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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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御令嬢方

 ユリアが候補生になって3週間が経った。読み書きの授業も順調に進み、メモもある程度取れるようになった。また、子どもの絵本から始まった音読も、年相応な小説を読めるくらいには成長した。

 ネクシア先生は暇があるなら、ひたすら本を読みなさいとおっしゃっていたので、人の少ない時間に図書室に足を運んでいる。自分で読めそうな本を見つけては、手当たり次第に読んでみた。また、休日も本を書き写したり、音読したりと自主的に読み書きの勉強を進めている。早く字を書けるようになって、サルラン先生や孤児院の皆んなに手紙が書ければなと、ひそかにユリアは思っていた。



 実習ではじゃがいもを作るために、ひたすら畑を耕している。土属性の魔法士になると魔法で簡単に耕せるそうだが、ユリア達は魔法はおろか加護の力もまだ使うことはできない。

 夏が終わり涼しくなった頃にタネ芋を植えるのだとポポラ先生は言った。そのためにも、まず畑を整えて畝を自力で作る必要があるのだと説明した。1年生は初心者なので、長めにその準備期間を取っているという。テトとユリアは少しではあるが経験があるので、さほど鍬の扱いは苦労しなかった。しかし、パトリックとマックスは鍬はおろか土すらまともに触れたことのない御坊ちゃまだ。慣れるのに非常に時間がかかっている。

 今日もユリア達は鍬を一生懸命振りかざし、土を掘り起こす。大きな石ころが混じっているので、まずそれらを取り除かなければならないのだ。よいしょよいしょと土をかき混ぜては、石を拾い外に投げる。帽子をかぶっていても、汗は滝のように流れていく。畝を作り始めるまではまだまだ時間がかかりそうだなとユリアは広い畑を見て考えた。

「あぁ…終わる気がしねぇ」マックスは土だらけの手で額の汗を拭った。

「マックス殿、おでこに土がついているでござります」テトはそう言って拭いてあげようとするも、マックスが断固として拒否する。

 いつもの2人の光景に、ユリアとパトリックは苦笑いをした。パトリックは、ふと遠くを見ると動きを止めた。


「ん…?何でこんな所に水属性の子達がいるんだ?」

 パトリックは畑の近くの道に数人の女の子達がいるのを見て、訝しげな表情を浮かべた。


「皆様ご機嫌よう。まぁ、ルワン様!美しいお顔に汚れがついておりますわ!」その中の1人がいそいそと畑近くにやってきた。だが近くと言ってもルワンが居る位置に近い道の端に来ただけで、畑に入ってこようとする気配は一切無かった。ユリアはその後に見覚えがあった。食堂でユリアを馬鹿にした3人組の金髪の子である。よく見ると残りの2人も後ろの集団に混じっていた。


「ルワン様!実習時間はとうに過ぎておりましてよ?わたくしたちは、近くの湖で実習がありましたの。ルワン様がこちらにいると聞いたので、皆で寄ったのです」金髪の子は明るいブラウンの瞳をきらきらさせてパトリックを見つめた。


 ポポラ先生は何処かに行ってしまったようだ。終わりの時間だと告げず、その辺で昼寝をしていることもよくあったので、特に皆気にしていない。それよりもユリアはあの子に見つからないようにしなきゃ…ということを気にした。さり気なく近くにいたマックスの影に隠れるも、金髪の少女は目ざとくユリアを見つけた。


「あら。あなた土属性の加護だったのね」少女は馬鹿にした笑みを浮かべる。

「ルワン様、このような者達に囲まれて大層苦労されているのでしょう…いつでもわたくし、相談に乗りますわ!」ユリアには冷たい視線を送った少女だが、パトリックにはうっとりとした表情を浮かべている。


(この子はパトリック様が好きなのか)

 ユリアは何となく状況を察した。


「フィアカート様。僕は彼らにお世話になっている側ですよ。ですので相談することも特にはありません。風が吹いてきたので、冷えたらいけません。お戻りになられた方が宜しいのではないでしょうか」パトリックは穏やかな笑みを浮かべ、フィアカートと呼ばれた少女に優しく伝えた。


「まぁ。ルワン様、わたくしのことはリリアンヌとお呼びくださいまし。あと心配してくださってありがとうございます!では折角ですので、ルワン様も途中まで一緒に戻りましょう!」リリアンヌはきゃっきゃっと1人で嬉しがっている。


 パトリックは困った顔をしていたが、面倒臭さそうにマックスが行けよ!と手をひらひらさせたので、仕方なくリリアンヌとその御一行と帰っていった。テトは話に興味がなかったのか、お腹減ったなぁーといってパトリックの鍬も抱えて、物置小屋に入っていった。

 畑にはマックスとユリアが残っていた。マックスは黙ってユリアの鍬を奪うと同じく物置小屋に向かって行った。ユリアは有難うと礼を言ったが、マックスは返事をしなかった。

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