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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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親切心

読みやすい改行がわからない…

 ユリアの花壇騒動は瞬く間に町中に広まった。きっとあの光景を見ていた大人たちが帰宅後家族に熱心に語ったのであろう。村と言ってもいいような小さな町であるから、噂話はほぼ全員に伝わったと言っても過言ではない。


 ユリアは自分の話でもちきりだという事も露知らず、子供たちと絵を描いていた。周りは兎や虫、先生の似顔絵などを描いている中、ユリアは紙をはみ出さんばかりの大きなケーキを描いている。

 ふわふわのスポンジ、甘いホイップクリーム、そして綺麗に飾られた林檎の蜂蜜漬け…!ご褒美として貰った林檎ケーキの余韻に浸るユリアは、クレヨンで唯一書ける自分の名前を端に書くと満足げに絵を眺めた。


 「ユリア、ちょっといい??お話があるの」

 サルラン先生が執務室から顔を出し呼びかけた。

 「はーい!先生」

 ユリアは完成した絵を大好きな先生にも見せてあげよう!とくるくる丸めて走った。

 執務室に入るとサルラン先生は扉を閉めた。子どもたちは執務室に入る機会が滅多に無いので、ユリアはキョロキョロとあたりを見渡す。壁に備え付けられた本棚にはユリアが持ち上げることもできなさそうな事典や本が詰まっている。書斎机には大量の書類や手紙が積まれており、お世辞にも整理整頓されているとは言い難かった。

 他の先生と違って執務室にこもるサルラン先生にもっと遊ぼうと迫っていたことをユリアは反省した。先生はユリアに椅子に座るよう促し、引き出しから一枚の手紙を取り出した。


 「ユリア、領主様からあなたを公爵家の魔法士候補生として迎え入れたいとの知らせが来たの」サルラン先生は悲しげにユリアを見つめた。

「こうしゃくけ?まほうし…?」

 ユリアは聞いたこともない言葉に困惑した。全く意味がわからない。先生と単にお話しができると思っていたユリアは、いつもと先生の様子が違うことを感じ取りそわそわした。

 「公爵家は私たちの領主様のことよ。魔法士はね、精霊様の力に恵まれた人がみんなの為に力を使う素晴らしい職業よ。あなたの才能を見込んで、領主様の下でお勉強ができるよう取り計らってくださるそうよ」分かっているのかどうか怪しいユリアの顔を見た先生は、覚悟を決めたのかこう言った。


 「あなたは孤児院を出て、ここから遠い領主様の町で暮らすのよ」

 ユリアは真っ青になった。ユリアは孤児院を出て行く…?おともだちやサルラン先生と遊べなくなるのでは…?小さな頭の中では、まだ何故自分が出ていかなければならないのかきちんと理解していなかった。自分の起こした奇跡の事さえよく分かっていない子どもである。才能があると言われたことよりも、大好きな家を出て、知らない土地に連れて行かれるかもしれない不安で頭がいっぱいだった。そんな様子のユリアを見て先生は心の中でひどく後悔した。

 「ユリア、領主様の町はここよりもずっと大きくて、美味しいものも沢山食べれるのよ。ユリアの好きな甘いものもあるかもしれない」

 ユリアがケーキの絵を持っていることに気がついたサルランは、ユリアの好物の話を出す事で元気付けようとした。

「ユリア甘いものも好きだけど、ここがいい!ユリアみんなとずっといたい!」ユリアは大きな瞳に涙を溜め、部屋の外に飛び出してしまった。




 やはり立場的には非常に難しいことではあるがお断りすべきだったのだ。サルランはユリアの悲しそうな顔を思い出し、ため息をついた。

 公爵家の魔法士は将来安泰の誰もが憧れる職業だ。広大な領地を管理する公爵家は特に魔法士育成に力を入れており、加護の力に恵まれたものを候補生として7歳から12歳まで指導する。その間もちろん衣食住は公爵家によって保証される。

 12歳になると公爵家お抱え魔法士になるための試験があり、それは非常に難関であると有名であった。しかし、魔法士の試験に落ちたとしても、公爵家の教育を受けた人材は何処でも歓迎されるし、運が良ければ領の役人として働くことも可能であったことから、平民にとっては候補生に選ばれるだけでも将来安泰という認識であった。

 そんなことから、先日の騒動を見た大人が気を利かせて領主様に報告したのであろう。あの日は領主様に品物を収める商家の者やなんらかの形で繋がりを持つ者が参加していたはずだ。そうでなければ領地の端にある小さな町の情報が領主様の耳まで及ぶとは考えられない。

 大変栄誉あることだと分かってはいたが、サルランはユリアを候補生として送り出すのは気が進まなかった。なにせまだ自分の置かれている状況すら理解できていない幼な子である。やると決めたことは真剣に取り組む芯のある子であるし(原動力は大抵食べ物に関する事だが)、あれほどの才能を持っているとなれば、候補生として何も問題もないだろう。


 だが候補生はユリアと2歳も離れている上、大抵が子爵家や男爵家の子供たちだ。まだ字も読めない平民の子が年上の貴族の子供らに囲まれて学ぶなど、容易ではないとサルランは考えていた。せめて7歳になってからでないと…7歳になれば平民の子でも読み書きはある程度出来るし、貴族が多い環境で暮らすにあたっての注意点など2年間で教えることができるだろう。

 しかし、領主様からは魔法石の鑑定の儀を特例で早めに行うよう通知がきている。鑑定の儀は領主様の住まわれているフランで行われるので、その際に領主様にお会いして7歳までお待ちいただけないか失礼を承知で尋ねようとサルランは考えた。




(ユリアはみんなといたいもん…領主さまのところなんて行きたくない…)

ユリアはベットに潜り込み、これから自分の身に起こることへの不安を募らていた。

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