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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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小雨

 今日は生憎の雨だった。ぱらぱらと屋根に当たる音が教室に響き渡っている。時間ぴったりにネクシア先生は現れると、今日の講義はマナー講座を行うと告げた。

 ネクシア先生は一枚の紙をユリアに渡すと、声に出して読むよう伝えた。


「貴族社会で最低限守るべきマナーについて。一つ、目上の方が名乗る前に名乗ってはいけない。一つ、目上の方の話を遮ってはならない。一つ、基本的に目上の方を呼ぶ際は、苗字に様をつける。愛称や名前などは相手の方の許しなく呼んではならない。一つ…」ユリアはすらすらと読んでいく。


「貴方はもうすぐ座学にも参加してもらいます。必然的に貴族の方との関わる機会も今より格段に増えるでしょう。ですので、この紙に書いてあることは必ず頭に入れておくように」

 ネクシア先生はそう言うと、もう一枚紙をユリアに渡した。


「これは、座学で使う教科書リストと予定表です。教科書は部屋に今日届くでしょう。どの授業にどの教科書を使うかまとめましたので、確認して授業に臨むように」

 ネクシア先生は淡々と告げる。


「ありがとうございます!あの…ネクシア先生の講義はどうなるのですか?」

「次の授業で最後になります。貴方は既に座学に参加できる程度には成長しました。ですから、読み書きの講師としての役目は終わりです」

「そうなんですね…」

 ユリアは次で最後と聞いて落ち込んだ。ネクシア先生は表情は変わらないし、最初の印象は少し怖かったけれど、決して嫌な先生ではない。むしろユリアを元気付けるような言葉もかけてくれたし、ユリアがここまで読み書きできるようになったのもネクシア先生のおかげだ。


「今日は残りの時間を使って姿勢とカーテシー、淑女の振る舞いのおさらいをします。では、まず姿勢の確認から…」

 ネクシア先生は悲しむユリアをチラリと見たが、講義をすぐに始めると言った。

 ユリアも残り少ない先生との時間を大切にしようと、すぐに切り替えて真剣に臨んだ。





 

 ネクシア先生との授業が終わると、テトがいつものようにやって来た。今日は雨が降っているから、学舎に寮から軽食の出店が来ているという。雨の日は寮に戻るのは大変だから、大抵みんな教室で食事を取るそうだ。案外貴族の人たちは意外と臨機応変に対応するのだな、とユリアはそれを聞いて思った。

 テトと少し話しているとパトリックとマックスもやって来た。2人は出店で貰ってきたランチボックスを持っている。

 パトリックはユリアとテトにボックスを渡した。マックスも人数分の椅子を近くに持って来てくれた。皆が着席すると、テトは1番に昼ごはんを食べ始めた。



「ユリアさん。今日は雨だから午後の実習は中止らしいよ。いつもは座学が代わりにあるんだけど、今日は先生方の都合が悪いようで休みになったんだ。だから僕たちも午後は何もないみたい」パトリックは残念そうに言う。


「今日はいつもよりゆっくり昼食が取れるな。午後から何もないって最高」

 マックスはそう言うとトマトパスタを頬張った。

「今日はユリアさんは講義どうだった?」

 パトリックが話をユリアに振ってくれた。


「…んっと。次の講義で読み書きの授業は終わりだそうです。私も来週から座学に参加して良いと言われました!」

 ユリアはミートボールを急いで飲み込んで、答えた。


「しゅごいでございますな、ひゅりあどの!」

「テト、口いっぱに詰めたまま喋るんじゃない」

 マックスがテトをじろりと見た。テトはもぐもぐとまだしている。


「来週からユリアさんも座学かー!にしても、もう参加できるほど読み書き出来る様になったんだね。ユリアさんあんなに頑張ってたもんね。凄いなー!」

 パトリックは拍手をしてユリアを褒めちぎる。


「……よかったじゃないか。俺らの近くの席に座ってもいいが、パトリックの隣は俺だからな」

 マックスはユリアをチラリと見るとそう言った。


「皆さん、ありがとうございます!」

 ユリアは嬉しくて、立ちあがって3人にお辞儀をした。





「お前、生意気なんだよ!」

 


 突然廊下の方から大きな怒鳴り声が聞こえた。何があったのか、ざわざわと人の話し声も聞こえて来る。


「ん…?どうしたんだろう」

 パトリックとマックスが廊下の方を覗きにいく。


「また、あいつかよ。可哀想に、また絡まれてるのか」

 状況を察したマックスがボソリと呟く。


 ユリアとテトも気になって、部屋を出た。人だかりに目をやると中心に図書室の黒髪の少年とベリムスがいた。ベリムスは大きな声で黒髪の少年を怒鳴っている。ユリアの方からは少年の顔は見えなかったが、ただ黙ってベリムスの言葉を聞いているようだった。


「平民のくせに、なんだお前!謝れよ」

 ベリムスは少年に今にも掴みかかりそうだ。




「リゲル殿…!なんて事だ!わたくし助けてくるでございます」

 テトは少年が誰か分かると飛び出そうとした。

「おい。やめとけ。テトがいくと余計話がややこしくなるだろ」

 マックスがテトの首根っこを掴んで制止した。


「で、ですがリゲル殿が…」テトは少年がベリムスに怒鳴られているのを見て、焦った顔をしている。



「おい!何とか言ったらどうなんだよ。お前が俺にぶつかったんだろう。謝れよ、おい、平民」

 ベリムスはとうとう少年の胸ぐらを掴んだ。周りの人も「謝れ!」と同じように叫んでいる。遠くでそれを見守っている女の子達は、おろおろと心配そうに様子を見ていた。


「僕が行く」


 パトリックは少年を助けようと向かおうとしたその時、


「申し訳ございません!」反対側から薄紫の髪色に眼鏡をかけた少年が急いで走って来た。


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