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アウレリアの乙女達  作者: たぬきしっぽ
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初講義

 読み書きの先生は、表情があまり変わらない女性だった。合うや否や、ネクシアと呼ぶようにとだけ告げると、ユリアがどの程度字を理解できるか簡単なテストが行われた。紙が全く埋まらないのを見た先生はすぐに回答用紙を取り上げ、基本的な文字表をユリアに渡した。

「マナーについても教えるように伺っていますが、まずは読み書きが優先です。今日は文字表を暗記してもらいます。綴などは次回から勉強するので、この表を講義が終わるまで可能な限り暗記してください」ネクシア先生はそれだけを告げると、懐から懐中時計を取り出した。


「まず、一つずつ発音して、音と文字を結びつけましょう」ネクシア先生はユリアの側に立ち、文字を指でさしながら一つづつ発音していく。


 (どうしよう…覚えれるかな…)

 ユリアはそう心配しながらも、自分なりに真剣に取り組んだ。


 あっという間に講義は終わり、ネクシア先生は帰り際にユリアに課題を出した。文字表を書き写したものを10枚明後日までに提出せよとのことだった。忘れないうちに今日やろうとユリアは決意した。



 午後の実習まで時間があったのでユリアは昼食を取った。当然自室である。今日はハムとアボカド、トマトのサンドウィッチを食堂のおばさんが渡してくれた。おばさんから授業はどんな感じ方聞かれたため、午後から実習があると伝えたところ、それは頑張らなきゃとメニューにないものを作ってくれたのだ。硬めのパンにマスタードソースが染みて、とても美味しかった。


 味わって食べていると、実習の時間になってしまった。ユリアはグレンから昨日教えてもらった実習場所に急いで向かった。そこは、公爵家の敷地の外れにある畑だった。畑といっても、栽培も土も耕されていないただの土が広がる場所だった。木々の日陰で、子どもが3人休憩している。身なりからして貴族の子が2人で、1人が平民の子のようだ。平民の子は1人離れたところで、何かに夢中なのかしゃがんで地面を見ていた。

 ユリアがそっと彼らに近づいくと、話がぴたりと止んだ。


「おい、もしかしてあの子じゃないか?」

「やめなよ。見過ぎだって。失礼じゃないか」

「別にいいじゃないか」貴族の子がひそひそとユリアを見ながら話している。


「…こんにちは」

「こんにちは」

ユリアが控えめに挨拶をすると、背が高い方の貴族の子だけが挨拶を返してくれた。ベージュの髪に淡い青い瞳が印象的な男の子だった。髪色と同じ石のペンダントがユリアは目に入った。

藍色の髪に濃いブラウンの瞳の子は嫌そうな顔をして、あからさまに無視した。彼も瞳と同じ色の石のペンダントを付けている。

「パトリック、構わなくていいだろ。こいつ平民だぞ?」

「平民だろうが、貴族だろうが候補生としては同じ立場だよ。純粋に実力で評価されるんだから、生まれなんて関係ないって、いつも先生もおっしゃってるじゃないか」パトリックと呼ばれた子はそういうとユリアに、手を差し出した。

「僕はパトリック・ルワン。子爵家の次男だ。そして彼がマックス・オーレン。オーレン家の三男だよ。これから宜しくね」

「あ、あの…ユリアです…宜しくお願いします」ユリアはおずおずと手を握り返した。


 マックスはわざとらしくそっぽを向いた。

「馬鹿らしい。優等生のパトリックは本当に真面目だな。したいようにすればいいさ。俺は仲良くする気なんてこれっぽちもないからな!」マックスはそう言うとユリアを睨みつける。


(…どうしたらいいんだろう)


 パトリックがマックスを宥めるのを見ながら、ユリアは心配になった。


「あ、そうそう。テト?おーい。ユリアさんに自己紹介して」

パトリックが会話に入らず地面を見つめる少年に声をかけた。

テトと呼ばれた少年は余程夢中なのか、全く反応しない。それを見たマックスは、無礼だ!と喚く。

パトリックは苦笑いして、ユリアに説明した。


「彼はテト。君と同じく平民の生まれだ。彼はね、自然のものには何でも興味があるようで、気になる花や草を見つけると周りが見えなくなってしまう。今は雑草に夢中みたいだね」


ユリアがテトに視線を向けると、ぽっけに雑草がパンパンに詰められているのが見えた。


「テト!テート!」パトリックはテトの前でパチンと手を叩いた。テトは何事!?という表情で顔を上げた。黒髪に、ここらでは珍しい細い目の少年だった。どことなくイタチに似ているとユリアは心の中で思った。


「な、なんでござりまするか!?ルワン殿…」

「テト。新しい仲間だよ。この子はユリアさんだよ」パトリックがユリアを紹介すると、テトは頭が地面につきそうなくらい頭を下げた。


「わ、わたくしは、テ、テトでござりまする」

「いい加減、お前はちゃんとした言葉遣いを覚えろ」マックスはテトに言い放つ。

「マ、マックス殿!大変失礼しましたでございまする…!」

「なんでパトリックは苗字なのに、俺は馴れ馴れしく名前で呼ぶんだよ!!」マックスは大声で叫ぶ。

その後もマックスはテトにいつもお前は態度が悪いと説教するも、テトは笑顔で頷いている。マックスは諦めたのか、ふんっと鼻を鳴らし背を向けた。



(あれ…?意外とオーレン様とテトさんは仲がいいのかな?)


ユリアがそんな光景を眺めていると、パトリックが側にやってきた。


「ユリアさん、先生がお越しのようだよ」パトリックの視線を辿ると、森の中から大きな帽子を被った小柄な老人が現れた。



「あーい!みな、おるな。実習はじめるどー」


白い髭をたっぷりと蓄えた老人はそういうと、よっこらせと背負っていた籠を地面に降ろした。


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