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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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優しさ

 今日は一日ネクシア先生の授業だ。明日が期限の写しがきの課題も既に終わっていたので早めに提出した。ネクシア先生は特に何も言うことなく、ぺらぺらと紙を確認した。問題は無かったのか、教卓の端の方に置き、ユリアの方を見た。


「今日はどこまで文字表を覚えているか、まず確認します。私が発音する一文字を書いてみてください。それでは…」

 ネクシア先生は淡々と発音していく。ユリアは聞き漏らさないよう、必死に書き取っていった。


 ネクシア先生は文字表の最後までを言い終わると、ユリアの紙を持ち上げた。するどい視線できっちり一文字一文字確認していく。全て確認し終わると、片眉が少し上がった。


 (間違えて覚えてたかな…?)

 

 ユリアは先生の反応を見て焦った。元々文字を覚えたいと孤児院にいた時から願っていたことなので、文字を覚える作業は苦痛では無かった。そのため、しっかりと課題もこなし、復習もしていたつもりなのだが…


「どうやら、次の段階に進んで良さそうですね。簡単な単語の綴りから覚えていきましょう」

 ネクシア先生はそれだけ告げると鞄から資料を出し、ユリアの机に置いた。資料にはイラストに綴りが書いてある単語表であった。りんごや木、山など身近な単語の絵と綴りが書いてある。

 綴を覚える段階に進むとは思っていなかったので、ユリアは俄然やる気が湧いた。


「ユリア、がんばって早く覚えます!」

 ユリアはネクシア先生に向かって拳をぎゅっと握って意気込みを伝えた。


「ユリア。あなたは自分のことをユリアというのをやめた方がよいかと」ネクシア先生は無表情でそう言った。


「平民ではどうか詳しく知りませんが、一般的に自分のことを名前では呼びません。わたし、もしくはわたくしと呼ぶのが基本です。恥ずかしい思いをしないためにも、今からは気をつけなさい」


「はい…先生」

 先生の注意を受けたユリアはちょっと落ち込んだ。孤児院ではおかしいと言われなかったので、ユリアと自分で言うのは普通だと思っていたのだ。何かちょっと出来た気になったら、出来ないことに気がついちゃう…ユリアはしょんぼりとしてしまった。


「色々と立場的にも大変でしょうが、文句をつけられる点は出来るだけ自分で潰しておくことが大切です。完璧になれとは言いませんが、相手にわかりやすい弱点を見せたままではいけないと思いませんか?」ネクシア先生は淡々と言い放った。


 言い方は特別優しいわけではないが、ユリアのために現実的なアドバイスしてくれたのだと理解した。


「また、姿勢やお辞儀なども改善する必要もありそうですね。まぁ、それは午後の講義で教えましょう。まずは簡単な綴りから覚えていきましょう。まず1ページ目から開いて」


 ユリアは黙々と綴を写していった。昼休憩の鐘が鳴った頃には洋紙を埋め尽くす程度書いていた。ネクシア先生はまた後でと言うと職員室に戻っていった。





「ユリア殿ー!お昼を一緒に食べに行こうでございます」

授業の片付けを行なっていると、テトがひょこりと扉から顔を覗かせた。


「え!いいの?」ユリアはパッと顔を輝かせた。1人で食べるご飯はやっぱり寂しかったのだ。


「ユリアさん、僕たちも一緒だよ。」テトの後ろにはパトリックとマックスもいた。マックスは不機嫌そうにユリアを見ている。


「俺はお前達と食べたいわけじゃないからな。パトリックがどうしえもと言うから来ただけだ」マックスは腕を組んで言った。


「まぁ、まぁ。とにかくカフェに行こう。早く行かないと席がなくなってしまうよ」


 パトリックはユリアの鞄をさらっと奪うと、カフェに向かった。ユリアは自分で持ちます!とも言う間もなく、ついて行くことになった。


 カフェは、学舎と男子寮の間ある小さな店だった。男子寮の方には行ったことが無かったので、ユリアは初めて見た。カフェは煉瓦造りの可愛らしい装飾が施された店だった。表側がガラス張りで、外側に開放されている。深みのあるグリーンのパラソル付きのテーブルがいくつも店の前に用意されていた。既にテーブルは殆ど埋まっており、生徒達は楽しそうにお喋りをしている。ユリア達は端の空いていた所に座った。


「天気が良くて、暖かい日だけオープンするんだよね。人がいつも殺到するから座れて良かった」パトリックはニコリと笑うと隣に座るユリアにメニューを渡してくれた。


 ユリアはどきりとした。メニューなど未だ読めないからだ。しかし、読み書きができないと言うのも恥ずかしかった。


「わたくしは、おすすめランチにするです」テトがそう言ったので、皆同じものを注文することになった。


「ところで、ユリアは午前中何の授業のだったんだい?」

 食事が来るまでの待ち時間に、パトリックがユリアに尋ねてきた。


「その…わ、わたしは読み書きが出来ないので、公爵様が先生をつけてくださりました。な、なので読み書きを勉強していました。読み書きも出来ないのに候補生なんて…ばかみたいですよね」ユリアは無理に笑うと俯いた。


「別に恥ずかしいことじゃないだろ。平民は俺らと違って読み書きを習う時期が遅いんだろ?テトなんて、間違えだらけだしな」ずっと不機嫌だったマックスがユリアをフォローしてくれた。


「あ、ありがとうございます!」


「………」マックスはそっぽを向いた。


「マックス殿は優しい方であらせらる。わたくしが教科書で読めない所があると、毎回教えてくださりますですぞ」テトは興奮しながら言った。


「うるさいぞ!平民なんかのせいで、俺たちの講義が遅れるのが嫌だから教えてやってるだけだ」

 マックスはテトを睨みつけるも、耳が真っ赤になっていた。それをパトリックはニコニコと眺めている。


 そんな話をしていると食事が運ばれてきた。

サラダにチキンのトマト煮込み、ガーリックトースト、野菜スープ。食後にコーヒも来るそうだ。


 美味しそう!とユリアは目を輝かせた。テトはすんすんと匂いを嗅ぎ、お腹を鳴らした。それをマックスがじろりと見たている。

 パトリックが、さぁ頂こうと声をかけ、皆んなでランチに舌鼓を打った。




 誰かと食べるご飯の方がやっぱり美味しいと、心から感じるユリアであった。

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