サルランは林檎の葉が全体に彫刻されたドアを開け、ユリアに入るよう促した。

「りんごの木きれい!町のより大きいよね、サルラン先生!」ユリアは部屋の中央にある林檎の大樹に目を惹かれたようだ。ユリアの住む町にある精霊会にもお祈りの為の林檎の木があるが、これ程大きくはなかった。また、林檎の木の葉もこちらが大きく、瑞々しい色合いであった。「そうね。本当に素敵な木だね。でもユリア、お祈りの場だから声を抑えてちょうだい」サルランはユリアの肩に手を置き、はしゃぐのを宥めた。幸い周りには祈りに来た人はいなかったが、精霊様の御神木の前で騒ぐのは気が引ける。



 「こんにちは。私、精霊会フラン支部の鑑定士ドジャでございます。公爵家からのご紹介があったユリアさんとルート様でいらっしゃいますかな??」

 白髪の小柄な老人が二人に声をかけてきた。ユリアはサルランの後ろに隠れ、こくりと頷いた。

 「こんにちは。私、孤児院を管理しております、サルラン・ルートと申します。本日は貴重な時間を割いていただき有難うございます」

「こちらこそ宜しくお願いします。早速ですが、鑑定の儀を行いたいと思います。ユリアさん、緊張することは何もありませぬ。心を穏やかにしてください」鑑定士はにこりと笑って、奥の部屋へと案内した。


 「ルート様はご存知でしょうが、鑑定の儀は地下で行います。ユリアさん魔法石はお持ちですね??」

 ユリアが頷いたのを確認すると、鑑定士は鍵を懐から取り出し、地下への扉を開けた。そして蝋燭に火をつけると階段を降りて行く。



 「直ぐに部屋に灯を灯しますのでそちらでお待ちください。」地下室へとたどり着くと鑑定士は蝋燭の火を灯して回った。部屋には林檎の葉が彫刻された台座と棚のみがあり、棚には四つの箱が並べられていた。鑑定士は台座の側に立つとユリアに微笑んでこう言った。


「それでは魔法石鑑定の儀を始めましょう。」


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